防御特化と進化。
二人はそのまま早く皆に見せたいと急いで帰り、ギルドホームの扉を勢いよく開ける。
中ではまだカナデがボードゲームをしていたようで、ユイとマイの二人をカスミ、クロム、イズの三人が囲んでいた。
「おっと、どうしたいつになく元気いいな?」
「んー、お帰り。ふふっ、どうやらいい報告が期待できそうだね」
二人は抱き抱えたシロップと朧を突き出すようにして披露する。
ギルドメンバーも自分の相棒よりも見慣れている二匹の変化にすぐに気づいた。
「えっ、それどうしたんですかっ!」
「ふふふ、進化だよ!もっと強く可愛くなったんだよ!」
メイプルは攻略したイベントについて六人に細かく話す。
「なるほど……進化とはな。だが……」
「ああ、俺はその岩の浮かぶ所には行ったが巨人とかいうのは出てこなかったな」
皆も進化させられると思っていたメイプルだったがそうはいかないらしい。イズも巨大樹の上でそういった戦闘があったとは聞いたことがないらしかった。
「あの……レベルとかなつき具合とかが影響するんじゃないですか?メイプルさんとサリーさんはずっと前からシロップと朧と一緒ですから……」
「それはあるかもね。僕の読んだ本ももっと上手く力を引き出すって方向だったし。基本の能力が出来上がってからってのは考えられる」
仲間にしてすぐのモンスターでは進化することができないのはある種当然とも言える。
「じゃあ、本当にずっと一緒にいたからかあ……えへへ」
メイプルはまたシロップの頭を撫でてやる。これからもずっと一緒にフィールドを飛び回って戦う相棒なのだ。進化ともなれば喜びもひとしおである。
「メイプルちゃんとサリーちゃんのモンスターもまた強くなったみたいだし。次のイベントが楽しみね」
「ああそうだな。俺達の戦い方も変わるだろうし、試す機会としてはちょうどいい」
「あ、そうだイベント!じゃあまた頑張ってシロップのレベル上げしなくちゃ!」
進化させたっきりでは、せっかく強くなった部分が生かせない。ここからはレベルアップのための地道な特訓の時間である。
「今日は結構色々回ったけど、どうするメイプル?」
「も、もうちょっとだけやろうかな。一レベル上げたら何か覚えてくれるかもしれないし!」
それならまたフィールドへ出ないとと、興味があることから興味があることへ、楽しいことから楽しいことへとメイプルは走り回るのだった。
その頃、七層実装に合わせて、大量のモンスターやイベントを用意した運営陣はぐったりとしていた。エリアごとに違うモンスター、さらにそれらに進化先まで作るとなると相当な労力である。
「レアモンスターはどれくらい仲間になった?」
「二割以下ですねー。何しろエリア自体が広いですし、レアモンスターじゃなくても強いモンスターは多いですから」
用意されたレアモンスターはむしろピーキーな性能をしているため、プレイヤーによっては出会ってもスルーすることもあった。
「まあ、きっちりバフをかけてくれるモンスターが人気か。逆に魔法使いがタンク役をテイムしてるケースが多いな」
「主要ギルドは?」
「示し合わせたみたいにレアまみれです」
「すぅー……まあ、見つけるのが難しいってだけで……いや、相性いいから選んでんだよなあ」
当然、【集う聖剣】や【炎帝ノ国】。もちろん【楓の木】のモンスターも確認する。
「いや強っ、ちゃんと実力の伴ったレアモンスター捕まえてんな」
「メイプルとサリーはきっちり進化まで行ってますね。まだ情報もほとんどないと思うんですけど……」
先行してモンスターを仲間にしていた利点をきっちりと生かしているといえる。それでも想定よりはかなり早かったのだが。
「レアイベに反応する磁石かなにかで体ができてるのか?」
「そうなのかもしれませんね……本気でそんな気がしてきました」
七層のあれこれが落ち着いたら次はイベントである。
「次のイベントはどうなるかな」
「プレイヤーも化物じみてるんですから、こちらも化物をぶつけることになりそうですね」
エネミーの最終チェックをしながらそんなことをこぼす。最高難度にはそれ相応のモンスターを用意しておかなければならない。
「あ、あとついでにメイプルは触手生やしてますよ」
「……ついでで処理することじゃないんだよなあ」
そんな会話をしつつ、モンスター達の挙動がおかしくなっていないかを確認するのだった。