防御特化と拠点作成。
それからしばらく。メイプル達はダンジョンを攻略してからというものいくつかサリーが目をつけていたところを回ったが、あいにくどれも外れだった。
「ふぃー、中々見つからないねー」
「そうだね。強いモンスターが出る時間も近づいてきてるし、今から下手にダンジョンに飛び込むより合流した方がいいかも」
まだ強いモンスターというのがどの程度のものなのか分かっていない以上、無理は禁物である。ダンジョン攻略もそうだが、生き残ることで得られるメダルも大切なのだ。
「一旦クロムさんと連絡とってみるよ」
サリーがメッセージを送っている間に、ツキミとユキミに乗って開けた場所へ移動する。今回はプレイヤー同士の戦闘がないため、開けた場所はモンスターからの奇襲を受けにくく、いい場所と言える。
「おっ、向こうもダンジョンに入るのは一旦止めて、拠点にできそうな場所を探してるんだって。良さげな洞窟があるみたい」
「おー!じゃあ合流しよう!」
「これで夜も安心ですね!」
「場所を送るからマイとユイ、移動はお願いできる?」
「「もちろんですっ!」」
二人はツキミとユキミの移動速度を上げると、平野を越え森を越え、クロム達の元へと向かった。
道中多少モンスターと接触することはあったものの、四人の敵ではなく、無事合流することができた。
「あ!いたいた!おーい!」
メイプルがそうして大きく手を振るとクロム達も気づいたようで近づいてくる。
「お、メイプル達か。そっちも上手くやったみたいだな」
これでギルドの全員が銀メダルを二枚獲得したことになる。あと三枚集めて最後まで生き残れば、目標の十枚に届く。
「そうだそうだ、拠点にできそうな洞窟があったからな。こっちだ」
クロムの先導で洞窟の中へと入っていく。洞窟は奥へ続いており、ダンジョンとは違い明かりなどはないものの、いくつか少し広くなった空間があり、蟻の巣状になって最奥のより広い空間につながっていた。
「見た目だけならダンジョンっぽいけど……何も出ないか……」
「ああ、こんな感じにダンジョンっぽい場所がいくつかあってな。おそらくダミー兼休息用だと思う」
「じゃあ、夜までの間はここを整えないと!快適にしないとね!」
ゆったりと夜を過ごすためには、こんな岩肌がむき出しの洞窟ではいけない。英気を養うためにも改良は必須である。
「外に出しておいても消えないタイプのアイテムもあるわ。流石に家具はそこまで持っていないから、今から作るわね。」
「んー、頼もしいなあ。じゃあ僕はイズにアイテムを貰って防衛用のトラップでも仕掛けてこようかな」
「「私達も手伝います!」」
「時間がないからね。私とあとメイプルも分担して、まずは防衛機構を完成させよう」
「うん!頑張るよ!」
メイプルの性質上、【楓の木】は攻め込むより守りに徹する方が得意である。入り口を限定し、アイテムをフル活用すればただの洞窟も強力な防御能力を備えた要塞となる。
メイプルもイズからアイテムを受け取って、部屋をカスタマイズすることとなった。
「んー、どうしようかなあ……結構広いし、ここを通り抜けられないようにしないとだから……」
メイプルは今までにもしたように【ヴェノムカプセル】で部屋全てを埋め尽くしていく、まずはここからスタートと言うように、時間をかけて一部屋が毒に沈み切るのを待つ。
「よーし。んーこれだけだと駄目かなあ。通路から攻撃されたら壊されちゃうもんね……」
メイプルの生み出す毒は確率で即死を与える。上手く当てられればそれだけで一撃死の可能性があるのだ。
「……そうだ!えーっとイズさんから貰ったアイテムに……あった!」
