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防御特化と南へ。

南へ向かったのはドラグ、シン、クロム、カスミの四人である。もちろんこの組にも四人合わせて移動できる手段を持つプレイヤー、カスミがいる。カスミはハクを【超巨大化】させて、一日目に【楓の木】が転移してきた砂漠の方へ進んでいた。というのも、四人はサリーのマップに沿って怪しいポイントを回ってみたものの運悪く空振りばかりで、南はポイントは固まっていて探索はしやすかったが、サリーのマップに記された怪しい地点は少なかった。


こうして探索する優先度が高い場所を回り切ってしまったため、サリーが目をつけたオブジェクトはないのだが、発見しづらい場所にある可能性も考えて広い砂漠へとやってきたのである。


「ペインのドラゴンでも思ったが、移動の時乗せてくれるモンスターってのもアリだったぜ」


「ウチのミィも移動できるのは助かるって言ってるなぁ」


「まあ機動力は攻略速度に関わるからな……何かそれらしいものは……」


「ないものだな。別方向に行った組は順調に攻略しているようだが……」

四人でハクの頭に乗って周りを観察すると、遠くでワームや悪魔がプレイヤーと戦っているようで魔法のエフェクトが弾けているのが見える。


「マップ端の方にもプレイヤーがいるみたいだな」


「考えることは同じってな。まあこれだけデカイ砂漠なら何かあると思うのは当然だぜ」

そうしてしばらく進んでいくと突然天候が悪化し、強烈な砂嵐が吹き始める。警戒はするものの、マップの端にも関わらずうじゃうじゃいた悪魔型モンスターが近寄ってこない。クロムは盾役として誰よりも警戒していたが、一向にモンスターが近づいてくる気配はない。


「何かあるなこれ……カスミ!一旦降りないか」


「ああ、そうしよう」

何かがあると感じた四人は一旦ハクを元のサイズに戻すと徒歩で探索を始める。


「本当、すげぇ砂嵐だぜ。ほんの少し先も見えねえ」


「【崩剣】を周りに飛ばしておくかあ。これなら何かが近づいてきてるのは分かるからなあ」

シンは【崩剣】を発動させ、四人を中心に大きめの円になるように分割した剣を回転させる。これでそれなりの大きさのモンスターなら前後左右どこから襲ってきても【崩剣】に引っかかるため、奇襲の可能性を減らすことができる。

