防御特化と【ラピッドファイア】3。
薔薇を倒したメイプルとサリーは約束通り次は後ろを歩いてリリィ達の戦いを見ることになった。
と言ってもいかにもな雑魚モンスターの木の人形はウィルバートがその大弓で一度矢を放つ度に砕け散って消えていく。
「この戦闘にならない感じはユイとマイ以外にはないと思ったけど……」
「本当に全部一発だよ!外してるところも見たことないし……」
「移動速度がメイプルより普通に速かったし、そもそも弓はDEXが高くないと取得できないスキルも多いから、攻撃極振りってことはないと思う」
遠目に見ていた時と違い分かることは、現状リリィが何かスキルを発動させた様子がないということである。目の前から来るモンスターはこれもまた一切スキルを使わずにウィルバートが撃ち落としており新たな情報は何もない。
「んー、となるとパッシブスキルか……」
リリィは自分のメイド服をレア装備だと明言している。とはいえ真偽は定かではないが、少なくとも槍使いとして一般的な武器と防具を身につけるより、あの装備を優先する理由があるわけだ。
「ま、さっきの薔薇みたいなちょっと強いモンスターに期待しよう」
雑魚モンスターは文字通り雑魚扱いなため、戦闘になるような相手が必要なのだ。そうして、リリィがくるくるとモップを回して遊んでいる中、ウィルバートがきっちりモンスターを倒し切って、再び広間にやってきた。
「ウィル、ここは何だったかな」
「キノコですね。少々厄介です」
「なら私も少し手を貸そうか。約束通りさ。それに退屈になってきていたところだったんだ」
「ええ、助かります」
そんなやりとりをする二人の前で地面から胞子が吹き出し、中央に大きなキノコが生える。それに遅れて周りにもキノコがいくつも生えてくるとそれらは意志を持って二人に向かってくる。
「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】んー……あ、【賢王の指揮】!よし、これでよかったはずだ」
「【引き絞り】【渾身の一射】」
ウィルバートの弓が赤い光を纏う中、限界まで引き絞られた弓から目にも留まらぬ速度で放たれた矢は直線状にいたキノコ全てを貫いて、その延長線上にいた大元の大きなキノコの中心に風穴を開ける。
しかし撃破とはいかなかったようで、大量のダメージエフェクトを散らしながらもほんの僅かにHPを残していた。直後HPが三割ほど回復し、辺りに大量の胞子が撒き散らされ、数十では効かないほどのキノコが生み出される。
「あれ?前はこれで倒せていたと記憶しているが」
「三割なら何とかなりますよ」
「ならもう少し手助けをしようか。【この身を糧に】【アドバイス】」
キノコ達が毒々しい色の胞子を撒き散らしながら近寄ってくる中、リリィはスキルを発動するが、特に目に見える影響は発生しない。
「ええ、では行きます。【範囲拡大】【矢の雨】」
次いでウィルバートが空に向かって矢を放つと、それは文字通り辺り一帯に矢の雨となって降り注ぐ。【範囲拡大】によって隙間のなくなった矢の雨が次々にキノコ達を貫いていく。それは大元のキノコも同じことで、特に何かをする前にウィルバートによって容易く撃破されてしまうのだった。
「いいね。気持ちいい倒し方だ」
「でしたら、一射目にもう少し……」
「あはは……それを言うなよ」
リリィは笑ってごまかすとメイプル達の方を振り返って感想を求める。
「すごかったです!弓ってこんなに強いんですね……」
「ウィルは特別さ」
「……一射目。恐らく対象ごとで一射目に威力が跳ね上がるパッシブスキル」
「へぇ……」
今回初めて見ることができたウィルバートの同一対象への二射目。サリーの知らないスキルによるバフは大量にかかっていたものの【矢の雨】については知っていた。基本的な弓のスキルで、範囲攻撃ゆえに威力はそう高くない。
しかし、ウィルバートの二階の攻撃を比べると、今までと比べて威力が激減していることが見て取れた。バフ自体はリリィによって追加された中【矢の雨】の元の威力から予想すると、何らかの大きなバフがすっぽり抜け落ちた跡があったのである。
「ほぼ当たりだよ!やるねぇ」
「嘘……じゃなさそうですね」
「言った通りさ。分かったとしても問題ない」
「そう、ですか」
「ああ。そうだ、適中の景品に、ボス戦も私達がやるよ」
「えっ、いいんですか?」
ボス戦が見られるならまた新たなスキルを知ることができるかもしれない。断る理由はない。
「ああ、そうだ。かわりに道中はお願いしてもいいかい?ここからは道が分かれ始めるけど、上手くルートを選べば今みたいな広間を避けられるし」
