防御特化と浮遊城4。
「【全武装展開】【攻撃開始】!」
まずは先制攻撃だとメイプルが兵器を展開し上空のドラゴンに向けて銃弾を放つ。ドラゴニュートのように躱してくるならそれはそれで次の手を考えるだけのことだ。
しかし、ドラゴンは回避などしなかった。
銃弾を受けて多少のダメージを受けつつもその大きな口から輝く炎が漏れ始め、次の瞬間塔へと業火が放たれる。それは地面を炎上させつつメイプルへ一直線に向かってくる。
「メイプル!」
「か、【カバームーブ】!」
嫌な気配を感じいち早く飛び退いたサリーの意図を汲み取ってメイプルが高速移動でその隣につく。先ほどまでメイプルがいた場所は炎上しており、塔の端から端まで縦にフィールドを分割するように炎の壁ができていた。行動エリアの制限、そしてかなりの高威力であることも間違いない。
「死にはしない……かもしれないけど。嫌な感じがする。気をつけて」
「うん、ありがとう!」
「ダメージは通ってる。大技は私が読み切るから、メイプルは射撃に専念して!」
「分かった!」
「【サイクロンカッター】!」
「【滲み出る混沌】!【攻撃開始】!」
メイプルは射撃で、サリーは魔法でドラゴンにダメージを与えていく。ダメージに反応して、ドラゴンは今度は翼を大きく羽ばたかせると、大量の風を生み出して反撃する。
「メイプル!」
「【ピアースガード】!」
メイプルは防御力頼りにせずにきっちり貫通無効スキルを発動させて万が一を防ぐと、盾を後ろに隠して【悪食】も温存する。兵器こそ壊れるものの、メイプルに被害はない。継続ダメージの可能性が低そうな攻撃はこれで無効化できるため、炎などでの地形変更を最も警戒しなければならないと言える。
「サリー!今の風で炎の壁は消えたみたい!」
「それだけじゃなくて、降りてくるよ!」
ドラゴンは風と炎を纏った突進で、二人の方へと一直線に向かってくる。
「【超加速】!」
「【カバームーブ】!」
サリーはすれ違うようにしてドラゴンを回避するとメイプルに目配せをし、メイプルはしっかりしっかり追いついてくる。
「わわっ、当たったら落とされちゃいそう」
「だね。でも、降りてきた今がダメージを出すチャンス!朧【火童子】【影分身】!」
サリーは分身すると一気に距離を詰める。地上でも炎の威力に変わりはないと、ドラゴンは今度はいくつもの火球を連続して吐き出してくる。
「それなら……ふっ!」
分身は上手く避けられずに日に飲み込まれていくが、本人は完璧に軌道を読みきってドラゴンの足元まで飛び込むことに成功する。
「はっ!」
スキル攻撃はリスクが高いと考えたサリーは両足を深く切り裂く。【剣ノ舞】の攻撃力上昇と【追刃】による追撃がグンとHPを減らす。魔法も使えるとはいえ、サリーがダメージを出すにはやはりダガーによる攻撃が必要なのだ。
しかし、巨大なドラゴンの足元となれば、反撃の爪も強大である。分身も倒し切り、サリーに一撃を加えようとドラゴンは前足を横に振りぬく。サリーならその場から飛び退くことも容易だが、そうはしなかった。それは当然、メイプルのワープ先になるためである。
「【カバームーブ】!【水底への誘い】【滲み出る混沌】【捕食者】」
ドラゴンの足元でエフェクトが弾け、三体の化物と禍々しい触手を携えたメイプルが現れる。それらはドラゴンの巨大な爪を避けることなく正面から迎え撃つ。
「やああっ!」
メイプルの五本の触手は残っていた悪食全てを使い切る代わりにとてつもないバーストダメージを与えて、ドラゴンの片足を吹き飛ばす。両サイドと正面からも噛み付いた化物もさらにダメージを上乗せする。
防御姿勢を捨ててドラゴンの足と殴り合った形になるため、メイプルも吹き飛ばされるものの、ダメージ自体はない。大きくHPを削られたドラゴンはバサリと羽ばたき空に舞い上がろうとする。サリーはそれは無視して瞬時にメイプルの方を向く。
「届い……たっ!」
吹き飛ぶメイプルは素早く反応したサリーが糸をつなげて無理やり引き戻す。ガシャンと音を立てて地面に落ちたメイプルを抱きかかえて背後をちらりと見る。
飛び退くような形で空へ舞ったドラゴンの口からは炎が、翼の周りからは風が巻き起こる予兆があった。サリーはそれを瞬時に把握するとメイプルに告げる。