そうしてしばらく歩いていると、シンの【崩剣】に反応があった。


「お、何か当たったぞ……この感じモンスターじゃないな」


「なら向かおうぜ。何かあるんだろ」

四人が向かっていくと、そこには砂嵐に紛れて砂交じりの岩場が広がっており岩の隙間から地下へと潜って行けそうだった。


「行ってみるか。ようやく当たりっぽいしな」


「ああ、そうしよう。この狭さだとハクは巨大化できないが、仕方ない」

岩の隙間を伝って降りていくと、さらさらと砂が落ちる音が聞こえる地下空間が広がっていた。地面は砂地のようで足が沈むことはないものの、少し歩きづらい。


「おっ、こりゃあ本格的に当たりっぽいぜ。いいねぇ」


「とりあえず俺が先頭を行こう」


「ん、じゃあクロム任せるわ」


「さて何が出るか……」

クロムを先頭にして一歩を踏み出した所で足元の砂からさばっと一匹大きなサソリが飛び出してきて、全員の武器が届く前にクロムを一刺しして帰っていく。

それと同時にクロムからエフェクトが弾け、以前イズにもらった即死攻撃を受けた際に肩代わりしてもらえるアイテムが起動したことが知らされる。


「なっ、嘘だろ!?あのサソリ即死効果持ちだ!」


「そりゃあ一旦避難しないとまずいぜ!」


「ならこれに乗れ!地面と距離を取ろう」

そう言ってシンは各人の前に足場になるように浮かぶ【崩剣】の刃を並べる。それの上に乗って一時的に急場をしのぐと、作戦会議を始める。


「シン、このスキルこんなこともできたんだな」

カスミはこれは知らなかったと足元の崩剣を指差す。


「メイプルからヒントを得てさ、飛ぶ剣の使い方もいろいろあるって訳だ」


「でもどうするよ。イズから貰った即死耐性アイテムはあるが……雑魚モンスターにそうぽんぽん使えるもんでもない」


「いや問題ねえぜ。俺に任せてくれ。とりあえず砂の中のサソリの位置分かればいいんだろ」

ドラグはそう言うとアースを呼び出す。アースは地面に関するスキルを豊富に持つゴーレムなため、対応策も持っていた。


「アース【地震】!」

アースが地面を揺らすと砂の中からダメージを受けたエフェクトが弾ける。それはそこに何かがいることを示すものだった。


「シン、今だ!その剣なら安全に行けるぜ」


「おう!」

シンは足場にしていない剣をダメージエフェクトが発生した砂中に飛び込ませ、引き上げる。

するとそこにはどれも串刺しになった真っ黒いサソリがあり、抜けようともがいた後パリンと音を立てて消えていった。


「HPが低いのが救いか。砂の上を歩く前は地道にこれを続けるしかないだろう」


「仕方ねえかあ。つってもボスが嫌な予感しかしないな」

道中の雑魚モンスターが即死攻撃持ちのサソリということを考えると、ボスも相当捻くれたものであることが予想できる。


「まあ対処法があるだけマシだぜ。あと刺されたのがクロムだったのも助かったな」

人によっては訳の分からないまま脱落である。改めてダンジョンに自ら入っていくことのリスクを思い知って、それでも四人は先へ進むのだった。



それからしばらく、地面全体に影響を及ぼせるアースとドラグが跳ね上げたり突き刺したりしたサソリを三人で倒して安全圏を確保して進んでいると、ようやく足場が砂で覆われていない場所にやってくることができた。


「はぁ……良かったここなら多少落ち着けそうだぞ」


「いや、本当あのサソリ面倒だったなぁ。また砂地には行きたくないけど……」


「【崩剣】ほんと助かったぜ。体感だとこれで半ばってとこか?」


「岩場になったことを考えても、一区切りついたということなのだろうな」

足元への警戒をある程度緩めても問題なくなったことで四人の進行速度はグンと上昇する。そうしてクロムを先頭に進んでいると新顔のモンスターが現れる。


「っと、ここは蛇か。岩穴から出てくるな」


「どうせ毒か即死だぜ。さっさとやっちまおう」

この蛇もHPは低いようで、四人はこのダンジョンがおおよそ奇襲によって即死を狙うタイプのコンセプトだと理解した。


「神経がすり減るようだな……」


「早くボスまで行きたいとこだが、っと何だ?」

先頭を歩いていたクロムが角を曲がったところで岩壁からいくつも花が咲いていることに気がつく。今の四人にとってあらゆるオブジェクトは即死攻撃をしてくるもののように思えているため、刺激しないよう、触れないよう静かにそこを通り抜ける。しかし、そうは問屋が卸さないといったところか、岩穴からするりと抜け出た蛇がその花を体で刺激してしまう。

すると花に触れた時のものとは思えない鈴の音のような『音』が響き、壁の穴から蛇が這い出してくる。


「あっ、くそっ!せっかく触れないようにしたのによ!」


「ウェン【風神】!」

押し寄せてきた蛇を倒しきるために、シンは仕方なく風の刃を放たせる。それは当然他の花をも刺激してしまうが、まずはこの蛇の群れをしのぐことが先決である。

シンは【崩剣】を回転させ近づいてくる蛇を次々に切り捨てていく。


「内側に入りそうなやつに攻撃してくれ!そこまで細かい操作はまだ無理だからな!」


「とりあえずこっちは弾き返すぜ!【土波】!」


「ネクロ【死の炎】!」


「【血刀】!」

押し寄せる蛇に噛まれないように全員が複数体を攻撃できるスキルで数の不利を覆す。下手に逃げるよりも居座って迎撃に全力を尽くすというのは間違っていなかったようで、全ての蛇を倒しきることに成功した。

普段のそれとは違い一撃を受けてはいけないという戦闘が終わり、四人共が安堵の息を吐く。


「早くボスまで行こう。これ道中の方が疲れるよ」


「同感だぜ……」

もう一度花が効果を発揮することがないうちに四人は急いでこの場を後にして先へと進むのだった。




そんな四人の願いが届いたのか、ボス部屋まではそこまで長くはなくしばらく蛇を対処しているうちに普段もよく見る扉前までやってくることができた。


「さてと、開けるぞ。いいな?」


「ああ、問題ないぜ」


「いいぞ、こっちも準備万端だ!」


「私もいつでも構わない」

全員の了承が得られたところで、クロムを先頭にボス部屋の中へ飛び込む。そこは天井からさらさらと砂が落ちて何箇所かで砂山になっており、地面が砂で覆われている部屋だった。

しばらく四人で固まって様子を見ていても特に何も現れないため、どういうことかと訝しむ。


「何もいない……のか?」


「いや、奥の砂山に何か埋もれてるなぁ。怪しさ全開だぞ」

シンは何かを見つけると、もう自分から近づいていってはやらないとばかりに剣を飛ばしてそれを掘り出していく。カスミはそれを見てスキルを使ってそれが何かを確認する。


「【遠見】……人骨か?いや、何かいるな。クリスタルの蛇と……サソリ?」

頭蓋骨の中にキラリと光る何かが見え、それが全身クリスタルでできた蛇とサソリであることが分かった途端、二匹は頭蓋骨から這い出して砂山に隠れてしまう。

それと同時にいくつもある砂山の中から見覚えのある蛇とサソリが這い出してくる。


「「「「またか!」」」」

予想通り、だが当たって欲しくなかった予想が当たり四人は声を揃えて叫ぶ。ボスとなるのは間違いなくあのクリスタルの蛇とサソリだが、それを倒す前にこの大量の即死効果持ちの雑魚モンスターを処理しなければならない。

