防御特化とレベル上げ。
メイプルとベルベットは七層へと移動すると、町の出口で友人を待つ。七層の街を歩いている間、メイプルの移動速度を見て、ベルベットは本当に遅いのだと改めて確認したようだった。
「実際見ると結構速度に差がありますね」
「うぅ、でもいくつかカバーする方法はありますよ!」
「ふふっ、そうらしいですね。あっ、ヒナター!こっちこっち!」
どうやら友人とやらが来たらしく、ベルベットが手を振ってアピールする。メイプルがどの人だろうと呼びかけた先をキョロキョロ見ていると、とてとてと一人の少女が駆け寄ってきた。黒に近い濃い紫の長い髪を後ろで三つ編みにしてまとめており、両手で少し不気味な人形を抱えている。服装の雰囲気はマイやユイに近いものがあるが、装飾などは少なく控え目に抑えられていた。
「お、遅れました……すみません」
「んー、全然!時間通り時間通り!っと、んんっ……連絡しておきましたけど、今日一緒にレベル上げに行くメイプルさん」
「よろしく!」
「よろしくお願いします……私も、が、頑張ります」
両目が長い前髪で隠れているため感情が読み取りにくいものの、ヒナタは少し強く人形を抱きしめてやる気を示しているようだった。メイプルはヒナタの人形を見て気になったことを質問する。
「それが武器なんですか?」
「あ、えっ……は、はいっ。そうなります」
「なるほど……やっぱりいろんな武器あるんだなあ。あ、じゃあベルベットさんの武器って」
「さあ、どうでしょうか」
メイプルが答えを得られず少し残念そうにしたところで、いよいよ出発することになった。メイプルは七層なら普段はサリーの馬に乗せてもらうか、シロップで飛んでいくかが多い。
戦闘だと割り切れば高速移動方に自爆飛行と【暴虐】があるものの、回数制限があるため平常時の移動には向かない。どうしたものかと考えているとヒナタが腕をつんつんとつついてくる。
「あの、メイプルさんは馬は……ない、ですよね」
「うぅ、乗るための【DEX】がないです」
「で、でしたら……私の後ろに。どうぞ」
「わー!ありがとうございます!」
このままでは【暴虐】を使ってついていくことになっていたところである。
「ベルベットは乗馬……?それがちょっと、少し、けっこう荒いので……」
「ヒナター聞こえてますよ」
「あわわ……ごめんなさい」
メイプルは落馬しようがぶつけられようがHP的な問題はないため、むしろ見るからにお嬢様という風なベルベットなら上手く乗りこなしそうなイメージだったという方に意識がいく。
「へぇー、ちょっと意外です」
「そう……そう、ですね。意外かもしれません」
何はともあれ、メイプルはヒナタの後ろに乗せてもらって先導するベルベットの後をついて目的のレベル上げエリアへと向かうのだった。
七層にはいくつも特徴的なエリアがある。モンスターを仲間にすることがメインイベントになっている都合上、五層や六層とは違い、層としてのテーマは薄く、様々な地形があるわけだ。今メイプル達の前には枯れ木と岩場が続く荒地が広がっている。
「こっちの方はあんまり来てなかったなあ」
「着きました。ここでレベル上げです」
「防御は任せてください!」
メイプルは馬から降りると早速【身捧ぐ慈愛】を発動する。メイプルからダメージエフェクトが発生し、同時に範囲内の地面が光り輝く。
「この光っている範囲から出なければ攻撃されても大丈夫です!」
「なるほど。分かりました」
「じゃあ【挑発】!」
メイプルがスキルを発動すると、空からは鷹が、岩場からは砂と岩でできたゴーレムが現れ近寄ってくる。
「「【ウォーターランス】!」」
メイプルに近づいてくるゴーレムに対して、背後から二人の声が聞こえ、二本の水の槍が飛んでくる。それはゴーレムをしっかりと捉え、確かなダメージを与える。
「私も【捕食者】!」
メイプルもダメージを出そうと両脇から化物を呼び出す。それらは大きな口でゴーレムの胴と肩に噛み付いてダメージを与える。しかし、ゴーレムも負けじと両腕を勢いよく振り下ろし、メイプルに叩きつける。【悪食】が発動しゴーレムは飲み込まれるが、振り下ろしと同時に発生した地震が三人に襲いかかる。
「うぅ……うぅ?」
「映像で見た通りですけれど、目を疑いますね」
三人に直撃したはずの地震は【身捧ぐ慈愛】によってメイプルに集中し、その防御力によって無効化された。
「防御は任せてください!貫通攻撃じゃなければ大丈夫です!【毒竜】!」
空から襲ってくる鷹はギリギリまで引きつけてから【毒竜】で対応する。鷹は毒に耐性を持ってはいたものの、大きなダメージを受けてフラフラと飛び上がろうとする。
「と、【トルネード】」
しかし、弱ったところを畳み掛けるようにヒナタの魔法が竜巻を起こし、逃げようとする鷹を逃さず撃破した。【挑発】で引きつけたためまだまだモンスターは近づいてくる。本来ならきっちり対応しなければ逆に数に押されて倒されてしまう可能性も出てくるが、メイプルが使う場合はそうはならない。
「ふぃー、よしっ!大丈夫そう」
真正面からパワーで押し切ろうとしてくるモンスターはメイプルの得意な相手である。
メイプルの想定通り、ここにいるモンスターにはメイプルへの有効打がなく、レベル上げは順調に進み一旦休息となった。
「【機械神】【捕食者】【滲み出る混沌】【毒竜】【身捧ぐ慈愛】【百鬼夜行】……んー、壮観ですね」
「えっと、助かりました。実際に目にすると、迫力が……」
今も召喚されている【捕食者】を見てヒナタは恐る恐るといった様子で口にする。【身捧ぐ慈愛】も発動し続けているため、どこででも休むことができるため、三人は岩に腰掛けて話を続ける。
「噂には聞いていましたが、すごいっ……ですね」
「えへへ、ありがとうございます」
移動速度さえ克服できればメイプルを連れてのレベル上げはとても効率がいい。攻撃だけを考えていればいいのだから当然である。
メイプルの防御能力を身をもって体感した二人は、もう少し強く、もらえる経験値も多いモンスターが出るエリアへと移動していく。
地面が砂地になっていき、先程の荒地にいたモンスターを強化した、似た見た目の鷹やゴーレムが現れる。
「攻撃力は上がっていますが、メイプルさんなら問題ないでしょう」
「はい!」
メイプルなら守り切れずなどということは起こらない。多少攻撃力や攻撃範囲が強化されたところで防御力を上回れるかそうでないかでしかないのだ。
「よーし頑張るぞー!」
メイプルは先程と同じように先頭を歩いて【挑発】でモンスターを引き寄せようとする。
「あっ……め、メイプルさん、そっちへ行くと……」
「えっ?あっ!?」
「遅かったっ……ですね」
身に覚えのある感覚と共にメイプルの体が地面に沈んでいき、三人の体は砂の中に見えなくなっていった。




