防御特化と爆発。
「ふぅ、どうしようかしら……メイプルちゃんには全員で上位にって約束したけれど……」
イズはどうしたものかと考える。強力な爆弾などを使うことでダメージを出すことはできるものの、それなりの準備がいるため、上位入りができるほどモンスターを倒すのは骨が折れる。
「まずは準備ね。よし、この辺りかしら。皆にはメッセージを送っておいて……と」
イズはマイとユイとは違い、森よりもさらに深いジャングルをメインにモンスターを狩ることにした。ここにはモンスターも、それを狩りに来たプレイヤーもかなりの数存在する。イズはそれに見つからないように攻撃の準備を始めた。ギルドメンバーはジャングルに近づかないように連絡をしたので派手にやっても問題ない。
イズはフェイを呼び出すと、インベントリから爆弾を取り出す。フェイは今は森に合った木の葉の羽でフワフワと飛んでいる。
「フェイ、【森の怒り】【アイテム強化】【精霊のいたずら】【リサイクル】!」
イズがフェイに指示すると、フェイは爆弾にふわふわと近づき、緑のオーラを纏わせる。それは少しすると爆弾に吸い込まれ、爆弾の形が変わっていく。効果がより攻撃的になった爆弾の威力をさらに増加させると満足気に眺める。【精霊のいたずら】により設置した本人とパーティーメンバーにしか見えなくなった爆弾は、起動される時を待つことになる。
「こんなに棘だらけになるのね……設置して、と」
まるでイガグリのように棘だらけになった爆弾をすぐに起動しないよう茂みに置いたり、木のうろに突っ込んだりと、こそこそと準備をしつつ回っていく。
「次は、これね」
イズはポーチから青い結晶を取り出して砕く。するとそこから水が溢れ、フェイの姿が水滴のようなものに変わる。
「よしっ、もっと仕掛けるわよ。フェイ【糸水】!」
次はフェイを飛び回らせ、注意していないと分からない細い水の糸をジャングルに張り巡らせていく。少しずつ、少しずつこのジャングルはイズのスキルとアイテムで埋まっていく。
フェイはイズが結晶を砕くたびに姿を変え、アイテムに様々な効果を付与していく。
氷、雷、土、炎。そのどれもが透明なため、ジャングルの見た目は変わらない。
「ふぅ……よし、こんなものね。フェイもご苦労様」
イズはロープを使って樹上に避難すると、そのままロープで体を木に固定し、フェイが隣に伸ばしてきてくれている、水の糸を確認する。
「よし、他の皆がいないことも確認したし……いくわよ……!フェイ!【妖精の守り】!」
フェイのスキルはアイテムによるダメージを大幅カットするものである。念には念を入れて、イズの体をスキルのエフェクトが包み込んだ後、黄色の結晶を水の糸のすぐ近くで砕いた。
発生した電撃が水の糸を伝い、ジャングルを一瞬のうちに駆け巡る。
イズが目を閉じ、両耳を塞いだその直後、ジャングル全域を閃光と爆炎が駆け抜けた。
「……っ!」
水の糸を伝った電撃に起爆された爆弾は氷の刃や毒液、炎に雷、風に光と、フェイによって付与された効果をばら撒き、めちゃくちゃに状態異常と爆発ダメージを与えていく。
しかも、今のイズの爆弾は一度では止まらない。【リサイクル】によって、使用後50%の確率でそのアイテムが未使用に戻るのだ。
何もなかった地面が唐突に爆発していき、ジャングルに逃げ場は残されていない。爆発音が完全に止んだ後、イズが地面を見下ろすと、そこは元々ジャングルだったとは思えないほどに、様々な属性を表す物質で覆われていた。
「……や、やり過ぎたかしら?で、でも皆で上位に入るためだものね!」
イズは、まだまだ時間はあると、次の爆破予定地に向けて駆けていくのだった。
「は!?……マジかあれ……」
クロムは遠くに見えるジャングルの方を向いて唖然とする。クロムにはあの唐突に起こった爆発の理由がわかっているからだ。
「フェイの能力かなんかか……こええ」
相当な数のモンスターとプレイヤーが死んだだろうと思っているところで、イズからまたメッセージが届く。
「次の爆破予告か、近寄らないようにしないとな……複数回爆発してたし、間違って入ったら流石に死んじまう」
