防御特化と合流4。
「……どうしようかしら?」
「どうしようって言われても……二人じゃどうにも……」
岩と蔦の壁で守りを固め、その中に引きこもっているのはマルクスとイズだった。
二人とも設置や準備の時間がなければ戦えないタイプのプレイヤーなため、何とかしようと逃げ回っていたところで鉢合わせたのである。
「マルクス、あとどれくらい耐えられそうかしら?」
「……今の設置量だと……ご、五分かな?」
「私もフルパワーでアイテムを作るから、防衛を交代しながら進むしかないわね!」
イズはそう言うと工房を展開して次々にアイテムを作っていく、そしてマルクスが言った通りきっちり五分で壁が破壊されモンスターがなだれ込んでくる。
「これで、どうかしら!」
しかし、そのモンスターはイズが生産した氷の結晶が生み出した氷壁によって妨げられた。二人はそれに合わせて少し移動しつつ、何とかいい地形に逃げ込めないかと考える。
「今度はこっちでやる。またアイテム作っておいて……」
「そうね。仕方ないけれど、今回も高くつきそうだわ」
手持ちのゴールドのことも考えつつ、マルクスとイズでかわるがわるせっせと罠とアイテムを生産して何とか生存を続ける。
「うぅ、ジリ貧なんだけど……ミィ早く……」
「……洞窟があるわ!あそこなら迎え撃てるんじゃないかしら!」
「ん、でも、ちょっと距離あるよ」
「一瞬で行ける方法があるわ!」
「本当……助かるなあ……ぇ?」
イズはインベントリから水の塊を取り出す。それはふよふよと浮かんで二人の足元に漂う。
「フェイ!【アイテム強化】」
「っ、これ絶対!メイプルがよくやるやつ!」
「正解っ!しっかり掴まってね!」
「わっ、わっ!」
イズはマルクスを掴んだまま足元の水球を踏みつける。すると強化された水球から凄まじい量の水が一気に溢れ出し二人を吹き飛ばすようにして押し流す。
そして、モンスターの群れを抜けてそのまま洞窟に転がり込むことに成功した。
ここからは迎撃だと構える直前、二人の足元が白く輝き、光が二人を包んでいく。
「これって……」
「うわあ……転移だ……」
発動してしまえばどうしようもなく、二人はそのまま洞窟から消えて別の場所に飛ばされる。光が収まり、二人が目を開けるとそこは壁が石レンガでできており、地面はサラサラとした砂で覆われている通路だった。背後はすぐ壁になっていて、先程まで悩みの種だったモンスターはいないようだが、新たな問題が発生する。
「ダンジョンに、入っちゃったわね」
「ふ、二人で?ど、どうしよ……」
後方支援役二人ではボス次第では詰みである。
「ミィも【印の札】を見てじゃ転移先までは来れないし……うわ、やばいやばい」
「どうしようかしら。このままダンジョンの中で過ごすのはどうかしら?他に人が来ないとも限らないわ」
「一定時間以上いると強力なモンスターが出るんだ……一日目に酷い目にあったよ」
思い出すのも嫌だというようなようすのマルクスを見て、イズにも嘘ではないことが分かる。
「となると、困ったわね。何とか攻略するしかないかしら」
「うん。そうするしかないかな。出し惜しみしてられる状況じゃないし……クリア【透明化】」
マルクスの頭に乗っていたカメレオンがスキルを発動すると、エフェクトがマルクスとイズを包んでいく。
「これでぶつかったりしなければ見つからないから……まあボスには効かないだろうけど。外のモンスターにも効かなかったし、困るよ」
「なるほど。いい能力ね!罠使いなら尚更だわ」
「そ、そうかな?」
二人はこれで雑魚モンスターから視認されなくなり、観察しつつダンジョンを進めるようになった。
「砂……ジャングルのイベントの時の遺跡に似てるかな」
「クロムとカナデも攻略したっていうアレね。確かにそんな感じがするわね」
そうして進んでいると、地面の砂が盛り上がって砂でできた大きな槍と鎧を装備したモンスターが起き上がる。そのモンスターは体まで砂でできているようで、さらさらと砂をこぼしつつこちらへ向かってくる。
「大丈夫。あの感じなら、見えてない……はず」
「端によっておくわね」
イズとマルクスはピタリと壁に張り付いてじっと砂の兵が通り過ぎていくのを待つ。クリアの【透明化】はしっかり効いているようで、二人は見つかることなくほっと息を吐く。
「ふぅ、これなら一番奥までいけそうね」
「うん、とりあえずここから出ないとどうしようもないよ……」
二人はそのままダンジョンをボス部屋目指して奥へ奥へ進むのだった。
クリアの力もあって、二人はボス部屋前には難なく辿り着くことができた。問題はここからである。
「ど、どうしよう。ここまではこれちゃったけど……」
「そうねえ。まあやるしかないんじゃないかしら」
「だよね……」
「ほら、頑張らないと。それに、扉の前ならいくらでも準備ができるでしょ?」
「えっ?うん、まあ」
二人は基本的にアタッカーがいる状態でそれをサポートするメンバーとしてダンジョンに挑む。普段は自分達がダメージを出すための準備などしても時間がかかるだけなためしないのである。
だが、今はそうはいかない。
「どんな相手か分からないけれど、準備する時間を与えると怖いって分からせてあげないとね」
「……うん、そうだね。分かった。僕も第四回イベントの時とは違うよ」
そうして二人は作成に時間がかかるアイテムや、発動に時間がかかるスキルを準備し、完全に準備を終えて扉を開け中に入る。
