防御特化と北へ。
残った四人であるメイプル、サリー、ミィ、フレデリカは北へ向かって進んでいた。
移動手段はシロップ、イグニス、暴虐メイプルといくつかあったが、速度もあり不可逆的な変化を起こさないイグニスでのものとなった。
「あ!またメダルだよ!みんな速いなぁ……」
「そもそも全然ダンジョン見つかってないしね。一つはクリアしたけど、ハズレだったし」
「やけに簡単だったと思ったが、結果を見て納得だ」
「まー簡単だったのはメイプルがいたせいもあると思うけどー?【身捧ぐ慈愛】と高防御はボスによっては完封できるしー」
「まあ、それでも万能ではないことも分かってきた……それなりに共闘もしてきたからな」
メイプルのスキルはどれも相性が極端なのだ。毒耐性持ちや高防御モンスターには【機械神】や【毒竜】は相性が悪い。メイプルは防御極振りにも関わらずダメージを出せるが、そのダメージを上げていく方法を持たない。七層でミィに言われていたことだが、皆の攻撃能力が上がるにつれて、平均的な威力に落ち着いていくのだ。
「そもそもー?ダメージがここまで出るのがおかしーんだって」
「そうかな?」
「それはそうだね」
「あっ、サリーまでー!」
ともかく頼もしいギルドマスターだとサリーは笑う。こうやって和やかに話していても問題ないのはメイプルの【身捧ぐ慈愛】が常に展開されているためである。
「さてどうする?現状北の方でサリーが見つけたオブジェクトは全て回ったが……」
「空から見てて特徴的な地形に行ってみるしかないかな。元々マップかなり広かったし流石に全部は回れてないからなあ」
サリーは予選のタイミングでポイントを稼ぐついでに印をつけておいただけであり、あくまでメインは本戦のためのポイント稼ぎだったのである。
「じゃあ一つ一つ探していくしかないかあ。むぅ、これは大変ですね?」
「うん、そうですね」
「もー、本当にどうするか決めないとさー」
「それなら一度降りるか。空からでは細かいことは分からない。それに、偶然ダンジョンに侵入するなどということも起こらないだろう」
メイプル達も賛成のようで、ミィはイグニスの高度を下げ地面に降りる。すると、周りからは早速ガサガサと何かが近づいてくる音がする。そして出てきたのは、二日目夜の基本モンスターである一つ目四足歩行の悪魔だった。
「あ、出たー偽メイプルだ」
「えっ、わ、私?」
「まあ言いたいことは分かるけど」
フレデリカに偽メイプルと称されたモンスターはフレデリカをガシガシと爪でひっかくが、それは全てメイプルに庇われて無効化される。
「本当、外で安心できるってすごい便利ー」
フレデリカが杖でモンスターの頭をペシペシ叩いていると、横合いからミィの【炎帝】の火球が飛んできて、モンスターを焼き払う。
「探索するのだろう?」
「はいはーい。私も頑張りますかー」
「私もー【全武装展開】【攻撃開始】!」
サリーは接近して変に射線を遮らないように一旦引いて成り行きを見守る。
こちらがダメージを受けない以上どこまでいっても一方的な蹂躙になるのは仕方ないことだった。
そうしてしばらくモンスターを倒しながら歩いているとミィが不思議な点に気がつく。
「この辺りは少しモンスターが多いな」
「マップの端の方だからじゃないのー?」
「……確かに多いような感じもするね」
既に一つダンジョンをクリアしている四人はその過程で別のマップ端辺りを探索していた。その時と比べると確かに襲撃が激しいように感じられた。
「何かあるのかな?……モンスター発生装置とか!」
「それはやだなぁ。でも、この辺り探してみる?時間的にもそろそろラストチャンスだし」
不測の事態にも備えて拠点には早めに戻っておきたいものである。休息を取らずに三日目の探索に向かうとパフォーマンスも悪くなってしまうのは間違いない。
諸々を鑑みると、そろそろ探索を切り上げなければならない頃だった。
「んじゃあモンスターが多い理由を見つけに行こー!」
「んー、サクッと見つかるといいねー」
ミィとサリーは攻撃能力が十分にあるため、基本は【身捧ぐ慈愛】内で迎撃していれば探索は容易である。モンスターを倒しつつ、それが大量にいる場所を探して歩き回っていると次第に疑念は確信に変わっていく。
「本当だね、多いかも!」
「だね。間違いなく何かある」
