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防御特化と東へ。

東へ向かったのは、ドレッド、マルクス、マイ、ユイの四人である。

ツキミとユキミの背に乗って、フィールドをガンガン進んでいく。


「ほー、中々速いもんだな」


「うん、これならモンスターに出会っても上手く振り切れるかも……」

そう言っていると、正面から、拠点を襲ってきた一つ目で四足歩行のモンスターが現れる。マルクスのクリアの能力でも消え切ることはできないため、正面から四人に向かってくる。


「「【パワーシェア】【ブライトスター】!」」

ツキミとユキミは主人の方が攻撃力が高いため、STRを分かち合って上昇させることとなり、球状にダメージを与える光を放つ。

目の前から接近してきていたモンスターはそれを二つ重なるように受けてよろめく。

そうしてよろめいたところを両脇をすり抜けるようにツキミとユキミを駆けさせる。さらに、すれ違いざまに二人が振り抜いた大槌はきっちり全てモンスターに直撃し、そのまま光にして消しとばしてしまう。


「ひでぇ通り魔だ」


「改めて隣で見るとすごい威力だね……」

この四人の基本戦略はマイとユイを上手くモンスターに接敵させ全てを破壊するというものである。また、ツキミとユキミがいるおかげで速度もそれなりに確保されており、マルクスの罠も含めれば離脱能力も問題ない。

四人はサリーが作ったマップの画像を見て、楓の木の拠点の位置から印がどの辺りにあるかをおおよそ推測する。


「地形は変わってねーからな。サリーの話だとこの辺りに……あれか」

星すら見えない夜の闇が広がる中、目の前の湖には月が写っていた。空を見上げても月はどこにも見当たらないことから、その光景が異質なものであることは簡単に理解できる。


「もう行きますか?」


「ああ、ここで見ててもモンスターが来て面倒だ。それにマルクスはダンジョン内の方がやりやすいって聞いてっけど」


「うん、ここのモンスターだとクリアの能力が生かせないし……」


「ならさっさと行こーぜ。本当にダンジョンかも分かんねーしな」


「分かりました。ツキミ!」

マイとユイはツキミとユキミを走らせるとそのまま湖の淵までやってくる。


「とりあえず、湖の中央辺りまで行くぞ」


「ボート……出す?」

ツキミとユキミは泳ぐこともできるため、その必要はないと、水面へ足を伸ばす。すると、不思議なことにツキミとユキミの足は水中へと沈んでいかずに水面でぴたりと止まる。そのまま歩を進めても問題なく水面を歩くことができた。


「これは……当たりみてーだな」

四人がそのまま湖の中央、月の映る場所まで行くと体を光が包み込んでいく。


「早速発見か、まぁ死なねーようにな」


「うん」


「「はい!」」

全員で意気込んだところで四人の体は完全に光に包まれすっとダンジョンに転移していった。

転移先は地面が水びたしになっており、壁もじっとりと湿っている、全体的にジメジメとした場所だった。四人がいるのは円形の空間で、スタート地点だということがすぐに分かる。

この部屋からは通路が一本だけ伸びており、そこへ進むしかないようだった。


「さて、やるか」


「うん、じゃあクリア……【透明化】」


「これで消えたんですか?」


「うん。でも、効かないモンスターは向かってくるから気をつけてて」


「PVPだと分かってても対処できねーかもな」


「……どうだろうね」

四人は警戒しつつ通路を進んでいく。すると通路の向こうから一メートル程のうなぎが水をまといながら空中を泳いでくるのが見えた。泳いだ後には水の道が残り、そこにはバチバチと音を立てて青白い光が走っている。