メイプルは毒のカプセルの中をざぶざぶと進みながら、アイテムを設置していく。これは攻撃に反応して水が噴き出し相手を跳ね飛ばすトラップである。ただメイプルが跳ね飛ばしたいのはモンスターではなく自分の毒である。メイプルはこれを大量に設置すると自分達の側に毒が流れてこないように片側の通路を塞ごうとする。
「んー……いい感じのアイテムがない……あ、そうだ【天王の玉座】!」
メイプルは狭い入り口に玉座をドンっと設置すると隙間に余っていた木材を差し込んで無理やり片側を封鎖する。
「よーし一部屋完成っ!次々!」
守りを固めるためにメイプルはまた他の部屋へと走っていく。そうしていくつか部屋を回るとマイとユイの姿があった。
「どう?上手くいってる?」
「あ!メイプルさん!」
「は、入ってきちゃ駄目です……!」
「え?わっ、あうっ!?」
メイプルが部屋に踏み入って、うっかり何かを踏んだ瞬間、高くなっている天井から凄い勢いで両手を回すことも難しい程の巨大な岩が落ちてきてメイプルの頭に直撃する。それはガンッと音を立てて少し跳ねると前に転がり落ち、それが次のスイッチを踏んで次々に岩が落ちてくる。
それが収まったところでマイとユイが慌てた様子でひょいひょいと岩をどけていくと、その下から無傷のメイプルが現れる。
「び、びっくりした……ごめんね!折角の罠が発動しちゃった!」
「大丈夫ですっ!それにメイプルさんが無事でよかったです」
「もう一回置き直すの手伝うよ。シロップは呼べないし……この盾に乗って!」
メイプルは装備を変更し大盾を三枚装備すると、二枚に岩を持ったマイとユイを乗せて再設置に向かう。
「うう、他の部屋を見にいく時も気をつけないと」
「上手く歩けば通り抜けられるので……外に出るときに困ることもないはずです」
「あ、そっか……あの部屋通り抜けられないや」
メイプルは罠の設置は不得意なようで、自分のカスタマイズした部屋を思い返しどうしたものかと考える。
あの部屋は近づいたものを問答無用で倒すことはできるが、その代わりギルドの面々も誰一人近づけないのだ。
「あとでサリーにも相談して、作り直そうかな……」
「ど、どんな部屋を作ったんですか?」
「えへへ、それはねー」
そんなユイの質問に答えつつ、罠の再設置を済ませて、この部屋を後にした。
マイとユイの部屋もまた殺傷力の塊のような部屋なため、入ってくるモンスターがひたすら可哀想になるものである。
ここから三人で残った部屋に落石トラップや毒沼を設置して、やりきった表情で最奥に戻ると、そこは半分を境に照明やテーブルが置かれ、パーテーションによって個人のスペースも作られた快適空間になっていた。興が乗ったのか、イズはカーペットを敷いて壁紙まで貼り始めている。
加工がされていないもう半分のエリアは罠をくぐり抜けてきたモンスターの迎撃用である。
「わっ、すっごい綺麗になってる!」
「あ、おかえりなさい。もうトラップ設置は終わったのかしら?」
「はい!大丈夫です!」
「きっちり準備してきました」
「こっちもほとんど完成よ。第四回イベントの時と比べてもかなり快適になったと思うわ」
イズは最後の仕上げとばかりに迎撃エリアに向けて砲台を設置して、一気に襲ってこないように壁を作り、ふぅと一息つく。
「結構大仕事になったわね。でも、いい経験になったわ。それに楽しかったもの」
「す、すごいですね。かなり素材を使ったんじゃないですか?また集めないと……」
「貴重なものはそこまで使っていないわ。でも、また今度お願いするわね」
「私もお姉ちゃんもいつでも大丈夫です!」
四人でそうやって話していると、残りの四人も罠を設置しきって戻ってきた。
「いやー、設置してきたぞ。ただ、外に出る時もちゃんと注意して出ないと、しくじったら死ぬようなのも多くてやばいな」
全員が同じような感想を抱いているようで、うんうんと頷いているとメイプルがハッとした表情で声を上げる。