「しっかり掴まってて。大丈夫、あれくらいなら避けられる!」
そう言うと流石にメイプルも驚いた顔をするが、他でもないサリーの言うことである。それならそうなのだろうとメイプルは言われた通りにサリーに掴まる。
「【水の道】【氷結領域】!」
サリーは水の道を生み出すと、体に冷気を纏い瞬時にそれを凍らせて、そこを駆けていく。さらに空中に足場を作りさらに上に。ドラゴンと同様に空へと上っていく。
「【氷柱】……【跳躍】!」
サリーはそのままドラゴンよりも高く位置取ることで、吹き荒れる暴風と燃え盛る火炎を回避する。
「すっごーい!一瞬でこんなとこまで!」
「機動力には自信あるからね!」
サリーは炎の壁を回避して地面に降りると、ドラゴンのHPバーを確認する。
「あと半分!」
「よーしっ、負けないよ!」
HPが半分を切ったところで空中に飛び上がったドラゴンは、再度空気が震えるような咆哮を上げると、それに呼び寄せられるようにして、辺りにドラゴニュート達が次々にやってくる。
「すごい数だよサリー!」
「これは本格的に【身捧ぐ慈愛】に頼るしかないかな……!」
下手に範囲から出れば逃げ場のない集中砲火に晒される可能性は極めて高い。ただ、ドラゴニュートの性能はここまでで分かっている。メイプルに対する有効打がないのなら、本来凄まじい脅威となるそれらもいないのと変わらない。
「もう一回地面に降ろすよ」
「うんっ、そこで一気に倒そう!」
撃破までの道筋も見えたことで、メイプルも全力でスキルを使うことができる。兵器は展開してもすぐに破壊されてしまうため【機械神】は機能しないが、メイプルは周りから大量に浴びせられる炎を無視して短刀をドラゴンに向ける。竜を呼び出せるのは何も相手だけではない。
「【毒竜】!」
短刀から放たれた毒の竜はドラゴンのブレスに負けない迫力で赤き竜を飲み込む。しかし、毒自体は効いていないようで、ダメージを受けつつも向こうも炎を吐き返してくる。
「っ!さっきより範囲が広い!メイプル!」
「わわっ!」
サリーは武器を仕舞ってメイプルを掴むとそのまま【体術】スキルで放り投げる。急な範囲拡大に逃げ切れなかった場合のことを考慮したサリーは、移動速度の遅いメイプルを【身捧ぐ慈愛】が届きつつもブレスから離れるように移動させたのだ。二人が同時に巻き込まれることは避けたいのである。
「朧【神隠し】!」
それでも、あくまでこの行動はリスクケアだ。サリーは全力で駆け出すと、炎に包まれる瞬間、朧のスキルで消失してダメージから逃れる。円形のフィールドの七割近くを炎上させたブレスの範囲から転がり出たサリーはメイプルの無事を確認する。
「ありがとうサリー、助かったよー」
「私の方が緊急避難できるし、もし地形ダメージだったら範囲から出る前に燃え尽きるかもしれないからね」
本来移動速度が遅いメイプルはいくつかの手段で機動力を確保している。その中でも瞬時に移動できる【機械神】の自爆飛行は強力である。
周りのドラゴニュートのブレスで兵器が壊されてしまいそれが使えない今、下手な位置でサリーや【捕食者】、朧やシロップの分まで地形ダメージを継続して受けたなら、HPは低いメイプルでは耐えることはできないだろう。
「魔法でジリジリ削っていって、最後は……」
「最後は?」
「一気に距離を詰めて削りきる!」
ゆっくり近づいていては強化された炎の攻撃範囲に焼かれてしまうかもしれない。サリーは接近するための作戦を素早くメイプルに伝える。これだけ二人で戦ってきたのだ、メイプルも作戦の内容をすぐに理解した。
「じゃあまずはちゃんとHP減らすとこから!シロップ【巨大化】【精霊砲】!」
地面のほとんどが炎上していても、遠距離攻撃手段はいくつかある。そのうちの一つ【精霊砲】が、ドラゴンがカウンターで吐き出した炎とぶつかり合い互いに弾けて対消滅する。
「【滲み出る混沌】!」
メイプルの大技がそうであるように、ドラゴンのブレスも連発することはできない。その一瞬の隙に別の遠距離攻撃スキルを叩き込む。使い切るまで繰り返し、ダメージを稼ぐのである。
「【ウォータースピア】!【サイクロンカッター】!くぅ、流石に魔法メインでもないしパワー不足になってきたか!」
