防御特化と第九回イベント。
月日は過ぎて、いよいよ第九回イベントの開始の時がやってきた。メイプルとサリーはギルドメンバーと共にギルドホームでイベントの内容を確認する。
「今回は対人要素は一切無し。全プレイヤーで協力してイベント期間中にどれだけ限定モンスターを倒せるかだって」
「なるほどー。全員で協力だったら私達も皆のために頑張らないとね!」
「ふふっ、マイペースに頑張れば大丈夫だよ。こういうのは凄い勢いで討伐する人いるし……」
随分と前に行われた第三回イベントでのモンスター討伐でも、頭一つ抜けた討伐数を誇るギルドがいくつもあった。今回も似た形式である以上そうなることは予想できる。
「まあそれはいいとして、討伐数が一定数に到達する度に報酬が貰えて、最後までいければ八層で役立つアイテムが手に入るんだって。その他にもメダルとかお金とか……」
「おおー!じゃあなおさら頑張らないとだ!」
「だね。期間は長いし、どの層にも限定モンスターは出てくるみたいだから、好きな所で狩れば大丈夫」
「目標討伐数も出てるしな。とりあえず俺は毎日どれくらい討伐されるか確認しつつやるか」
「そうね。案外あっさり達成しちゃうものだものね」
「ゴールもそこまでシビアには設定されていないだろう。私はモンスターが落とす素材をメインに考えるとしよう」
クロム、イズ、カスミの三人は他のプレイヤーの様子も見つつ、適度に倒しながらモンスターが落とす素材をメインに置いてイベントを進める予定である。
「ユイ、私達はどうしよっか」
「うーん……どの場所でも倒せば一体になるから、戦いやすい場所を選ばない?」
「そうだね。レベル上げがしたいわけでもないし……」
ユイとマイはどこまでいっても一撃で倒されてしまうHPなため、特に競い合う必要がない今回のイベントはのんびりと楽しむことに決めた。
「僕もゆっくり遊ぶことにするよ。あ、暇があったら他のプレイヤーでも見てこようかな。対人戦気にしてたみたいだし」
「……!ありがとう、助かる」
「いやいやー、でもあんまり期待しすぎないでね」
カナデはサリーにそう言って笑っている。今回のイベントはそこまで張り詰めてやる必要がないものだったため、それぞれに目標を決めて遊ぶこととなった。
「何か面白いものでも見つけたら報告するか。モンスターも何種類かいるしな」
「そうね。いい素材を落とすモンスターが限られてたらそれを優先して倒してもらえると助かるかしら」
限定モンスターがイベント後にどこかに現れるのかは分からない。となれば集められるものは集めておきたいわけだ。
「じゃあ何かあったら教えるってことで!」
メイプルがざっくりと情報共有していこうという旨を伝えると一旦全員で各層モンスターの種類に違いがあるかなどそれぞれ確認してみることになった。
イベント自体はシンプルなものだったため、メイプルとサリーは内容の確認を終えたところでフィールドへ向かっていく。メイプル達は最もモンスターが強い七層に行くことができるプレイヤーの一人なため、他の層は他のプレイヤーに任せることにして七層で討伐を始める。
いつも通りサリーに馬を用意してもらい、メイプルが後ろに乗ってフィールドを駆けていると、早速今までに見かけなかったモンスターがいることに気がついた。
「私が召喚する魚みたいなのがいるね」
「あれでいいの?」
「うん、あれが今回の限定モンスター」
いつも通りのフィールドに新たに現れた空中を泳ぐ魚の群れ。これを倒すことによって討伐数を稼ぐことができるのだ。
「モンスターにもいくつか種類があるみたいだし、強いモンスターなら珍しい素材とか落とすかもね」
「じゃあどんどん倒していかないとだ!」
「と言っても、皆で討伐数を稼ぐのが目的だからとりあえず人の少ない所に行こうか」
「その方が効率的ってことだよね!」
「そそ、どこにでも出るみたいだからさ」
要求討伐数はかなり多い、期間も長く取られているとはいえコツコツ数を積み上げるより他にない。いつにもまして人の多い街の近くは他のプレイヤーと競合が起こるため、二人は離れることにしてマップの端を目指していく。
そうしてしばらく走った所で二人はゴツゴツとした岩の並ぶ荒地にやってきた。適度に見通しが良く、これといって特殊なモンスターやギミックの存在しないここは討伐数を稼ぐのに適切な場所と言える。サリーは馬から降りるとメイプルに手を貸して、近くに馬を待機させる。
「よしっ!早速探していこー!」
「この辺りを探索して、あんまりいないようなら移動する感じで」
「分かった!」
二人が周囲を少し探索すると、目的としているモンスターはあっさりと見つかった。それは青い光を漂わせながら空を泳ぐ熱帯魚の群れで、サリーがスキルで呼び出すことができるものによく似ている。当然荒地にこんなモンスターがいるわけがないため、イベント限定なのは一目瞭然である。
「さて、どんなものか試してみよう!」
「うん!全力で行くよーっ!」