四人はさっと武器を構えるものの、うなぎは四人に気づいてはいないようでそのまま真っ直ぐ泳いでくる。


「お姉ちゃん!」


「うん!」

二人は一歩前に出ると二本の大槌をそれぞれぐっと振りかぶり全力で振り抜く。

それはゆったりと泳いでいたうなぎを真上から叩き落とし、パァンと音を立てて地面に叩きつけられたうなぎはバチバチと放電しつつ光になって消えていった。


「豪快な暗殺だな……」


「【透明化】しがいがあるね」

攻撃を加えればバレてしまうため、イズとダンジョンに入ってしまった時は見つからないために使うしかなかったが、マイとユイがいれば全く違う効果をもたらす。モンスターからすれば何もない空間から不可視の即死攻撃が飛んでくるという状態なのだ。一撃で倒してしまえば、モンスターに見つかることもない。


「ウチのギルドじゃやれねー戦い方だ」


「あくまでも奇襲のためのスキルなんだけどね……」


「「あ、また見えるようになっちゃったので掛け直してくれると助かります!」」


「ボス戦で出てくるかもしんねーし、新しい見た目の奴は倒して行くとするか」

マイとユイの一撃が即死圏内かどうかは戦略に大きく関わってくる。こうして四人の攻略は順調な滑り出しを見せたのだった。

マルクスは二人に再度【透明化】をかけると、マイとユイにトラップの変化系のスキルで、相手の攻撃に反応して防御壁を生み出す効果を付与する。


「放電してたし……見えないだけだから無差別攻撃なんかには気をつけて」


「メイプルの【身捧ぐ慈愛】だったか?流石にあんな防御能力はねーからな。ある程度は予測して避けねーとな」

それが失敗した際の最後の砦がマルクスの防御壁なわけだ。マイとユイもメイプル以外の面々と組んだ時にも攻撃を上手く命中させなければと思っていたため、丁度いいスキルアップの機会と言える。


「このまま一番奥まで行っちゃいましょう!」


「気をつけて進まないとダメだからね、ユイ」

意気揚々と進んでいく中、放電するうなぎ以外にも、多様な魚が空中を泳いでいた。そして、しばらく行ったところで目の前に大部屋が現れる。そこはバチバチと放電する水を空中に残しながら泳ぎ回る魚で溢れかえっていた。

下手に触ったり攻撃したりすれば、全てのモンスターがこちらを向き一斉に攻撃してくることは容易に想像できる。


「ど、どうしますか……私達は一気に全部倒すのは難しいです」


「すり抜けたい所だけど、ちょっと難しいかな」


「しゃーねえ、シャドウ【覚醒】」

ドレッドの声に合わせて真っ黒い毛を持つ狼が呼び出される。


「戦闘回避能力があるのはマルクスだけじゃねーってことだ」

ドレッドはスキルの発動と同時に反対側の通路に向かって真っ直ぐに走るように三人に支持する。

それを聞いてマイとユイはツキミとユキミに乗ると、準備ができたことをドレッドに伝える。


「いくぞ、シャドウ【影世界】」

ドレッドの声に合わせて四人の真下が黒く染まり、そのままずぶりと全身が地中に入り込んでしまう。一瞬呆気にとられそうになった三人だったがドレッドの支持を思い出してそのまま真っ直ぐに駆け出す。斜め上には地面を透過して先程まで見ていた景色が広がっていた。そうして走っていると、下から押し上げられるようにして地上に近づいていく。

四人は何とか逆側の通路までモンスターに気づかれることなく走り抜けることができた。


「はは、これだと罠もすり抜けられちゃいそうだなあ……これの方が対処できなくない?」


「……どーだろうな」

【集う聖剣】メンバーの強さの一端を見たという様子のマルクスに対して、マイとユイは先程の不思議なスキルに驚くばかりだった。


「すごいです!いろんな使い方ができそうなスキルでした!」


「助かりました。ありがとうございます」


「いーんだよ。こっちもボスで火力出してもらわないとだからな。にしても……」

何をしても純粋な反応を返してくるマイとユイを見て、普段の攻略とは全く違う雰囲気にドレッドは頭をかく。


「【楓の木】らしい、か……」


「あ……考えてること分かる気がする」

たまにはこんな攻略も悪くないと、目を輝かせる二人を連れて、ボス部屋を目指すのだった。





クリアとシャドウの戦闘回避能力と、困った時にモンスターを一撃で屠れるマイとユイの攻撃力があれば、道中に関してはそこまで苦戦する要素はなく、四人はボス部屋の前までたどり着く。