最もモンスターが多い場所までやって来ると、紫色で渦を巻いている円形の光がゲートのように浮かんでいるのが木々の隙間から見て取れた。
そこからは多様な悪魔型だけでなく予選の時にメイプルが見た恐竜や大型ワニなども這い出して来る。
「ダンジョン……とは違うような気もするけど、どうサリー?」
「うーん、まあ雰囲気違うよね」
「でも本当はどうなのか分かんないし、ほらメイプルが入ればあれ触りに行けるでしょー?」
「試してみても悪くはないだろうな」
違っているかどうか確かめずに帰るというのは愚策と言える。
「ただ、色んな種類がいるから貫通攻撃もってるのもいそうなんだよね」
「うっ、だよね。うーんじゃあぱって近づいてぱぱって離れないと怖いし……飛んでいくとか?」
「イグニスか?木々が多いからな、回り込むなどしなければ……ここからは行けなそうだ」
「飛ぶって、メイプル。あっち?」
「うん!これで!」
メイプルは自分の背中にある立派な兵器をポンポンと叩く。サリーがまあそれもアリだとすっと受け入れているのを見て、サリーがいいと言うなら大丈夫かとフレデリカとミィも受け入れる。こんな大層な兵器なら飛行能力も備え付けられているのだろうと、二人は勝手に推測した。
「行けると言うなら私も構わない」
「じゃあ皆私にしっかり抱きついてね」
「ん?んー、こう?」
「こ、こうか?」
メイプルを囲むようにして三人で抱きつくと、メイプルはアイテムボックスからロープを取り出して固定する。
「ふー……よし。いいよメイプル!いつでも!」
「な、何その覚悟……あ゛っ!?まさかこれギルド戦の時空から落ちてきた……」
フレデリカの記憶に普通の飛行ではありえない爆発の記憶がフラッシュバックする。
「【攻撃開始】!」
「ま、まずいのか?ひゃうっ!?」
メイプルの背中のレーザー兵器などにエネルギーが充填されていき、限界を超えたチャージによって兵器が爆散すると同時、その爆発の反動で四人は砲弾のようにかっ飛んで木々の間をすり抜け、真っ直ぐ紫の光に突っ込む。
光は見た目通りゲートだったようで、メイプル達を通過させると、親切なことに速度を落としきって緩やかにゲートの先に着地させてくれた。
「とうちゃーく!お疲れ様です!短い旅でした!」
「な、なるほどねー。これで飛ぶのは私には無理だなー……」
「……これ程羨ましくない機動力も珍しい」
「ふぅ、私も慣れないなあ」
「サリーが妙に落ち着いてるから、普通だと思ったでしょー!」
「あれもメイプルの普通かな」
そういうことじゃないけれどと、そんなことを言うフレデリカだったが、ゲートも潜ってしまったことですっと切り替える。ここはモンスターを吐き出す謎のゲートの向こう側なのである。
「今のところ、特に何かがいるようには見えないが……」
四人が落とされたのは暗い紫色の壁と床が広がる広い空間である。壁や床は時折動いているようで、この場所がまともなダンジョンではなさそうなことが分かる。
「でも、着いてすぐモンスター塗れとかじゃなくてよかった」
「そうだね。じっくり探索していこうか」
こうしてメイプル達四人はこのダンジョンの最奥を目指して歩き出したのだった。
枝分かれしている通路を右へ左へ進んでいくと、最早見慣れた仮称偽メイプルと巻角を持ちコウモリのような翼を生やした悪魔が度々襲ってくる。それらは何かしらの方法で視界外のプレイヤーを認知しているようで、立ち止まっていても向こうから次々にやってくる。
それが無謀な突撃だとしてもである。
「メイプルがいればこの二種に負ける要素はないな」
「ふつーに経験値美味しいー。いいねー」
「MPポーションはイズさんからもらったのがいっぱいあるから大丈夫だよ!」
「……ダンジョン内にこれがいるってことはやっぱり二日目以降発生とかなのかな?予選の時にあったらあんな紫のゲート滅茶苦茶目立つだろうし」
メイプル程ではないもののミィも燃費が悪いため、モンスターを何体か倒すたびにMPポーションを使わなければならない。
サリーもモンスターを斬り伏せてさらに奥へ歩を進める。メイプルの性能が極端なため、ダンジョン攻略は全てを無力化し簡単に終えるか、メイプルにとってかなり厳しいものになるかの両極端になりやすい。今回のダンジョンは前者と言えた。ただ、このダンジョンもモンスターをけしかけるだけではないようで、ある程度奥に進んだところで初期地点のような広い空間が現れる。その壁は今までのような紫色のものではなく、白い膨らみがいくつも見られるものに変わっていた。