中は広い空間となっており、床はまるで砂漠のように砂ばかりだった。そして、部屋の最奥には砂岩でできた玉座があり、道中で見た兵より立派な砂の槍を持ち、赤いマントと金の鎧を見に纏った王と呼べるような者がいた。
それは二人が部屋に入ると同時に、クリアによって透明になっていることも御構いなしに、座ったまま地面を槍でコンと突く。すると、手前の砂から兵士がずらりと並んで起き上がった。
「そっちが兵士なら……こっちは城だよ。【設置・一夜城】!」
マルクスがスキルを発動すると二人を囲むようにして大きな壁がせり上がり、砦を形成する。
マルクスはさらにスキルを発動させ、悪魔モンスターから身を守った時のように、蔦や岩でいくつものバリケードを作る。そうしているうちに、イズはマルクスが生み出した砦にアイテム、砲台を並べていく。
「普段はメイプルちゃんの【機械神】で十分だけど、今なら使えるわ!」
「あとはこっちも兵士だ。【遠隔設置・水の軍】【遠隔設置・花の騎兵】」
あくまでもトラップなため、モンスターが近くに来て発動し、使い切りで効果も短いが、召喚された砂の兵と潰し合えば数の有利は元に戻せる。
「守るのは得意だから……ボスをお願い」
「分かったわ。砲弾のプレゼントね!」
イズはフェイによって砲弾と大砲を強化し、砲弾に【リサイクル】をかける。これによって、部屋の奥まで容易に届き、かつ複数回爆発する世にも珍しい砲弾の完成である。
「全弾、放つわよ!」
砦に並べられた大量の大砲から打ち出された弾は玉座に向かって正確に飛び、その一帯が爆炎に包まれる。
「うわ……せ、生産職って嘘じゃないの?」
「あら、本当よ。ちょっと、攻撃もできるようになってきただけ」
「ちょっと……?」
「話してる余裕はないみたいよ。まだまだ元気だわ」
「……まあ、ボスだからね。でも……」
「ええ、準備は万端だもの」
イズはインベントリからさらに多くの砲台と爆弾がセットされた投石機を取り出し、マルクスは砂の兵を押し返す勢いでトラップを遠隔設置していく。爆弾は砂の兵を倒し、前線を押し上げ、マルクスのトラップが敷かれているエリアを広げていく。
「よし……じゃあこのまま距離を詰めるから」
「ええ、大丈夫よ」
「【チェンジ】」
クールタイムは長いものの、設置した罠二つの位置を入れ替えるスキル。クールタイムが長い理由はこれがただの便利スキルではないからだ。
砂の兵を押しのけ王のすぐそばに設置したトラップ。それと交換するトラップは決まっている。
「あら、こんなに近いと狙いやすいわね」
位置を交換したのは当然【一夜城】である。そして、そこからは王に向けていくつもの大砲が向けられ、さらに接近した際に使うための爆弾がゴロゴロ転がっている。
大量のトラップと砦によって後ろで召喚される砂の兵をシャットアウトして、インベントリをからにする勢いで爆弾を王に放り投げる。
「拘束くらいはできるよ……」
ガチガチに強化された拠点ごと接近されては指揮官タイプのボスでは部が悪い。マルクスによって四肢を縛り上げられ、それでも槍を突き出した所でボスは天井まで届くような爆発に包まれ、砂になって消えていったのだった。
「思ったより何とかなったわね?」
「やっぱり……【楓の木】変だよ。あ、メダルだ」
「あら、私も手に入っているわ。これなら二日目は合流と拠点作成に割いても大丈夫かもしれないわね」
「あ、そうだ。合流しないとだった……」
と、ここで二人の体が光に包まれて、元のフィールドへ戻っていく。元の場所へ戻るということはまた、あのモンスター達に囲まれるということで、二人は警戒してそれぞれ構えるが、モンスター達はいなかった。代わりにそこにいたのは二つの火球を操るミィと回復に専念するミザリー、そしてほんの少し前までモンスターに囲まれていたのだろうクロムだった。
「お、本当にいた。イズ、無事みたいだな」
「マルクスも無事だったか、よかった」
「うん、まあ……なんか色々あったけど結果的に無事?だね」
「それに、メダルも手に入れていたようでしたけれど……?」
「俺の方にも通知が来たってことは二人でやったのか?」
「色々と相性が良かったの」
「うん……そうだね」
嬉しい誤算だったと、メダル一枚を得たことでそれぞれが笑みをこぼす。三人は【印の札】の反応が消えたあたりでマルクスを待っていたのである。
「クロムと合流できたのは良かったわ。これで安心してメイプルちゃんのところまで行けそうね」
と、ここでクロムが同行している理由をイズに説明する。それを聞いて、イズもまた同行することとなった。人数は多いに越したことはない。
「ただ乗せてもらうっていうのも悪いし、いくつかポーションを渡しておくわ。ミィなら分かると思うけど、私の特別製よ」
「ああ、助かる。シンを見つけたらメイプルの元まで送って行こう。それくらいは構わない」
「ありがとう、助かるわ」
「……ねえ、迎えに行こうとしてるところ悪いんだけど……シンの【印の札】っぽいのが消えたかも」
「何?そう簡単にやられるとも思えないが……」
シンの実力をよく知っているミィは怪訝そうな顔をする。であれば、反応が消えるケースはもう一つだけである。
「ダンジョンに……入ったのかも?」
マルクスが自分でもほんの少し前に体験したことである。そして、その推測は当たっているのだった。




