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防御特化と浮遊城3。

「す、すごいね」


「だね。どこかに入口があると思うけど……」

二人は山の麓もとい崖の麓までやってきて、ほぼ垂直に空へ伸びる壁に近い山肌を見上げていた。

この壁をそのまま登るのは難しそうに見える。メイプルなど尚更である。


「シロップ見たいな飛行能力が前提な筈はないし、どこかに城の方に続く普通のルートがあると思うんだよね」


「確かにそうかも」

シロップや【救いの手】で増やした盾に挟まれての浮遊、サリーの【糸使い】などを使えば崖をそのまま登り切ることも可能だろう。ただ、それは一般的な解法でないことは間違いない。


「今回は真正面から攻略するって決めたし……」


「うん、崖の周りをぐるっと回ってみよう。何か見つかるかも」

幸い森に出るモンスターは二人の敵ではないため、探索も苦にはならない。モンスターをいなしつつ壁のような山肌を隣に歩いていると、山側に変化があり、二人は足を止める。


そこは高く空に伸びる山と山の境で、丁度谷のようになっている場所だった。誰かが通っているのか足元の草はなくなり自然に道ができている。そんな谷の奥、距離があれどもはっきりと見えるのは純白の素材で作られた門だった。


「周りの山は自然の城壁ってイメージなのかな?」


「おおっ、絶対ここ入り口だよ!」


「だね。では、城攻めといきますか?」


「おっけー!準備万端だよっ!」

二人は武器を構えると、門に向かってまっすぐに進んでいく。ある程度進んで門がはっきりと見えるようになってきたところで、門の向こうから転移してすぐにも聞いたあの大きな咆哮が響いてくる。

それに合わせて門が開きドラゴニュートと呼ばれるような、人型で翼を持った竜達が次々に飛んできた。


「メイプル、来るよ!」


「うんっ!【全武装展開】【攻撃開始】!」

正面から飛んでくるのであればこちらも弾幕で迎え撃つまでと、メイプルが大量の銃弾をばらまく。しかし、ドラゴニュートはそれら全てを体をひねり回避して高速で距離を詰めてくる。


「あ、当たらないよっ!」


「狙いがどうとかって感じじゃなさそう!接近は諦めて!」


「分かった!」

近距離では戦えないような二人ではない。むしろ近距離こそが必殺の一撃を叩き込めるレンジである。そんな中、先頭を飛んでいたドラゴニュートが急浮上し弾幕から逃れると、そのまま急降下してメイプルに突撃する。回避はできないメイプルは肩口に突撃からの噛みつきを受けると、そのままゼロ距離で吐き出された炎のブレスも直撃し、展開した兵器が砕け散る。


「メイプル!」


「ち、ちょっとびっくりしたけど……大丈夫みたい!やっちゃってサリー!」

メイプルの体は兵器などよりよほど頑丈なのだ。竜の噛みつき程度で傷がつくようなものではない。今度はお返しとばかりにメイプルがゼロ距離で砲を突きつけ、両サイドの【捕食者】が襲いかかる。


「【凍てつく大地】!」


「【クインタプルスラッシュ】!」

飛び上がろうとした瞬間、地面が凍りつき、ドラゴニュートの足を大地に縫い止める。こうなってしまえば回避も何もないと、メイプルの全力砲撃とサリーの連撃が叩き込まれる。

流石にこれには耐えられなかったようで、その体は光となって消えていく。

一瞬の出来事。まだドラゴニュートは残っておりそれらは果敢に向かってくる。プレイヤーと違い退いていかないモンスターは戦いやすいというものだ。


「迎え撃つ方が得意でしょ?」


「うん、その方がやりやすいかも」

メイプルはただ飛びかかってくるのを待てばいい。サリーは隙を見逃さず斬り刻めばいい。攻撃がクリーンヒットして、何一つダメージがなかった時点でドラゴニュートの運命はトカゲや大蛇と同じものだと決まっていたのだった。



「ふぅ、無事倒せたね」


「うん!貫通攻撃なくてよかったあ」

ドラゴニュートの群れを無事に撃破した二人は開いた門をくぐって奥へと進み城内部へと入っていた。城はあるところは山を掘り抜いて、あるところは山肌に沿うようにして、地形を使い建てられており、今二人は何処とも分からない廊下を歩いているところだった。

門と同じく白い素材でできた床と壁は、雲とはまた違うもののここが五層であることを思い出させる。


「メイプルはゴールはどこだと思う?」


「うーん……一番上の方かな?」


「お、私と一緒だね」

今のところは両脇に部屋などはあれど廊下自体は一本道なものの、いつ分岐するかは分からない。

二人はボスがいるならやはり入口から一番遠い場所だろうとあたりをつけて、転移してすぐにちらっと見えた城の部分、ひいては山の頂上を目指して歩き回る。

しばらくそうしていると廊下にも分岐が現れ始め、再びドラゴニュートが曲がり角から顔を出した。


「あ!またさっきの!」


「でもちょっと違うよ。気をつけて!」

サリーの言うように先程とは違い、目の前の一帯のドラゴニュートは元々固そうだった鱗の上にさらに鎧を纏っている。拳も何らかの金属で覆われており、強化されている個体であることは間違いない。

