防御特化と迎撃。
強化モンスターが現れるようになる少し前に拠点は完成した。迎撃スペースを少し削ることにはなったが、マルクスのトラップ設置によって質はより良いものになっていた。
「あら、スクリーン?何か見るのかしら?」
「ここに、映像が出るようにしておくから……」
マルクスが張ったスクリーンにパッと映像が映し出される。そこには蟻の巣状になったこのダンジョンの全ての部屋の様子が映っていた。
「わー!すごい!」
「み、見えてれば再設置したいトラップの種類もモンスターの強さも分かるから……じゃあね」
マルクスはメイプルに戦闘の方は他のギルドメンバーに任せることを伝えて、仕切りで区切られた自分のスペースに戻っていく。
新しく作り直された居住スペースは、中央に広めのくつろげる空間を用意し、そこに接続するように各ギルドの区域が設けられている。マルクスのスクリーンがあるのもここだった。
基本は【楓の木】の拠点なため、ワイワイガヤガヤとしているのは楓の木のメンバーだが、よく【楓の木】に来ているのもあり、フレデリカなどはそんな雰囲気にすぐに溶け込んでいた。
「暇だねー。ダンジョン攻略って訳にもいかないしー、でも気も抜けないしねー」
「馴染んでるなあ……何か来たら防衛は頼むからね?」
「分かってるってサリー。炎帝もいるし、負けないよー」
「サリーさん!何か入ってきたみたいです!」
噂をすればというように、マルクスの設置したアイテムに侵入者の姿が映る。そこにいたのは四本の足を動かして走りこんでくる一つ目の化け物だった。メイプルの【暴虐】から足を減らして代わりに目を増やしたようなそれは、次から次へとメイプル達の拠点へ飛び込んでくる。それは凄まじい数で雪崩れ込んできており、物量で罠を突破してくる。罠のおかげで数は減っているものの、全ては倒しきれそうにない。
「あー、これはここまで来そうだねー。昨日の夜より強くなってるかなー。ペイーン!仕事だよー!」
フレデリカが【集う聖剣】の区画へ向かっていくのに合わせ、【炎帝ノ国】の区画からもミィが出てくる。
「私が行こう。後ろに控えていてくれ」
「ミィ、一人で大丈夫?」
メイプルがそう聞くと、ミィは自信ありげにふっと笑う。
「私も大規模ギルドのギルドマスターだ。それにシンはともかくマルクスとミザリーは後方支援の方がメインだからな」
それなりの耐久力を持つ大量のモンスターが雪崩れ込んでくるのであれば、ミィ一人での戦闘が一番やりやすいとのことだった。
「危なかったらいつでも飛び出すからね!」
「ああ、安心しているといい。その必要はないだろう」
ミィがそう返したところで、ペインがやってきて、それに同調する。
「ああ、俺も行く。拠点を借りた分の仕事をすると誓おう」
「はいはーい、じゃあバフだけしてくからよろしくー」
フレデリカに合わせて、マルクス、ミザリー、イズがペインとミィにかけられるだけのバフをかける。二人からは様々な色のオーラやエフェクトが立ち上り、準備は整った。
「行こうか、ミィ」
「今度は出し惜しみは無しだぞペイン」
「ああ、あの数……下手に残すより一撃で倒す方がいいだろう」
ミィとペインはそれぞれイグニスとレイを呼び出すと、迎撃エリアまで歩いていき武器を構える。
そこにドスドスと足音が響き始め、モンスターが通路から大量に飛び出してくる。
モンスターは二人を捕捉した途端、眼球の前に黒い魔法陣を展開し、何らかの攻撃をしようとした。しかし、その魔法陣から何かが発生する前に二人が攻撃を開始する。
「イグニス【不死鳥の炎】【我が身を火に】」
「レイ【光の奔流】【全魔力解放】」
ミィの体は赤い炎に包まれ、地面を炎が伝っていく。ペインの剣は青白い光に包まれていき、バチバチとスパークのような音が聞こえ始める。
「【殺戮の豪炎】!」
「【聖竜の光剣】!」
モンスターの魔法陣から黒い光が放たれたその瞬間、それをはるかに上回る量の赤と白が空間を埋め尽くす。ミィの生み出した炎は地面全てをダメージフィールドに変えて、前方全てを焼き払い、ペインの生み出した光は悪魔型モンスターへの特攻性能を持ち、光に包まれたものから順に浄化するように消し飛ばしていく。
その炎と光は通路を逆走し、途中に残っていたアイテムなどもまとめて吹き飛ばして、ダンジョン内を暴風のように吹き荒れてやがて消えていった。
「何だ、二日目といえど思ったほど強くはないものだな」
「今回は地形がいい。ここなら俺達は隙の大きい大技で簡単に対応できる」
「すごーい!さっすがミィとペインさん!」
「また攻めてくることもあるだろう。十六人いれば交代で守ることも楽になる。俺達のギルドにはいつ声をかけてくれても構わない」
「私達も同じだ」
「ありがとう!」
メイプルがすごいすごいと二人にさっきの技の感想を伝える中、モニターを見ていたフレデリカが駆け寄ってくる。
「ちょっとペインー!マルクスのカメラも吹き飛んだんだけどー?」
スクリーンには入り口辺りのものを除いて何の映像も映らなくなってしまっていた。
「……?いつも掛からないバフの中に射程延長があったか……すまない」
「ミィも……僕のあれ再設置に時間かかるんだからね」
「あ、ああ、悪かった」
罠も含めて再設置の必要があると話している面々を見て、クロムとカスミは先ほどの光景を思い返す。
「ギルドマスターというのはどこもああいったものなのだろうか」
「いや、あんな一騎当千はそこまでいないだろ。俺達の周りにそういうのが多いだけだ」
自分達のギルドマスターのことも思い浮かべながら、次にいつ襲撃が来てもいいように、二人も罠の再設置に向かうのだった。
メイプルとサリーはマルクスも連れて、ペインとミィの攻撃によって壊れてしまったアイテムを置き直す。
「こんなに本格的にダンジョン作ることになるとは思わなかったなぁ……」
マルクスはそう溢しながら視界を得られるアイテムを部屋の隅に設置していく。
「んー、やっぱりペインとミィの攻撃力は高くなってたね。想像以上かな」
「すごかったよねー」
「また、どこかで戦うかもしれないし。楽観視もできないけどね」
「そ、そっか。そうだね」
第四回イベントの時よりも強くなっている二人を見て、いつかまた戦う時は頑張ろうと、メイプルはぎゅっと拳を握りしめる。
「バフが乗ってたとはいえ、僕達もびっくりしたよ。ミィと同じレベルの範囲攻撃もできるとか……弱点を付けば勝てるってタイプじゃないし」
もちろん【炎帝ノ国】も【集う聖剣】に注意を向けている。ライバルの大規模ギルドの力の一端を見ることができたのは、ここに集まった三つのギルドそれぞれにとって大きなことだった。
そして、そこから一歩抜け出るためには今回のイベントでメダルを集めるのが重要になる。
しかし、【炎帝ノ国】のミィ達のパーティーは既に半分になっており、前線を張るプレイヤーがシンしかいなくなっており、苦しい状況と言える。
どうしたものかと考えつつ、再設置を終えたマルクスはそのまま考え込みながら先頭を歩いて最奥へと戻っていく。二人もそれについて洞窟最奥に戻るのだった。




