防御特化と接触。
【炎帝ノ国】のギルドメンバーであるミザリー、マルクス、シンの三人は、上手く合流することができ三人でモンスターを手際よく狩って回っていた。マップが公開されているため、連絡を取り、移動しさえすればミィとも合流できるが、三人はそれはしないでいた。
「あくまでもパーティーじゃあないもんなぁ」
「そうですね。ミィの範囲攻撃に巻き込まれると、無事ではすみませんから……」
「あれ……炎の量制御できないもんね……」
ミィは自分を中心にエリアを焼き払う攻撃が得意だが、個人の集まりの状態でそんなことをすれば、三人も火だるまである。
「まあ、ミィなら一人でも上手くやるさ。俺達は俺達できっちり撃破数を稼がないとな。俺がHPを減らすから、トドメは頼む」
シンは合流するまでにも【崩剣】とテイムモンスターである鷹のウェンと共にかなりのモンスターを倒していた。
それに比べると、いくら攻撃もできると言っても回復特化と罠特化のミザリーとマルクスは効率が悪くなってしまう。そうしているうちにモンスターの姿を発見する。
「はい、任せます」
「援護はできるけど……間違って罠踏まないようにね……?」
「俺は突っ立ってても戦えるからな。足元に置かれなきゃあ大丈夫だ。いくぜ!【崩剣】!」
シンはこちらにやって来る虎に向かって、剣を飛ばし切り刻んでいく。
「ウェン!【風神】!」
ウェンと呼ばれた鷹の周りで強烈な風が渦巻き、いくつもの風の刃となって、さらに虎を切り裂いていく。
虎は三人に接近しようとするだけでいくつもの刃に何度もなんども切り裂かれ、瀕死状態までHPを削られてしまう。一撃の重さはなくとも、テイムモンスター込みでここまで手数があれば話は別だ。
「【ホーリーランス】!」
約束通りミザリーがとどめを刺して、次の獲物へと移っていく。
「いつも思うけど……よくそんな数の剣飛ばせるね……」
「慣れだよ慣れ。気づいたらできるようになってるもんなんだ」
「そういうものでしょうか?」
「二人のモンスターは?前聞いた時から何か変化はあったか?」
「僕?……クリアはまだそこまですごいことはできないよ。カメレオンらしく姿を消したり……あ、でも最近僕も透明にできるようになったかな……」
「私のベルは相変わらずですね。珍しいとは思うんですけれど」
「まだ何もパッシブスキル以外覚えてないのか。それはやっぱ珍しいな」
ミザリーのベルと呼ばれた長毛の白猫は自分の周りのごく小さい範囲にバフ効果を与えるパッシブスキルを次々と覚えている。回復力上昇や、与ダメージ増加といった具合である。
ただ、まだまだその範囲も狭いため、実用的とは言い難い。
「きっと大器晩成型だと思いますよ。大事に育てていきます」
「っと、廃墟エリアに入るぞ。プレイヤーがいることが多いからな」
「後ろから追ってこれないように……罠置いておくよ」
「おお、いいねぇ!助かる」
そうして三人はモンスターを狩りつつ廃墟の中を進んでいく。シンの予想通りプレイヤーもそれなりの数いたが、三人の相手になるものではない。
しかししばらく狩りを続けていると、聞き覚えのある声がした。
「ふーんふーんふふーん……げっ、【炎帝ノ国】の……!」
「っと、フレデリカ」
声の主はフレデリカだった。今のところ一人のようで、杖を構えつつ、じりじりと距離を取ろうとしている。後衛一人では三人組との戦闘は厳しいことは間違いない。
「あははー、死んじゃうとペインに怒られそーだしー。見逃してくれない?」
「やるぞ!」
「はい!」
「うん……」
「あーもーなんでー!?っ、仕方ないっ。ノーツ【覚醒】!」
フレデリカの頭の上に黄色の小鳥がポンっと乗る。最低限のスキルで済ませられればいいと思いながら、とにもかくにもなんとかこの場を切り抜けなければならない。
「ウェン!【風神】!」
「ノーツ【輪唱】!ふー【多重障壁】」
大量に飛来する、風の刃とシンの【崩剣】をフレデリカの障壁が受け止める。それは押し負けてパリンパリンと割れていくものの、シンは以前と比べその量がはるかに多いことに気づく。
「手数ならーこっちも負けないよー?【多重炎弾】【多重光弾】」
魔法陣が展開され、その直後、ノーツの鳴き声が聞こえたかと思うとその魔法陣が倍に増える。
「どーう?もちろん死にはしないだろーけどー」
フレデリカとノーツが生み出した光と炎の弾が三人に向けて大量に飛来する。
「任せてください」
「うん……止める」
ミザリーはフレデリカと同じく魔法による障壁を、マルクスは岩壁による防壁を生み出して、飛んできた魔法を防ぎきる。しかし、フレデリカは三人と戦闘をするつもりはさらさらないようで、舞い上がった砂煙が消えた時にはもうそこにはいなかった。
「逃げられたか」
「まさかシンと同じレベルの手数を持っているとは思いませんでしたね」
「だね、要警戒かな……あ」
「ん?どうかしたかマルクス」
「かかった」
廃墟のあちこちに設置してきた罠、特にここから出ていく者がかかりやすいようにマルクスが設置したのである。マルクスの設置のセンスは抜群で、それにフレデリカがかからないはずもなかった。
落とし穴の途中、何とか魔法で足場を作ったフレデリカは、よじ登るようにして脱出する。
「うー!くぅー、せっかくかっこよく逃げ切ったのに、もー最悪……早く逃げないと……」
既に廃墟周りがマルクスの罠まみれとあっては、今度こそ分が悪い。フレデリカは【集う聖剣】のいつもの頼りになる三人の誰かと合流するために、パタパタと走って急いで廃墟を後にしたのだった。