向こうも二人に気づいたようでぐっと足に力を込め翼を広げる。


「メイプル【悪食】は?」


「さっきの群れに使ったから……あと五回!」


「一旦温存で!」

強化個体にも対処できるのなら、【悪食】はボスまで取っておきたいわけだ。【悪食】はメイプルの貴重な火力源であり、それの残り回数は二人の攻撃能力に直結している。無駄使いはできない。


「速さも行動も変わらないなら……はぁっ!」

飛行してくるドラゴニュートに対し、迎え撃つようにサリーが駆け出す。それに対し、ドラゴニュートはガパッと口を開くと全てを焼くような炎を廊下一面に吐き出す。いくらサリーといえど回避できるスペースが存在しない攻撃は避けられないため、被弾を避けるにはバックするしかない。


「大丈夫!行ってサリー!」


「オーケー!」

二人は吐き出されるブレスが門の前で戦った時と同じだと見切り、既に完成された対応をとる。サリーは【身捧ぐ慈愛】を利用して炎を無力化すると、ブレスで硬直中のドラゴニュートに対し【跳躍】で一気に頭上を取る。


「【パワーアタック】!」

サリーは体を捻ると頭の部分にダガーを振り下ろす。鎧によってダメージは軽減されたものの、狙いはそれではない。門での戦闘で飛行中にダメージを与えることさえできれば地面に叩き落とすことができると分かっていたのだ。

二人の狙い通りドラゴニュートは地面に落ち、鎧が音を立てる。


「シロップ!【大自然】!」

動きが止まっている隙に、シロップに蔓を伸ばさせガッチリと拘束する。ここまでできればあとはサリーが斬り刻むだけであった。


「ふぅ、ナイスメイプル!」


「鎧はかっこよかったけどあんまり変わらなかったね」


「そうだね。でも装備付きってことはまたちょっと進んだってことじゃない?」


「部屋の中とかも変わるかな?」


「かもね。宝箱とかないか見ながら行こう」

二人は廊下に面した部屋は逐一中を確認しつつ、高級そうなソファーがあれば座って写真を撮ったりしながら、上り階段を見つけては上へ上へと向かっていく。


そうしていると今度は山肌に沿うように建てられた部分へとやってきた。窓からは歩いてきた森と、どこまでも広がる雲海が見え、かなりの高さまで上ってきたことが分かる。


「あ、サリー!ほんとのドラゴンも飛んでるよ!」


「あれは背景みたいなもの、かな?もしくはシロップみたいに変に飛んで近づいてくるのの対策か……」


「五層だと他の人はまだモンスター仲間にしてないもんね」

今でこそ空を飛ぼうと思えば飛べる環境だが、この浮遊城が実装された当時はそうはいかなかった。レアケースである空からの侵入によって城の中身が全て無為となることを避けるのも当然と言える。


「さ、行くよ。頂上も近いはず」


「うん!ふー、ドキドキしてきたー」

モンスターを倒しつつぐるぐると城の内部を歩き回って、二人は高い塔の手前で立ち止まる。外壁に螺旋階段がつけられたこの塔は、この浮遊城の終着点のようだった。


「この上かな?」


「おおー、いよいよだねっ」

塔の直径は二十メートルほど。この上のボス部屋にいるであろうモンスターのサイズ感が想像できるというものだ。


「ま、上ってみないと分からないってね」


「ごーごー!」

メイプルとサリーは螺旋階段を駆け上がっていく。塔の最上部には扉があり、内部に入ることができるようになっている。二人は準備よしと互いに頷くとその扉を押し上げて中に入った。

窓のない塔内部は暗く、メイプルの【身捧ぐ慈愛】のエフェクトだけが輝いている。



二人が完全に中へと入り、背後の扉が閉まったところで空気が震えるような咆哮が暗闇から発せられた。


「っ!」


「わわっ、すごい音っ!」

身構える二人をよそに、暗闇から最早白くすら見える炎が噴き上がる。そして、その存在が何なのかは意外な形で明らかになった。

地面を蹴る振動、再度響く咆哮。それと共に風が辺りを薙いで、大きなものが動く気配と共に塔の天井が崩壊する。


「サリー!」


「メイプル!」

二人は吹き飛ばされないように風に耐え、壁も天井もなくなり吹きさらしになったボス部屋で、全てを破壊していった存在を見上げる。


空を飛んでいるのは全身を燃える炎のような赤の鱗で覆われた巨大なドラゴンだった。口からは輝く炎が漏れ、翼が起こす風は二人を容易に吹き飛ばせそうで、尻尾の一薙ぎはこの直径二十メートルの戦闘エリアの多くを危険域に変貌させるだろう。

伸び伸びと翼を広げ、しかし二人をしっかりと睨みつけるその目は戦闘をさけることはできないと伝えてくるようである。


「よっぽど窮屈だったんだろうね」


「す、すっごい強そうだよ!?」


「実際強いんじゃない?さ、落ちないように気をつけて!」


「うん、倒そう!」

二人は改めて武器を構え、空を舞う赤き竜と正対するのだった。


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[一言] これに勝ったらドラゴンスレイヤーの称号が…
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