「マルクス、準備は終わったか?」


「うん、大丈夫」


「「私達も大丈夫です!」」


「よし、なら開けるか」

ドレッドが先頭で中へと入る。すると、部屋の奥に水の塊を纏い浮かんでいる十メートル近い巨大ナマズがおり、その太く長い髭からは音を立てて電気が弾けていた。

ナマズの頭上にHPバーが表示されると同時に、その体をぶるりと震わせて体のまわりの水を四人に向けて飛ばしてくる。それは空中を漂っていたが、ナマズのヒゲがより激しい電気を纏ったかと思うと、合わせて電気を帯び始める。


「【遠隔設置・土壁】」

嫌な予感がしたマルクスは土壁を立てて、水球と自分達の間を遮る。その直後、轟音と共に浮いていたいくつもの水球の間をつなぐようにして極太の電の糸が伸び、しばらくして消えていった。


「心配すんな。俺が隙を作る。サリーとの連携もやってるよな?」


「「はい大丈夫です!」」

サリーと同じスピードタイプ、同じ武器のドレッドならマイとユイも動きを合わせやすい。サリーとは特訓で一緒にいた時間も長いのだ。

動きに似た部分を見出すことくらいはできるだろう。


「シャドウ、【影の群れ】!」

ドレッドは走り出すのに合わせて、影の中から何体もの狼を呼び出し、先行させて地面から少し上を浮かんでいるナマズに突撃させる。しかし、狼達はダメージを与える前にナマズを包む水に触れ、バリバリと音を立てて電撃を受け消滅する。


「面倒くせぇ……魔法でやるしかねーな」

近づけば自分も電撃を受けることになる。HP1で生き残るスキルも持っているため、試すことはできるだろうが、リスクとリターンが釣り合わない。

そうして魔法を使って注意を引きつつ、マイとユイの攻撃が難しくなったことで、どう攻略するかを考える。とりあえずマイとユイの方に背中を向けさせようとナマズの側面に回り頭をこっちに向けさせたところで、電撃にも負けない轟音を立ててナマズの腹に巨大な何かが激突する。

ナマズが大きくよろけたところで、その何かは地面に落下しズシンと地面を揺らしつつめり込んだ。ドレッドが飛んできた方向を見ると、そこにはトスバッティングの要領で、何かを放り投げるマイとそれを大槌でジャストミートするユイの姿が目に映った。見えはしないが隣でマルクスが二人のパワーに引いていたりもした。


再び轟音と共に飛来した何か。正確には一夜目についに完成したマイとユイの打撃に耐えうる超硬度のゲーム内物質調合謎物質球は、二発目も運良く反撃しようとしたナマズの顔面に突き刺さり、ダメージを受けたナマズは水の力を失って地面に落ちでダウンする。


「ドレッドさーん!今です!」


「お願いしますっ……!」


「なんつー力技……【セプタプルスラッシュ】!シャドウ【影の群れ】」

ドレッドは物は試しと今は電気を発していない、ナマズのヒゲの部分を攻撃する。数は力というように狼の群れと高速の連撃は確かなダメージを与えていき、連撃の途中でナマズの髭に大きな傷が入る。本体はまだ倒れないが、ドレッドには電撃攻撃の性能が落ちたことが予想できた。そこでナマズの体がバチバチと電気を放ち始めたため、ドレッドは一度距離を取る


「あの二人は……熊に乗っても間に合ってねえな」

ダウンがそこまで長くなかったことと、次のバッティング体勢に入っていたこともあって、それには間に合わない。


「マイ、ユイ!もう一発頼めるか!」


「「はいっ!」」

ドレッドは万に一つも自分に当たらないようにナマズを挟むように位置取ると、電撃を回避することに集中する。サリーとは違って多少ダメージを受けたとしても死にはしないため、マルクスが設置し続ける壁と、付与されるダメージカット効果を生かしてもう一度ダウンするまで時間を稼ぐ。