「んー……壁に白い膨らみがあるね」
「撃ってみる?」
「いや、何があるか分からないしやめとこう」
「どうやら、こちらから動かなくとも向こうから来てくれるようだぞ」
ミィがそう言って一つの膨らみを指差す。それはつまるところ、言い表すなら蛹だとか繭だとか、そういった類のものだった。四人が近づいたのに反応してそれらは裂けてなかからずるりとモンスターが這い出てくる。
量からして塔でのモンスターハウスを思いだしたメイプルとサリーは、フレデリカとミィに指示を出す。
「尖ってる武器とか、角とか持ってるのから順に倒すよ!」
「防御貫通攻撃がなければ大丈夫!」
「そうか、それもそうだな。分かった」
「これならガンガン前に出られるしー、それっぽいのくらい探して狙える狙える」
悪魔型の中でも槍を持つもの、鋭い牙や爪を持つものなどから順に倒されていき、逆に筋肉が異常に発達しておりいかにもなパワーファイターなどは後回しにされて最後まで残っていく。力ではメイプルを突破できないため優先順位は低い。
「【炎帝】イグニス【連なる炎】!」
「朧【火童子】【渡火】!」
二人のスキルによって炎が炎を呼び、モンスターを焼いていく。ある程度の量のモンスターがいることで真価を発揮する連鎖ダメージスキルなため、部屋を埋めるように溢れかえるモンスター群には効果覿面だった。
「【毒竜】!」
「本当メイプルは数に強いな……」
範囲攻撃と有効打を持たないものをシャットアウトする防御力。そしてそれは周りに他のプレイヤーがいて、より凶悪なものとなる。どこまでいってもメイプルの本質であり得意分野なのは防御なのだ。
防御貫通を持っていそうなモンスターを倒しきってしまえばあとは消化試合だった。リソース消費を抑えるためMPを使わずにダメージを出せるサリーが攻撃してモンスターを倒しきる。
「ふぅ、片付いた」
「お疲れサリー!いっぱいいたけど全然問題なかったね!」
「うん、メイプルのお陰で楽に戦えてる」
「えへへー、そうー?」
「また奥へ進めそうだな。この調子ならボスまでに詰まることもないだろう」
「だねー。さ、行こ行こー」
メイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れないように進んでいくと、そこからは標準装備とでもいった風に白い膨らみが通路や壁から飛び出しており、初期地点と比べてモンスターの量も多くなっていた。
「あ、そうだ!日を跨ぐ前に……【暴虐】!」
もうすぐ一日が終わってしまうため、メイプルはスキルを発動しておく。ダンジョン内なら無駄になることもまずないだろう。そして【暴虐】を使ったことによって今までは偶に致死毒を撒いたりレーザーを放ったりするだけでおとなしめだったメイプルが本格的に先頭に参加することとなる。
「あ、真メイプルだー」
「真って何、真って」
「カスミのハクにも感じたが、やはりサイズは正義だな……」
メイプルは巨大な口を広げ、通路を先頭で走っていく。流石に【暴虐】サイズに調整してはいないため、姿勢を低くしなければ通れないがそれはモンスターが左右から回り込むことができない程度の広さだということと同じである。
メイプルがガシガシと開閉する口は正面から突っ込んできたモンスターを無差別に飲み込み食い散らかしていく。何とか生き残ったモンスターは口から這い出るがそのままメイプルの六本の足に踏みつけられて後方に抜ける頃にはボロ雑巾のようになっている。
「【多重風刃】!」
ただ、別にメイプルのそれを生き残ったところで見逃してもらえるわけではなく、魔法の使える三人によって安全にトドメを刺されるだけだった。
「流石にこの形態なら雑魚は一方的になるかぁ」
「そうだな……普通プレイヤーにはどの形態も特にないはずだが」
ついでに炎も吐きながらモンスターを蹂躙して回っていると、四人の予想通りあっという間にボス部屋前までたどり着いていた。
「ギルドが違えば攻略法も変わってくるねー」
「断言するけど、これはメイプルだけだから」
【楓の木】全員がこうではない、似たような雰囲気を出し始めているものもいるがここまでではないのだ。
「開けるよー?」
「うん、入っちゃって」
