防御特化とツキミ。
「ふぅ……何とか……やれてる。ありがとうツキミ」
三メートル程の姿となったツキミの背中にまたがって、マイはとことこと荒野を進んでいた。
いつもユイと二人でカバーし合って戦ってきたマイにとって、一人での戦闘は不慣れなものである。そのため、死角から奇襲されないように広々とした所を進んでいるのだ。
「……!他のプレイヤーさん」
遠くに他のプレイヤーが三人見える。パーティーは組めないとはいえ、同じギルドのメンバーが運良く出会えれば最後まで生き残るために協力するのも当然である。
遠くにいたプレイヤーはマイだということに気づいたのか、それぞれに武器を構えて近づいてくる。【楓の木】のメンバーの中でも、マイとユイは攻撃を避けるようにして上手く立ち回れば何とかなるため、プレイヤーが逃げていかないのだ。
「ツキミ、行くよ……!【パワーシェア】【突進】!」
マイはプレイヤーにある程度まで近づくと、ツキミから下りて指示を出す。
ツキミとマイを赤い光が包み込み、その後ツキミは三人のプレイヤーに向けて突っ込んでいく。
「ツキミ!【ブライトスター】!」
マイの声に反応して、ツキミの毛先がより綺麗に明るく輝き出す。そして、ツキミを中心に薄い緑の光がパッと広がった。
それは綺麗な見た目とは裏腹に凄まじいダメージを与え、中心付近で命中したプレイヤーを一撃で消しとばす。
「お、うわああっ!?」
「う、嘘だろ!」
「【飛撃】!ツキミ【引き裂き】!」
マイを警戒している中、予想外の破壊力を見せてきたツキミに驚いて動きが固まった所を一気に攻め立てる。それに対応できずに残った二人のプレイヤーも光となって消えていった。
「はぁ……よ、よかった。ありがとう、ツキミは強いね」
マイが頭を撫でてやると嬉しそうに小さく唸って姿勢を低くする。マイは背中によじ登ると再び進み始める。
マイはそう言ったものの、まだ仲間にしたばかりのツキミがそんな攻撃力を持っているわけがない。確かにSTRは他の能力値より高いテイムモンスターだが、一撃とはいかないだろう。
「【パワーシェア】覚えてくれてよかった……!」
【パワーシェア】はマイとツキミのSTRを分け合うスキルである。本来ならSTRが高くなったツキミ側がプレイヤーの能力を上げるために使われるが、マイとユイの場合は逆である。二人の凄まじく高いSTRがツキミとユキミに流れ込むのだ。となれば、威力が低い代わりに範囲攻撃ができるスキルは、即死級攻撃を広範囲に行うものに一気に変わるのである。
「ユイもまだ生き残ってるかなあ……あ、メッセージ……ユイから!」
マイは周りにモンスターもプレイヤーもいないことを確認すると、メッセージを読む。
『お姉ちゃん。こっちは何とか生き残ってるけどやっぱりお姉ちゃんがいないと大変。それでね、マップを見て欲しいんだ。マップにメイプルさんの場所が映ってるはず。そこで集合しない?』
マイがマップを確認すると、確かにメイプルの位置がマップに映っている。その理由は分からないものの、いい目印になるだろう。
「うん、大丈夫だよ……っと」
『よかったー!じゃあメイプルさん前で集合ね!死んじゃダメだよ?』
ユイからの返信を確認すると、マイはツキミを走らせる。
「行くよ……ツキミ!【スターステップ】!」
ツキミの足跡がキラキラと輝き出し、二人を光が包んでいく。ツキミの移動速度が上がる単純なスキルだが、これを使うことによって普段歩いていた時とは比べ物にならない速度で進むことができるのだ。
途中現れるモンスターはツキミに乗ったまま、勢いに任せて吹き飛ばす。
「ツキミ!【目眩し】!【決戦仕様】【ダブルストライク】!」
ツキミのスキルでほんの一瞬スタンが入る。それはマイの前では致命的な隙となる。鈍い音と共に目の前にいたゴーレムやオークが弾け飛ぶ。撃破に時間がかからないため、マイとユイのモンスター撃破数はかなりのものとなっていた。
どうしても通らないといけない森は、ツキミにしがみついて木に登ってもらい、木の枝を飛び移りながら進んでいく。
その巨体からは想像できない身軽さで、マイの機動力を確保していた。
「えへっ、本当ツキミがいてよかった……」
そうして目的地近くの木の枝に乗って、ユイからの連絡を待っていると、同じように木の上を伝ってピンクの光を放つ白熊がやってくるのが見えた。
「ユイ!」
「お姉ちゃん!よかった!どう?モンスターは倒せてる?」
「ツキミのお陰でなんとか……ユイは?」
「こっちもユキミが大活躍!他のプレイヤーの人も結構倒したよ!」
同じモンスターを同じように成長させているため、マイにできることはユイにもできるのだ。
「間違えてスキルを使わないようにね。私達今はパーティーにはなれないし……」
「そうだね。あと、メイプルさん見ていこう。まだ同じ場所にいるみたいだし」
「マップの表示はずっと消えないのかな……それだとメイプルさんも大変かも」
二人は枝を飛び移り森と隣接する、マップ上では草原とされている方を確認する。そこには地獄が広がっていた。
草原の姿は跡形もなく、ある一帯からは紫の毒沼が広がっており、その毒沼から色とりどりの花々が咲き乱れているのが非常に不気味である。
そこに飛び込むモンスターは明らかにマイとユイが倒したものとは違う、強力そうなものばかりで、大型の竜などもいる。
そしてその全てが地面から伸びる植物や鋭い岩石に貫かれ、その後体を植物に包み込まれて、継続ダメージを受けていた。
毒、睡眠、麻痺、そして何かによる継続ダメージと、踏み入る度に死体が出来上がる。
光となって消える処理でなければ凄まじいことになっていただろう。
「め、メイプルさんあの真ん中にいるの……?」
「そう、みたい。でも私達も近づけないし……そっとしておこうお姉ちゃん……」
「うん、そうだね……後でどんなことしてたか聞いてみよっか」
時間が経つほどに酷くなる目の前の惨状から目を逸らして、二人は狩れるモンスターがいる場所を探して木の上を渡っていくのだった。