「こっちは……多分危ねーな。シャドウ【影壁】!」

次の攻撃を予測し、被害を最小限に抑える。そして、回避できないほどの巨大な電撃が飛んできた際はシャドウのスキルでうまくいなしていく。

スキルと技術を組み合わせて、時間を稼いでいると、再びナマズがバッティング攻撃を受けて地面に叩き落される。


「「今回は行けます!」」

次は急いで近づこうと決めていた二人はツキミとユキミに飛び乗って一気に接近する。


「「【ダブルストライク】!!」」

二人がツキミとユキミから飛び降りつつ放った攻撃はバッティングなどという二人だからダメージが出ている変則攻撃とは違い、きっちり攻撃スキルらしいダメージを叩き出す。

他の全てを犠牲に手に入れた破壊力はペインやミィにも決して劣らない。

誰でも手に入れられる市販の攻撃スキルですら即死級のダメージになるのである。

しかし、ナマズはHPがほんの僅かだけ残った状態で生き延び、体が今まで以上に激しい電気を放ち始める。不自然な耐え方からも見て、何かが来るとドレッドは一早く距離を取ろうとする。


「「耐えられた!?」」


「下がれ!多分ギミックだ!」

ツキミとユキミに乗り直した二人はドレッドに合わせて、マルクスの方まで退避する。

三人がちらっと背後を見ると、巨大ナマズの放電はピークに達し、落雷のような天井まで伸びる幾本もの光る柱となって、地面をえぐりつつ向かってくる。


「【遠隔設置・土壁】【遠隔設置・障壁】【遠隔設置・城壁】!」

マルクスが逃げる三人の背後に壁を設置し、少しでも電撃が追いつくのを遅らせる。そうして何とかマルクスの元までやって来たところでマルクスはイズと共に戦った時にも使った砦を生み出す。


「【設置・一夜城】!これでもまだ相殺できない……!」


「どれくらい持つ!?」


「このままのペースだと……30秒!」

砦の外に見えるのは電撃の真っ白い光だけで、その向こうがどうなっているかは分からない。しかしこのままやられるわけにもいかない。


「しゃーねえ、あと一撃だ。どうせこのままじゃ焼かれるんなら、やってみるか。面倒だけどな」

ドレッドは他に手もないと砦を飛び出し、極大の電撃の中へ飛び込んでいく。


「【超加速】【トップスピード】【神速】シャドウ【影潜り】!」

ドレッドは一気に加速するとそのままシャドウのスキルによって影の中に沈み込む。時間としてはほんの僅かだが、スキルによって加速したドレッドはその一瞬で巨大な電撃をすり抜ける。

その先には巨大ナマズがおり、大量の電撃が降り注いでいるが、そこを駆け抜ける必要は最早ないと、ドレッドは土魔法で石弾を生み出す。


「はぁ、そこまで厚みがなくて助かった」

撃ち出された石の弾丸はナマズの眉間にヒットし貫通すると、そのHPを今度こそゼロにした。


「はぁ……何とかなったか」


「ドレッドさん大丈夫ですかー!」


「ん、ああ、気にすんな。問題ねーよ」

戦闘が終わり、全員に一枚のメダルが渡される。嬉しそうにするマイとユイを見つつ、ドレッドは次のダンジョンはもっと楽に勝てる相手ならいいと思うのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] シャドウの説明部分の支持は指示が正しいと思う
[良い点] この話はドレットの普段のイメージと違う部分を 書いていて好きだから、何度か読み返している。 [気になる点] 作品全体に言えるのだが、同じ言葉を繰り返すのは プロとしてはよくない。ただ、逆に…
[一言] 意外と面倒見のいいドレッドが新鮮でしたw
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