ボス部屋に出てきて欲しくなかったものは全部出てきてしまったが、四人は腹をくくって武器を構える。


「蠍は間違いなくやばいぜ!俺とシンはそっちをやる。カスミとクロムは蛇を頼む!」


「「ああ!」」


「【土波】!アース【地震】!」


「ウェン【風神】!【崩剣】!」

ドラグは地面を揺らし、広範囲のサソリに一気にダメージを与え、ノックバックで跳ね飛ばして砂から引きずり出す。

シンは【崩剣】で分割できる最大数まで剣を分割するとそれを地面スレスレにまとめて横薙ぎに振るって一気に撃破していく。


「【死の炎】!」


「【武者の腕】!【血刀】!」

クロムとカスミはクロムが少し前に出ることによって敵を引きつけ吹き出す炎で一気に焼き払う。残った蛇はシンと同じように横薙ぎに振るわれた液状の刀が斬り捨てていく。

しかし、砂からは次々にサソリや蛇が湧いて出て、キリがない。


「こっちはスキル使って対応してんだぜ!?このままじゃクールタイムで捌ききれねえぞ!」


「どこかにあの二匹がいるはずだ!ボスはあのクリスタルの奴だろ、探すしかねえ!」

カスミとクロムの範囲攻撃は連打することができない。シンが何とか剣を分割して捌いているものの、ワンミスで崩れたとしてもおかしくない。


「っ、しゃーねえ奥の手だ。アース【怒れる大地】!」

ドラグがアースに命じると、部屋のほとんどを覆うレベルで地面が赤く光り、そこから鋭く尖った岩が飛び出してくる。それは蛇やサソリを問答無用で砂から引きずり出して、串刺しにしていく。


「いたぞ、あそこだ!」


「おーう、任せろ!」

カスミはボスの居場所を見つけるために観察に回り、そうして素早く見つけた蛇とサソリをシンの剣が一気に斬り裂いていった。


「どうだ!?」


「いや、終わってなさそうだぜ」

一定のダメージを受けた所で二体はするりと抜けてまた砂の中へ潜っていってしまう。四人はまた砂の中から蛇とサソリが溢れ出てくるのに備えて身構えるが、一向にその気配はない。


不思議に思っていた四人だったが、部屋の奥の砂山がもぞもぞと動いているのを見てそちらに体を向け直す。

次の瞬間にでも溢れ出してくるのではないかと思うものの、二つの砂山はそのまま形を成して凝固していき、最終的に砂でできた四人よりも大きい蛇とサソリになった。額部分にはクリスタルの体が小さく露出しており、二体が形をなすと同時に溢れかえっていた蛇とサソリは消えていった。

形態変化。本来なら気を引き締める所だったが、四人は待っていたとばかりに嬉しそうに武器を構える。


「これなら真正面からやれるぜ」


「俺が引きつけよう、三人はその隙にやってくれ」


「まずサソリから行こう。いっても攻撃は面倒そうだしな」


「ああ、これなら【武者の腕】もよく当たる」

ようやくボスらしくなった二体を見て、残ったHPはそれほど多くはないものの、ここからがボス戦だというような雰囲気で四人は駆け出していく。


「【挑発】!ネクロ【衝撃反射】!」


「【地割り】!」

クロムが注意を引きつつ砂のサソリに接近する。サソリはオーソドックスにハサミと尻尾を使って攻撃してくるほか、地面から先ほどのドラグのように鋭く尖らせた砂を突き上げてくるが、クロムに攻撃されつつ防がれつつなため、砂の棘を直撃させても回復速度を上回れない。

ドラグはクロムがサソリを引き付けているうちに蛇の方の地面を割り、行動を阻害する。


そうしているうち、カスミとシンがクロムの両脇を駆け抜けていく。狙うは見るからに弱点である、露出した本体部分である。

シンは全ての剣を一点に集中させ、そのまま高速で飛ばし、カスミは武者の腕と合わせて三本の刀で月を繰り出す。

パキィンと高い音がなって全ての剣がクリスタルの体を貫き、作り上げたばかりの立派な砂の体はさらさらと崩れていく。


「なんだ、存外あっけないものだな」


「んじゃ次な」


「お、これタゲ取らなくてもいけそうだな?」

先行して攻撃しているドラグの元に三人も参加して攻撃していく。

その結末はサソリと寸分違わないものになるのだった。

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