防御特化と第八回イベント。
メイプル達がそれぞれ相棒となるモンスターのレベルを上げる日々を過ごしているうちに、いよいよ第八回イベントの予選の日がやってきた。
今回のイベントではパーティーを組むことができない個人での戦いとなるため、相棒のモンスターの能力も重要になってくる。
競うことになるのはフィールドにいるモンスターの撃破数と一デスまでの時間である。
時間内にモンスターを倒しつつ、他のプレイヤーも撃破して妨害しつつ順位を上げなければならない。
もちろん、どちらかに偏りすぎてもいけないのだが。
上位に入っていれば、より報酬のいいフィールドで本戦を戦うことができる。
「よーし、皆で本戦行こうね!」
「もちろん。メイプルこそ、頑張ってね。今回はモンスターを倒すのも大事なんだから」
「今回はスキル全部使っちゃって大丈夫だし……頑張る!」
予選から本戦はまた少し間があるため、回数制限があるスキルも出し惜しみなく使っていい。
「それじゃあ、ファイトー!」
メイプルの掛け声に全員が返すとともに、八人は光に包まれて、予選のフィールドに転送されていった。
体を包んでいた光が消えていき、メイプルの前に予選フィールドの景色が広がっていく。
今回は第一回イベントと同じように廃墟に出た。メイプルは周りを確認するものの、すぐ目に付く場所に他のプレイヤーの姿は見えない。
「よし!早速モンスターを探さないと!」
この予選ではモンスターの撃破が重要になってくる。もちろん生存時間も大切だが、それだけでは上位に入ることはできない。
「シロップはもうちょっと待っててね。【捕食者】!」
今回はほとんど一人で戦うことになるため、【身捧ぐ慈愛】は必要ない。これはメイプルとっても好都合だった。
「他のプレイヤーがいたら居場所ばれちゃうもんね」
【身捧ぐ慈愛】は地面が光ってしまうため、メイプルが近寄ってきていることを知らせてしまう。メイプルがいると分かっていて近づいてくるようなのは同じ【楓の木】のメンバーくらいである。誰だって死地に飛び込みたいとは思わない。
メイプルは両脇に化物を従えて、まずは廃墟を歩き回る。
「何かいないかなあー……わっ!?」
メイプルが大きめの建物の角を曲がった所で、横から出てきたモンスターと鉢合わせる。
メイプルが見上げた先には大きな胴体と頭があり、長い尾が伸びている。それは竜というより肉食恐竜を思わせる見た目だった。
恐竜もメイプルに気づくと、大きな咆哮を上げる。
「【パラライズシャウト】!」
メイプルは先手必勝とばかりにスキルを発動させ、きっちりと相手を麻痺させると、【捕食者】に噛みつかせる。
「強そうだし……【悪食】も使っちゃおう!」
メイプルは麻痺で体勢を崩し地面に横たわった恐竜の頭部を大盾で押しつぶす。【捕食者】が噛みつき続けて与えるダメージもあって、恐竜は簡単に光となって消えた。
「ふぃー……強そうだったからびっくりしたけど……麻痺するならどうってことないね!よーし!次!」
幸先よくモンスターを倒したメイプルはそのままの勢いで次のモンスターを探す。どうやら様々な種類のモンスターがいるようで、大型から小型までメイプルは色々なモンスターに出会う。
しかし、その内何種類かはメイプルを見つけるやいなや逃げていってしまう。
「うー、これじゃ中々倒せないよ……足が遅いせいかなあ……ん?」
メイプルはここでステータスにいくつか見覚えのない表記がある事に気づく。そこにはモンスターが離れていくデバフや、攻撃力が上昇するバフなど、メイプルがかけた覚えもかけられた覚えもないものが並んでいる。
「えっ!?いつの間に!?……えっとえっと、あっ!モンスターを倒した時!?」
デバフやバフの詳細を確認すると、そこには一部モンスターを倒した際にかかるとの記述があった。メイプルは違う種類のモンスターをどんどん倒していたため、その分多くの効果が並んでいる。
「モンスターが離れていくのは駄目!これじゃ倒せなくなっちゃう……!」
【暴虐】はまだとっておきたいメイプルは、逃げていかない凶暴なモンスターとの戦闘を繰り返す。一体一体はそれなりに強いものの、対メイプル用に作られているわけではないため、貫通攻撃もほとんど使ってこない。となれば、撃破数を稼がせてくれる美味しいモンスターでしかない。