サリーの魔法は誰でも使えるようなものを戦略の幅を広げるために覚えている程度なため、威力はそこまで期待できない。
「任せて!しっかり当てて作戦通りに減らすよっ!」
「うん、任せられるのは頼もしい!」
周りのドラゴニュートの処理に追われずに済むため、空を飛ぶドラゴンに集中することができる。今回のような立ち止まっての大技の撃ち合いはメイプルの得意とするところである。
そうして、【毒竜】【滲み出る混沌】の二つをメインに二人でHPを減らした二人はとどめを刺すために機を窺う。
「メイプル、今っ!」
「【クイックチェンジ】【イージス】!」
メイプルはスキルで装備を変更し増えた分のHPをあらかじめ手に持っていたポーションとサリーの【ヒール】で回復すると【イージス】の効果が切れないうちに兵器を展開する。【イージス】の防御フィールドが存在するうちはドラゴニュートの炎はメイプルの兵器を傷つけられない。
「行くよサリー!」
「オーケー!」
兵器の爆発によりドラゴンのブレスにも負けない爆炎が生まれ、メイプルとサリーをドラゴンの方へ一直線に吹き飛ばす。ブレスのモーションよりも先にドラゴンに肉薄した二人は鋭い眼光を向けるドラゴンに対し、作戦通りと不敵に笑う。
サリーは一足早くメイプルから離れると空中に足場を作ってドラゴンの頭部に着地し、ダガーを振るう。
「【クインタプルスラッシュ】!」
【追刃】の効果も乗り両手で合計二十連撃。【火童子】の効果でさらに炎が貴重な追加ダメージを与えていく。
「本命は……頼んだよ!」
「【クイックチェンジ】!」
メイプルは再度装備を変更し黒装備に戻すと、ドラゴンの体をしっかりと捉えてスキル名を叫んだ。
「【暴虐】!」
メイプルは突如化物の姿へと変貌すると、そのまま六本の手足でドラゴンにしがみつき、喉元に噛みつき炎を吐き、鋭い爪で翼を切り裂いていく。
引き剥がそうとドラゴンが吐くブレスは予想通り継続ダメージによってメイプルの外皮を焼いていくが、最早そんなことは関係ない。
メイプルも負けじと炎を吐き出し、攻撃の手を緩めない。そうして、いくつもの炎と派手なダメージエフェクトが弾ける中、ドラゴンは最後に一つ大きな咆哮を上げて、光となって消えていくのだった。
「か、解除っ!」
ドラゴンが倒されればメイプルは空に放り出されることになる。このままでは遥か真下に落ちていってしまう。そんなメイプルに上空から伸びてきた糸が巻きついて、落下することは避けられた。
「ふー、ありがとうサリー!」
「メイプルも作戦遂行お疲れ様」
「えへへー、上手くいったね!」
サリーはそのまま空中に足場を作るとメイプルを連れて塔の上へと戻っていく。戦闘が終わったためドラゴニュートも消えており、焦げた跡とドラゴンの素材がいくつか、そして中央に宝箱が一つ残っているだけだった。二人は素材を拾い集めると早速宝箱に手をかける。
「じゃあ、せーので!」
「はいはい」
「「せーの……オープン!」」
二人は宝箱を開け中にあったアイテムを確認する。そこに入っていたのは【竜の財宝】が四つ。
輝きを放つそれは、いくつもの宝石や金貨の集まりである。いわゆる換金用アイテムという訳だ。
「んー、残念。装備品も出るらしいんだけどね」
「そうなんだ」
ボス戦での報酬の中では外れということになる。確定で装備品が出るのでないのなら、最も良いものを手に入れられるとは限らない訳だ。
「でも綺麗だし、これもいい記念になるね!」
「……まっ、そうか!別に装備のために頑張った訳じゃないもんね」
サリーとメイプルは塔の端に座ると二人で遠くを眺める。ここはこの浮遊城で最も高い場所、今ならどこまでも続く雲海も、心地よい風も楽しみ放題という訳だ。
「どうだった?」
「楽しかったよ!ドラゴンはやっぱりドラゴンって感じで強かったー!」
「だねー、五層でこれはかなりじゃない?」
「お宝も貰ったし、無事クリアって気分!」
「うん、浮遊城攻略。ドラゴン討伐、お疲れ様!」
「サリーもお疲れ様!ね、もうちょっと見ていこうよ」
「いいよ、写真も撮っておく?」
「うん!最初から使いこなせてたらもっと色んなところ撮ってたのにー!あ、あとでサリーにも送るね」
「うん、そうして」
こうして塔の頂上からの景色を撮って、しばらくくつろいだのち、二人は浮遊城を後にするのだった。




