防御特化と砂の下。
場所は変わって砂の下、砂岩でできた整えられた壁や床、等間隔に設置された明かりは、三人が何かの建造物の中にいることを示している。
「言っておけば良かったですね」
「うぅ、ごめんなさい。巻き込んじゃって。昔こんな感じでダンジョンに落ちたことあったから知ってたのになあ」
メイプルは第二回イベントの時も流砂に飲まれてカタツムリが徘徊するダンジョンに落とされたことがある。一部のギミックや、ボスモンスターは場合によっては再設置されていることもあるようだった。第二回イベントのフィールドには今は行けないのもあって、ギミックを再利用するのにはちょうど良い訳だ。
「あるということは知っていたんですけど。私達も入ったことはなくて……」
「ボスを倒せば経験値もその分多く入るっ……はずなので。気にせずいきましょう」
「はい!」
ダンジョン内に出るモンスターの情報はベルベットとヒナタがある程度持っていたため、変に緊張する必要もなく攻略を開始した。
「道中は上で見たようなゴーレムばかりですから、サクサクいきましょう」
事前情報によるとゴールは下の方にあるため、一直線に最下層に向かって歩いていく。全体的に見るとダンジョンは蟻の巣状になっており、いくつもの通路と広間によって構成されている。
メイプルは常に【身捧ぐ慈愛】を展開し、モンスターが見えると前方に兵器による一斉射撃を行い二人の魔法攻撃と合わせて、次々にモンスターを撃破していく。
そうして始めの広間に到着すると、地上にいたゴーレムとは違い体が全て砂でできたゴーレムが三体起き上がる。
「【攻撃開始】!」
メイプルは近づいてくる砂の巨体に、体の向きを変えて銃弾とビームを放つがそれは全てダメージを与えることなく砂の体を貫通して抜けていく。
「むぅ、駄目かあ」
「属性つきの攻撃でなければ駄目みたいですね」
それなら私達の出番だとベルベットとヒナタが魔法を準備するが、それより先に巨体は砂らしくさらっと崩れて地面に溶け込み、次の瞬間三人の目の前でまた一瞬で形を成した。
三体はそれぞれ攻撃を仕掛けてくるが、メイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲内では奇襲に意味はない。
メイプルの脳天に砂の拳がクリーンヒットするものの鈍い音がするばかりである。ヒナタもメイプルの防御範囲内にいることを分かっていて回避を放棄し水と風の魔法でダメージを与える。
「っ……【ウォータースピア】!」
ベルベットは反射的にすれ違うように回避しようとした後で、今はその必要がないことに気づいたのか、踏み込んだ姿勢でピタッと止まってから魔法を撃つことになり、むしろ無駄な動作ができて魔法がクリーンヒットしなかった。
「大丈夫みたいです!二人は攻撃に専念してください!」
改めて回避の必要がないことを伝えると、悪食も無駄遣いになってしまわないように、盾を構えずに【挑発】だけ使って棒立ちになる。一点に攻撃を集中させるため身の丈程もある拳が叩きつけられ続ける。
「ふぅ、地面が硬くなかったら埋まっちゃうところだったよ」
メイプルはその場に座ると二人がゴーレムを倒してくれるのを待つことにしたのだった。
ゴーレムは地面から砂を噴出させたり、砂でできた配下を生み出したり砂で動きを止めたりと、器用に手を替え品を替えメイプルを攻撃したものの、メイプルが砂に埋もれた程度で特に何の成果も得られないまま、魔法によって倒されていった。
「だ、大丈夫ですか……埋まっちゃってますよ」
「まあ、HPは減ってないみたいですね」
二人の目の前には山のように積もった砂と、ぴょこんと髪の毛だけが飛び出したメイプルが残された。周りの危険もなくなったため、二人はメイプルを掘り起こして砂を払う。
「ありがとうございます!モンスターは……」
「私とヒナタで無事撃破しましたよ」
「引きつけてくれて……えと、助かりました」
地上と比べてモンスターの出現頻度は下がったものの、経験値は上昇したためレベル上げも順調に進む。
「もう少し下層まで行けばモンスターが変わるはずです」
「どんな感じなんですか?」
「ミイラ?……えっと、包帯でぐるぐる巻きの見た目です」
「変わると言っても攻撃パターンなど全て把握しているわけではないですから、気をつけてください」
「分かりました!」
三人はいくつもの砂ゴーレムを撃破してさらに地下へと進む。するとベルベットの言ったように出てくるモンスターが変わり、砂がゴーレムになる代わりに砂から古びた包帯で肌が完全に覆い隠された人形モンスターが現れた。包帯の隙間から覗く目が赤く不気味に輝いており、ゴーレムのようなパワーファイターとはまた違う印象を受ける。
「こういう相手は……【天王ノ玉座】!」
六層で学んだとばかりにメイプルは純白の玉座を呼び出してそこに座り、さらに地面に光るフィールドを展開した。ベルベットはメイプルがまだそんな一般的と言えないようなスキルを持っていたことに目を丸くする。
「これでゾンビとか幽霊とかそういう感じのモンスターのスキルは結構封じられるんです!」
「なるほど。それは助かります」
事実、何かしら厄介な攻撃をするだろうと予想されていたモンスターが今やメイプルの体を引っ掻くばかりである。
「普段だと玉座も移動できるんですけど、ここだと狭いので……」
一度消してしまうと、しばらくの間は使うことができないため、シロップの背中にセットできない環境では常に使うことは難しい。
「えっと、有効なのは分かりましたし……その、ボス戦で使えると嬉しいです」
ここのボスは道中のモンスターを召喚しつつ戦う巨大なミイラで、メイプルがゴーレムだけでなくミイラも無力化できるとなればサクッと撃破して外に戻れるというものである。メイプルは群がるミイラは倒してしまおうとスキルを発動しようとする。
「よーし【捕食者】……は駄目だから【全武装展開】!」
メイプルが兵器を展開するとミイラ達は伸びてきた砲身に突き飛ばされて、地面に倒れる。動きが鈍いため、メイプルでもばら撒き以外で銃弾を命中させることができた。
「むぅ、結構HP多いかも」
砲身を直接突きつけてゼロ距離射撃を続けていると、タフなミイラ達も流石に耐えきれずにばたりと倒れ光になって消えていった。
「動きも遅いですから、引き撃ちっ……で大丈夫そうですね」
道中はメイプルの銃撃を含む三人がかりの遠距離攻撃で仕留めることにして、三人はボス部屋を目指す。【天王ノ玉座】はポンポン出し入れができないものの、【身捧ぐ慈愛】があればそれだけで楽に攻略ができる。結果、三人は一度もダメージを受けることなくボス部屋前まで辿りつくと、メイプルの【天王ノ玉座】が再使用可能になるまで待ってボス部屋へと突入するのだった。




