防御特化と遺跡。
サリーは馬を走らせて、目的の遺跡にやってくる。石畳や家の残骸はあるものの、ほとんどが自然に飲み込まれてしまっていて、遺跡や廃墟というよりはほぼ森に近い状態だった。
「とりあえず手当たり次第探してみよう」
「分かった!早く見つかるといいなあ」
二人は手分けして人工物が残っているエリアを歩き回る。すると探し物は案外早く見つかった。
「サリー!こっち来てー!」
メイプルが示すのは石の破片が散らばっている中で、唯一残った台座の様なものである。
そこには三つの窪みがあり、今の二人にとってそれが何を意味するかは簡単に察せられることだった。
「はめ込むよ?」
「うん、いいと思う」
メイプルが三つの窪みにそれぞれ宝石をはめ込むと、台座を宝石の光が覆っていく。それと同時に、勝手にシロップと朧が指輪から飛び出した。
「シロップ?」
「朧?」
不思議そうにする二人の足元に赤と緑と白の光が広がり、何度も体験してきた転移の感覚がやってくる。
強い光が収まって、二人が目を開けると、そこには動物が溢れる町が広がっていた。
ただ、町といってもそこに人がいる様子はなく、あらゆる動物やモンスターが共に過ごしている場所といった様子である。
二人がそんな光景を眺めていると、朧とシロップが勝手に歩き出してしまう。
「ど、どうしたんだろ?」
「とりあえずついていってみよう」
ここに来たはいいものの、何をすれば良いかは分からない。ならばいつもと違う動きをしているシロップと朧についていくのがベストと言える。
そうして歩いていくと、町と呼べる様な場所から少しずつ離れていき、シロップと朧は輝く水が溜まった石造りの水場の前で立ち止まる。
「なんというか、大事な場所っぽい?」
「多分?普通の水じゃないみたいだし……」
シロップと朧は二人の方を振り返る。どうやらこの水の中に入りたいようだった。
二人としても、拒むつもりはなく二匹の要求を受け入れて、持ち上げて優しく水につける。
「なんともない?大丈夫そう?」
「離すよ、浅いみたいだし」
二人はぱっと手を離して、二匹を光る水の中で遊ばせようとする。すると、光は二匹を包んでいき、表面を覆って体が見えなくなってしまう。
「わーっ!?やっぱりダメだった!?」
メイプルが慌ててシロップを持ち上げるのに合わせて、サリーも朧を光る水から離す。
中々光が消えずにオロオロしていると、一際強い光がパッと放たれたとともにシロップと朧は元に戻る。
「よかったー……ん?シロップ?」
「朧?」
シロップは甲羅の柄が少し変わり、真下の地面から草花が生え始めている。
朧は装飾が少し豪華になり、そして何よりゆらゆらと揺れる尻尾が一本増えていた。
「「えっ?」」
相変わらず二人に懐いている様子で体を擦り寄せてくる二匹をそれぞれ抱き上げながら、二人は顔を見合わせるのだった。
少しして、頭が回り始めた二人はシロップと朧の変化をしげしげと眺める。
「シロップちょっとおしゃれになったね!あと……大きくなった?」
「そっかー、尻尾増えるかあ……どこまで増えるかな?」
もっと可愛くなったと、抱きしめる二人にシステムメッセージが届く。
「進化……なるほど。新しいスキルが獲得できるようになったみたいだよ」
「おおー!進化、進化かあ……一緒に戦ったりしてたもんね」
「第二回イベントの途中からだから相当一緒に戦ったね」
「立派に育ったなあ……えへへ、私嬉しいよー」
「ま、でもまだまだ先がありそうだけどね」
「そうなの?」
「うん、進化のメッセージには十分に経験を積んだモンスターを進化させるって書いてあったんだけど、一回きりとは書いてなかったんだよね」
それに、とサリーは続ける。狐のモンスターの尻尾はどれくらいまで増えるか予想がつくとのことだった。
「流石に九本まで一本ずつってことはないだろうけど……朧、そこまで育っちゃう?」
「夢が広がるね!そうだ、皆にも教えようよ!手伝ったらすぐに宝石もまた手に入るし!」
「いいね、そうしよっか。じゃあ善は急げってことで」
二人は相棒の二匹をそれぞれ自慢げに抱きかかえたままギルドホームへと戻っていった。