メイプルが頭で扉を押し開けて中に入ると、部屋はモンスターを生み出す白い膨らみが大量にあり、最奥に今まで見てきたものより遥かに大きく、これはもう完全に繭と言っていいような楕円の白い塊があった。
四人が部屋に入ると同時、その巨大な繭はバクリと裂けて中から紫の光が溢れ出し、歪に伸びた鋭い爪を持つ十を超える手足と顔のない頭に、皮膜の破れた翼。フレデリカが偽メイプルと形容したモンスターを違法改造したようなモンスターが這い出してくる。
「真偽メイプルだー!真偽メイプルじゃない?」
「馬鹿言ってないで戦うよ!」
「ああ、全力で行く」
「皆、来るよ!」
繭から完全に抜け出た翼でバサリと羽ばたくと、鉤爪をぎらつかせながら、ボスは四人に飛びかかってくるのだった。
ボスが反動をつけて長く伸びた手足を振ると、それはゴムのように伸びてかなりの速度で両サイドから四人に向かってくる。
「【多重障壁】!ノーツ【輪唱】!」
フレデリカによってミィと自分の前に障壁が生み出される。サリーは間違いなく回避するだろうし、メイプルのサイズを覆い切るのは無理なため守るならばここという訳だ。
「っ、つよ……!?」
腕は予想よりも遥かに威力が高く、フレデリカの障壁が砕かれていく。しかし、到達を遅らせることに意味はあった。
「【フレアアクセル】!」
ミィが一気に加速して、フレデリカの元まで来ると、そのままフレデリカを抱えて鉤爪が届く範囲から脱出する。
「ナーイスミィ!」
「気を抜くなよ?」
フレデリカの予想通りサリーも当然のように回避する中、メイプルはその巨体ゆえに逃げ切れずに鉤爪を受けてしまう。
メイプルの外皮には左右からの鉤爪の数だけ傷がつきダメージエフェクトが弾ける。
まだ【暴虐】が解除されるまでは至っていないが、このままでは時間の問題である。
「うぅ、これ全部防御貫通……!」
「まずは空から落とすよ!ミィ、フレデリカ!【氷柱】!」
「イグニス【消えぬ猛火】!」
「はいはーい【多重重圧】」
次の攻撃を繰り出そうとするボスに対し、フレデリカが魔法を使い動きを鈍らせる。
左からはサリー、右からはイグニスに乗ったミィが接近し、一気に頭上を取ると地面に叩き落とさんと攻撃する。
「【クインタプルスラッシュ】!」
「【炎帝】!」
頭部に着地したサリーはスキルを発動し、頭から背中を切り裂いて、転がるようにしてボスの背後へ抜けていき、ミィはイグニスの機動力を生かして迎撃のために向けられた鉤爪を躱して反撃し、ダメージによってボスが地面へと叩き落とされる。
するとそこに待ってましたとばかりにメイプルが飛びかかり、先程の仕返しとでも言うように腕を食いちぎり羽を引き裂いていく。
しかし、ボスも黙ってはおらず、鉤爪でメイプルを斬り裂き、口からはいた紫色の光線で外皮を焼いていく。
「「「…………」」」
共食いのようなその光景に、三人は一瞬呆けてしまうが、すぐにメイプルに加勢する。三人から援護されて、メイプルはさらにボスにダメージを与えていく。三人の攻撃でひるめば、すかさず六本の足で相手をがっしりとホールドして熱線のような炎を浴びせる。
【身捧ぐ慈愛】があるため、巨体がめちゃくちゃに暴れていようが味方の参戦は容易なのだ。しかし、ボスの意地といったところか、メイプルがボスを捕食しきるよりも先に、ボスがメイプルの【暴虐】を引き裂いて、メイプルを地上に落下させる。
体格差が一気にできたことで、ボスはメイプルを押しつぶすように体を重ねる。それくらいならと構えるメイプルだったが、ボスの腹の部分がぐにぐにと蠢き、そこから鋭い針が生成されるのを見て目を見開く。
「あっ、えっと【ピアースガード】!」
明らかに使い慣れていないスキルで何とか貫通攻撃を無効化した直後、巨体に押しつぶされて三人からはその姿が見えなくなる。
「メイプル、大丈夫!?」
サリーの問いかけに対して返事は聞こえてこないが、少ししてボスの体が内側から弾ける鈍い音と共に、 ダメージエフェクトを大量に発生させて背中から黒いもやを纏った五本の触手がうねうねと伸びてくる。
「自傷して形態変化ー?」
「いや、あれは」
「メイプルだね」
「えぇ……?」
その触手を器用に動かし、体に空いた穴を通って背中側からずるっとメイプルが出てくる。
「ふぃー、脱出成功!わわっ【カバームーブ】!」
メイプルは再び飛び上がって距離を取ろうとするボスの背中からサリーの元へ瞬間移動する。
「どうかな?結構ダメージ与えたと思うけど……」