クロムは基本常に鎧型のテイムモンスターであるネクロを装着している。ネクロの強い点は装着することによってネクロのステータスの一部が自身のステータスにも反映されることだ。
派手なことはできないが、クロムの生存力はさらに高まっている。
クロムは何度もプレイヤーやモンスターと交戦しているが、一対一でクロムの回復力を崩すのは至難の技であるため、順調に勝ちを重ねていた。
そんなクロムの前に、木のモンスター、トレントが現れる。ただ、何体も屠ってきたものとは違い、巨大な個体である。
「お!大型か。あいつは確かモンスターの位置が分かるようになるバフをくれるやつだ」
テイムモンスターによって移動速度がそこまで上がっていないクロムにとって、モンスターの位置がわかるのは大事である。
「っし、いくぞネクロ!【幽鎧・堅牢】!」
クロムの声に合わせて、ネクロがその形態を変えていく。より堅固で頑丈な鎧になり、大盾はさらに大きなサイズに強化される。
代わりに移動速度や、攻撃の威力は低下するものの、より強力な防御能力を手に入れることができる。
ネクロの特徴は形態を変えることによって異なるスキルが使えるようになり、それに合わせて能力も変化することだった。
「隙を見せるまでは……じっくりやらせてもらうぜ!」
クロムは大盾で攻撃を受け、斬り返す。トレントの攻撃は単純で、より強固になったクロムの守りを崩せない。
「ネクロ!【衝撃反射】!」
さらにネクロにスキルを使わせ、大盾でガードした際に相手にダメージを与えることができるようになる。トレントは攻撃すればするほど不利になっていってしまう。
「【シールドアタック】よし!ネクロ【幽鎧・攻勢】!」
トレントの体勢が崩れたのを見て、ネクロに形態変化を命じる。
すると、クロムの鉈はロングソード程の長さとなり、鎧から青い炎が噴き上がる。
「ネクロ【生気吸い】!」
クロムの回復スキルはネクロによってまた一つ増えることとなった。短刀での攻撃はネクロがこの形態であれば二重の回復効果をもたらすのだ。
恐れずにガンガン攻めていけば、HPはそうそう減ることはない。
「よし、トドメだっ!」
ロングソードを振り抜きトレントを深く斬り裂いて倒すと、きっちりモンスターの位置がわかるバフを獲得したことを確認して、マップを開く。
「よし、これでマップにモンスターが映るな。っと……メイプルはまだ何かやってんのか。ずっとあの場所にいるってことは何か勝算があるんだろうが……何してんだろうな……」
クロムはメイプルがあんなことになっているとは知らない。ただ、世の中には知らなくてもいいこともある。
「よーしネクロ稼ぎ時だぞ。頼むぜ、俺一人じゃダメージが足りねえからな。【挑発】!」
クロムのスキルに反応してモンスターが何体も飛びかかってくる。先ほどのものより小さなトレントは枝を伸ばしてくる。蝶のモンスターは状態異常を与える鱗粉を撒き散らし、群れで行動するゴブリンは茂みから飛び出して奇襲をかける。
「ネクロ!【ゴーストチャージ】!」
クロムが命じると、ロングソードから青い炎が少しずつ漏れ始める。クロムはその炎が大きくなっていくのを見つつ、大盾を構えて攻撃をさばき続ける。
そして、しばらく耐え忍んでいるとロングソードから一際大きい炎が噴き出した。
「ネクロ!【バーストフレイム】!」
長い溜め時間の分威力は高く、青白い炎が前方を焼き、モンスターに大きなダメージを与える。さらに【炎上】による継続ダメージも与え、一気に状況を有利にする。後は一体ずつ残ったHPを削っていけばいい。
「ふぅ、助かるぜ。囲まれた時に楽になったのはありがてえ」
ネクロが仲間になってからはソロでの攻略がより捗るようになっていることを実感していた。シロップを借りた時にも思ったことだが、やはりテイムモンスターの存在は大きい。
「上位に入るために頑張んねえとなあ。あの様子だとイズもいいとこ行くだろうし。俺だけ落ちるわけにはいかねえからな」
メイプル達がモンスターを撫でるのと同じように、クロムはコンコンと鎧を叩いてネクロを褒めるとマップに映っているモンスターのもとに急ぐのだった。