サリーが分身を生み出しながら駆け出し、メイプルはその後ろで兵器を展開する。手を抜くことはしないと、ボスと相対した時のように全力の攻撃を叩き込む。モチーフが魚のモンスターとはいえ、わらわらとどこにでもいる熱帯魚は、少しの水を生み出して攻撃する程度の力しかない。
そんな存在が二人を前にしてどうなるかなど火を見るより明らかだった。サリーは撃ち出される水を全て容易く躱し、メイプルはレーザーで無理矢理水を打ち消して、一瞬のうちに魚達は文字通り消し炭になった。
「……数を倒すってだけあって、思ったより弱いね」
「そうだね。あっさりだった!」
二人の能力が最前線を行くプレイヤーの中でも高いというのもあり、次から次に討伐されることを前提に作られたモンスターは相手ではない。
「これならどんどん倒していけるね!」
「だねー。ギルドの皆も他の所で狩ってるみたいだし、しばらく倒したら様子見に行ってみる?」
「うん、皆に負けないくらい倒していこっ!」
幸先よく一体目を倒した二人はそのまま続けて限定モンスターを倒していく。メイプルの射撃とサリーの斬撃で簡単に倒せることは分かっているため、さくさくと魚達を倒し、討伐数を伸ばす中、二人の視界に今までとは違うものが映る。
「サリー、あれもそうだよね?」
「そうっぽい。いくつか種類あるって話だったし」
岩陰から観察する先には、同じように空を泳ぐ二人よりも大きなサメがいた。
魚の群れは何度も倒した二人だが、サメを見るのは初めてである。
「倒さない理由はないね。何か落とすかもしれないし」
「よーし、じゃあ先手必勝!」
メイプルは岩陰から砲を構えるとしっかりサメに狙いを定めてビームを発射する。それは真っ直ぐにサメに向かっていき、サメの胴体にクリーンヒットするが、魚の群れとは訳が違うようでHPは減ってはいるものの倒れることなく、大きな口を開けて勢いよく二人に突進する。
「もう一発!わわわっ!?」
メイプルが続く攻撃を仕掛けようとした所で地面からどばっと水が噴き出して、メイプルを転倒させる。危険を察知してサリーが距離を取ろうとするのを見てメイプルは瞬時に防御に回る。
「【身捧ぐ慈愛】!」
幾度となく使ってきたスキルを使うべき時は、流石にメイプルにも染み付いているようで、素早く反応してサリーを守る。直後間欠泉のように噴き出した大量の水によってメイプルは上空へと吹き飛ばされる。サリーを庇った分空中で二段ジャンプをするように飛んでいくメイプルを見つつ、サリーはサメの方に駆けていく。
「今度はこっちから!」
距離を詰めるサリーにサメも大きな口を開けて噛み砕かんと向かってくるが、サリーはそれをするりと交わして深く身を切り裂いて距離を取り直す。そうして次の攻撃に移ろうとした所で遥か上空から声がかかる。
「サリー!!サメの動き止めてー!」
「朧【拘束結界】!」
メイプルの声に即座に反応してサリーはサメの動きを停止させる。わざわざメイプルが声を張って言うのだ。そこに理由がない訳はない。
直後上空で凄まじい爆発音が響き、黒い塊がサメの頭部に落下してくる。それは【機械神】によって片腕を大きな剣にしたメイプルである。
結果、メイプルは動きの止まったサメの頭を落とすように剣を突き刺すこととなった。ポロリと頭が胴から離れる中、剣を支柱に逆さになって地面に突き刺さるメイプルだったが、バランスが崩れ、そのひょうしに剣が折れて地面に転がる。
「だ、大丈夫……か。ま、そうだよね」
サリーとしても予想外の攻撃に少し驚いたものの、多少落下してきただけではメイプルがダメージを受けないことは今までの戦闘で分かっている。
「いっつもただ落ちるだけだともったいないなあって思って!上手くいったみたい!」
「そもそも普通は落ちることもそんなにないんだけどね」
自爆によって空を飛ぶメイプルならではと言える。高所から落下することは本来はデメリットであり、より良い落ち方を考えるより、落下ダメージを受けないよう、そもそも高所から落ちない方法を考える方が普通なのだ。
「あ、そうだ何か素材は……」
メイプルが立ち上がったあと周りを見渡すと、まるでスライムのように形を保った水の塊が転がっているのを見つける。
「これかな?」
「おー、どんな素材だった?」
メイプルが拾い上げて内容を確認する。それは魔力のこもった水とだけ説明があり、現状特別な使い道は専門外である二人には分からない。
「んー……イズさんに聞かないとダメかな?大事なアイテムだったら早めに集めときたいし」
サメはレアなのか熱帯魚ほどぽんぽん出てこない。もしこのアイテムが重要なものならサメ狙いにシフトしていく必要もあるだろう。
「じゃあ早速聞きにいってみようよ!ふふふ、善は急げって!」
「おっけー。そうしよっか。クロムさん達と探索に出てるみたいだけど、イズさんならどこでも工房が出せるしね」
サリーはイズにメッセージを送ると、メイプルを馬に乗せて移動を開始する。
「あ、熱帯魚は弱いって分かったし、道中辻斬りしていくよ!何かドロップするかは私が見るから」
「うん!攻撃はまっかせて!」
こうして討伐数を稼ぎつつ、二人はイズ達の元に向かうのだった。