「半分ってとこだね……結構タフだなあ。炎攻撃が効きにくいのかも」
メイプルの触手には攻撃性能しかないため、次のボスの出方に備えて、左腕を元に戻す。
「【悪食】もまだまだ使えるよ!」
二日目は拠点で過ごしていたか、目印となるように爆発していたかという二項目でほとんどの時間が使われている。
そのため、【機械神】の兵器の量は残り少ないものの【悪食】や【毒竜】や【捕食者】はまだまだ呼び出せるため、パワーも十分だ。
四人は飛び退いたボスの次の出方を見ようとじっと構える。すると、ボスは生まれた繭の前で高度を保ち、後ろの繭から紫色の光を取り込み始めた。
「何か来る!」
紫色の光が十分に溜め込まれ、ボスの体から同じ色の光が立ち上り始め、いくつもの魔法陣が展開され、それらから紫色の炎が撃ち出され四人に向かってくる。
「【多重加速】【多重障壁】!」
移動速度を上昇させることで、三人は回避を試みる。逆にメイプルはしっかりと大盾を構えてその攻撃を受け止めにかかる。
紫の炎は【悪食】によって吸収されていくが、その凄まじい量に先に回数の方が尽きてしまう。ただ受け止めるだけになったメイプルの周りが燃え上がり、メイプルのHPを削っていく。
「やっぱり!?炎は駄目だって!」
炎にはいいイメージがないメイプルは、急遽兵器を展開すると、自爆して一気に後方へ下がる。
「私達は避けられるから!こっちで注意を引いてるうちに回復して!」
「うん!ありがとう!」
サリーは集中力を高めると、弾ける炎の間をすり抜けて、一気に距離を詰める。
「【水の道】!【氷結領域】!」
サリーの足元から前方に水の柱が伸びていき、それと同時に、サリーの体から白い冷気が放たれる。サリーの周りのものは急速に凍っていき、サリーの武器からは朧によって付与された炎と【氷結領域】による氷が代わる代わる現れる。
炎と氷を散らしつつ、水の道を凍らせて、サリーは再びボスを地面に落とさんと駆けていく。
「空中でも、随分動けるようになったかな!【氷柱】!」
空中に足場を作るスキルと、糸を伸ばすスキルによってボスの炎をかいくぐり、まるで地面を走っているかのように自在に飛び回り、ヒットアンドアウェイでダメージを与えていく。
「よし、ボスはこっち向いたね……」
一旦サリーのみが攻撃しているため、ボスはサリーの方を向き、全ての炎がサリーに襲いかかってくる。
だが、それは予定通り。あとはこれを避け切るだけ。
「集中……!」
大型ボスなだけあって、攻撃自体は細かなものというより全体を焼き払ってしまえばいいというタイプである。地面に残る炎を避けるため、空中を経由することも忘れずに、回避を続けていく。
前のイベントで塔十階にダメージフィールドを残すタイプでもっと繊細で強い敵がいたのもあり、サリーは未来が見えているかのように攻撃を回避する。
「フレデリカ、ミィ、メイプル!そろそろ準備終わった?」
「うん!大丈夫!」
「ああ、問題ない」
「バフ掛けもオッケーだよー」
「なら、【超加速】!朧【神隠し】!」
サリーは加速し、背後から迫る鉤爪を朧のスキルで透かすとメイプル達の元まで走っていく。
そこには巨大化したシロップとイグニス、そして残った兵器を展開するメイプルと全身を炎に包まれたミィがいた。
「んじゃあ最後の仕上げにー、ノーツ【増幅】!」
「【殺戮の豪炎】!」
「【攻撃開始】!【毒竜】!【滲み出る混沌】!」
フレデリカがスキルの威力を強化すると同時に、二人からは強力なスキルが、シロップとイグニスからはそれぞれ炎と光線が放たれる。
それらは紫の炎と正面衝突し、派手にエフェクトを弾けさせるが、サリーが注意を引いているうちに積めるだけ積んだバフが乗った二人の怒涛の攻撃は、炎を押し返して背後の繭ごと破壊し尽くし、大きな爆発を起こす。
爆発の光が収まった時、壁にあった繭はボロボロになっており、ボスは体から黒煙を上げながらベシャリと地面に崩れ落ちて消滅していった。
「ふー、よしっ!勝ったね!」
「ああ、いい攻撃だった。フレデリカもありがとう」
「豪快に倒してくれるとバフのかけがいがあるねー」
「今回はちゃんとメダルも手に入ったみたいだし、これで笑顔で帰れるかな」
「よーし、じゃあ倒されないように慎重に帰ろう!」
恐らく帰り着くのは最後になるだろうと、四人は全員が無事に拠点に帰り着いていることを信じてダンジョンから出ていくのだった。