それでも、他のプレイヤーの動向が分からないため、十分倒せているかが気になって不安になるというものである。
遺跡の周りのモンスターを【捕食者】によって滅茶苦茶に食い散らかすと、【毒竜】による毒沼を残して去っていく。遺跡を抜けて森の中へ、森を抜けて開けた草原へとメイプルは歩みを進める。
「うー、もっと倒したいけど……んん、あれってもしかして」
メイプルの目に留まったのはメイプルの背丈よりも高い茎を持つ大きな赤い花だった。それはかつてイベントでジャングルを探索した時に見つけたものによく似ていた。
「ちょうど広場になってるし……よし!ここなら!」
メイプルは大きな花の元に近づくと兵器を展開して、剣になった片腕で花の茎をスパッと両断する。そして落ちてきた赤い花を両手でしっかりと受け止めた。すると赤い花、もとい花型のモンスターは途切れた部分から再生した茎を根のように伸ばしてメイプルに絡みつく。
「やった!上手くいった!あとは……」
メイプルはそのまま締め付けられつつ近くの草原へと向かい、物陰から距離のある場所に座り込む。
「よーし、頑張ってよー!えいっ!」
メイプルは花に声をかけた後、ちくっと花弁を剣で突き刺す。
すると、花からは甘い香りが漂い、草原の周りに広がる森からはがさがさと何かが近づいてくる気配がした。
メイプルの狙い通り、赤い花は大量のモンスターを呼び寄せる。それは本来危険を伴うものだが、メイプルにとっては便利なモンスター呼び寄せ装置でしかない。
「やったー!これなら倒しやすいっ!誰かに取られちゃう前に倒そうっと!」
メイプルは飛びかかってくるゴブリンや、奥から魔法を飛ばしてくる鳥などを次々と倒していく。
節約のため【捕食者】に近くのモンスターの攻撃は任せて、メイプルは遠くから攻撃してくるモンスターに銃弾を当てる事に専念する。
「【捕食者】が死んじゃうと困るし……【身捧ぐ慈愛】!で、シロップ【覚醒】!」
ようやくシロップの出番だと、メイプルはシロップも呼び出す。大量のモンスターがメイプルの体に噛み付いたり、引っ掻いて距離をとったりとやりたい放題しているが、そんなことはお構いなしだ。
「シロップ!【大自然】【赤の花園】【白の花園】【沈む大地】!」
メイプルはシロップを抱き抱えたままスキルを発動する。
メイプルを中心にして光を放っていた地面に、赤と白の花畑が広がっていく。それはとても綺麗な光景で、もし今のようにモンスターが次々に飛びかかっていっていなければ足を止めて見ていたくなるようなものだった。
しかし、効果はそこまで優しいものではない。赤い花は範囲内での被ダメージを増加させ、白い花はステータスを低下させる。
さらに、踏み入ったモンスターは【沈む大地】によって性質が変わり、踏めば泥のようになる地面に飲まれていく。
そうでなかったものは【大自然】で蔦に絡め取られて、【捕食者】の餌である。
メイプルとシロップを中心に広がる、綺麗な赤と白の花園は、その実一歩踏み入れば死を免れない場所だった。
メイプルは銃撃で蔦で空中に捕らわれ速贄のようになったモンスターを全て撃ち抜くと、体に巻きつけておいた花をつつく。
「もう一回、えいっ!」
メイプルはもう一度甘い香りを出させると、この花園に新たなモンスターを招く。
「悪い効果はどうなってるかなあ……わっ、これはまずいかも……」
大量にモンスターを倒したメイプルがかかったデバフを確認すると、そこにはマップ上に自分の位置が公開されるというものがあった。
多くのプレイヤーがモンスターを横取りできる上、攻撃されると考えたメイプルは急いでモンスターを倒す。
しかし、メイプルの心配とは裏腹にいつまでたっても他のプレイヤーはやってこない。
それもそのはず、マップ上に死地が映ったのならそこから離れるように動くに決まっているのだ。
怖いもの見たさで近づいたプレイヤーも、モンスターが地面に沈み、蔦に串刺しにされ、毒沼が広がる惨状を見て、やっぱりアレは触れてはいけないと去っていくのである。
「誰もこないし……なら、もう一回っ!」
メイプルは再度赤い花を刺激して、モンスターを呼び寄せるのだった。