「はい……それはまあ」
サリーはその提案を不思議そうにしていたものの、結局、メイプル達はリリィの提案を受け入れることにして、また二人の前を歩く。そして、少し離れた位置でウィルバートはリリィと話し始めた。
「いいんですかリリィ」
「言ったろう?退屈してきたところだったんだ」
「ああ……分かりました」
「それに、並大抵のモンスターじゃあこれ以上情報は引き出せないさ。メイプルもむやみに新たなスキルは使わないだろうし、サリーは尚更だ」
ボス戦までは特にすることもないだろうと、リリィは時折正解のルートを二人に伝えるだけであとはモップを手で弄んでいるのだった。
そうして四人は問題なくボス部屋前までたどり着いた。ウィルバートのように一撃必殺とまではいかなくとも、メイプルとサリーも安定して雑魚モンスターを処理できる。メイプルがいる限り貫通攻撃を持たないモンスターには万に一つもチャンスがないのはいつものことである。
「約束通り、ボスは私とウィルでやるよ」
「はいっ!頑張ってください!何かあればいつでも……」
「はは、大丈夫さ。それよりも、よく見ておくことをオススメするね」
「……?」
真意は分からないものの、メイプルはひとつ大きく頷いて、二人に続いてボス部屋の中へ入る。ボス部屋の最奥には青々とした葉をつける枝に覆われた祠があり、その前には、子ども程度の背丈の、木の葉でできた服を着て先端に花が咲いている木の杖を持った人形がいた。道中の人形や植物達の親玉であり、それは精霊や木霊といったイメージから作られていると分かる。
「あ!前にああいうモンスターと戦ったことあるよ!」
「……ジャングルにいたって言ってたやつかな?ちょっと見た目は違うっぽいけど」
似たような攻撃をしてくるなら、強制的な装備の変更など絡め手主体となる。ただ、見た目は似ていても中身は違うということがすぐに証明される。
まず手始めと言わんばかりにボスは両脇からメイプル達が倒した薔薇を呼び出すと、さらに魔法陣を地面にいくつも展開し、そこから木の人形を次々に呼び出す。
「うん、いつ見てもいい相手だと思うね」
「ほらリリィ、来ますよ」
モンスター達が向かってくるのを見て、しかしウィルバートは弓を下ろすと、リリィとともにとあるスキル名を口にする。
「「【クイックチェンジ】」」
それと同時に二人の装備がガラリと変わる、ウィルバートはリリィと入れ替わるようにして執事服を身に纏っており、リリィはというとメイド服のかわりに煌びやかな装飾がなされた鎧を纏い、モップのかわりに紋章の入った旗を持っていた。
「【我楽多の椅子】」
リリィがそう宣言すると背後に壊れた機械の寄せ集めでできた高い背もたれを持つ椅子が出現する。メイプルの【天王ノ玉座】にも似たそれはわずかに宙に浮いており、リリィはそこに飛び乗ると召喚を続けるボスを見つめる。
「【命なき軍団】【玩具の兵隊】【砂の群れ】【賢王の指揮】」
「ではお願いしますよリリィ。【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】」
リリィの声とともにボス側にも負けないほどの量の機械兵が現れる。メイプルもサリーもそれがどの層由来のものかはすぐに理解できた。
それらはそう、メイプルが持つ兵器からは劣るものの砲や銃を携えており、質を数でカバーすることができると思わせるものだった。
そして、そんなリリィに対しウィルバートは聞き覚えのあるスキルで支援を行う。
「わわっ!?」
「役割の入れ替え……それも高水準の」
どうやっているかは置いておいて、サリーは目の前の現状を整理する。ウィルバートは弓を持っておらず、かわりに投げナイフを使っているが、先程までの威力はない。逆に一気に脅威となったのがリリィである。
リリィは次から次へと機械兵を呼び出しては射撃によって攻撃させる。何種類かの召喚スキルを併用し、それら全てにバフをかけているようで、凄まじい制圧能力になっている。
召喚された兵士を倒すことはそれほど難しくないようだが、補充される速度が速く、ボスの召喚したモンスターは押し込まれていく。
圧倒的質のウィルバートと圧倒的量のリリィ、二人はこれを切り替えつつ、もう片方がバフに徹する戦闘スタイルをとっているのである。
「ふぅ……対策しないといけないことが山積みだね」
「うん、私も頑張るよ!」
「ありがとう」
「これでもギルドマスターだからね!」
「ふふっ、そうだね」
目の前で起こる軍団対軍団の戦いを眺めつつ、二人はまた新たな強敵の登場を実感するのだった。