「あ!そうだ、他のプレイヤーの人が入ってきたらどうしよう!巻き込まれちゃうよ!」
「ん、あー大丈夫。外に看板立ててきたから」
「へっ?あ、そうなの?ありがとうサリー!えっと、どんなの?」
「『楓の木本拠地 危険物多量 命の保証なし』って」
「……間違ってはいないだろう」
「むしろこれ以上ないほど正しいと言えるね」
「そうね。トラップ塗れだもの」
そんな殺人トラップ塗れのダンジョンを用意して、遂に強力なモンスターが現れる時間がやってきた。
「とりあえず、構えて待っておこうか」
「そうだね。どんな感じで出てくるかも分からないし」
休息エリアと迎撃エリアの境で、イズが建てた壁に身を隠しつつ、いつでも攻撃ができるように、それぞれが武器を構える。そうしていると、上から地響きが連続して聞こえ、何かがこのダンジョンの中に入ってきたことが分かる。
「何か来た」
「うん、いつでも攻撃できるよ」
緊張した空気が漂う中、しかし上から聞こえていた地響きは次第に収まっていき、いつまで経ってもそれらしいものはやってこない。
「……死んだか?」
「おそらく……一度罠の起動状況を確認する必要があるだろうな」
どの程度強力なモンスターだったのかを予測できる上、倒せていたのであれば、罠の再設置も必要になってくる。
「私とメイプルで見てこようか。最悪の場合でも逃げてこれるだろうし」
「そうね。変に罠が起動してもメイプルちゃんがいれば安心だもの」
そうして二人が休息エリアから足を踏み出したところで、上へと続く通路から一体、メイプルの【暴虐】状態のような角が生え、目や鼻のない、悪魔らしい翼を生やし槍を持ったモンスターがダメージエフェクトを散らしながらふらふらと飛んできて、ズシャッと地面に落ちて光となって消えていった。
「ああ……頑張って生き残ったんだろうにな」
「そう、だな。いや、私達も生き残ることが目的だからな」
どっちが悪役でダンジョンのボスか分からない状態になったが、あの悪魔は一つ貴重な情報を与えてくれた。
「多分、対空性能が足りないのかな」
「そうだねー、確認したら罠もより改良するかなあ」
メイプルとサリーが罠をチェックして回ると、入り口から順に罠が作動しており、地面を歩くタイプの悪魔のものと思われる素材が大量に落ちていた。
「そこまで再設置も難しくないし、皆を呼んで作り直そう」
「うん。あ、そうだ!マイとユイなら大きな岩とかも運べるし、道を塞いだりして、罠の方に向かわせるとかもできるかも!」
「いいね。ゆっくり寝たいし、防御機構は盤石にしていこう」
二人は現状を写真に撮ったりして記録し、また最奥へと戻っていった。
そうして夜も深くなってきたところで、罠の再設置も終わり、交代で休むこととなった。
「さてと、強力なモンスターっていうのは勝手にこっちに向かってくるみたいだし、交代で寝るしかないかな」
「とりあえず入り口は塞いでおいたらどうだ?マイとユイなら楽にできるだろ」
「マイ、ユイ頼める?」
「「はい、大丈夫です!」」
ユイとマイは迎撃エリアの奥にある出入り口まで向かうと、罠にも使った大岩をいくつも取り出し、さくさく通路を塞いでいく。
「よし、これで無理矢理入ってくるやつがいたら分かるだろ」
奥へ行くにはいくつもの大岩を壊さなければならない。破壊音が聞こえれば即座に対応すればいいため、奇襲も受けづらくなったと言える。
「これでひとまず安心かな……」
「おーい!サリー!こっちで遊ばなーい?」
肩の力を抜いたサリーを居住スペースからメイプルが呼ぶ。空き時間を潰すためのアイテムはいくつもインベントリに入っているのだ。今までもそうだったように、笑顔で手を振ってくるメイプルを見て、サリーは少し微笑むとメイプルの元に歩いていく。一夜目はこうして遊んで休んでをしているうちにどんどん深まっていくのだった。




