防御特化と浮遊岩2。
浮いた岩を飛び移って、再びの狼の襲撃を切り抜けて。時折大岩に吹き飛ばされるメイプルを回収したりしつつ、二人は最奥へとたどり着いた。
いくつもの岩が浮かんだ平地には、渦を巻くように風が吹いていて、その中心に全身が風でできた巨人がいた。
「流石に一撃とはいかないだろうし、気合い入れていくよ」
「うん!任せて!」
メイプルが銃口を向けるとともに、巨人も戦闘体勢を取る。すると巨人を中心に渦を巻いていた風がより強まり、浮かんでいた岩が動き始める。
「ちょっ!?私はそれ避けられないのぉおっ!」
金属の塊が硬いものにぶつかった音とともに、メイプルが跳ね飛ばされる。当然、襲い来る岩は一つではなく、メイプルは次の岩、また次の岩とピンボールのように跳ね回る。
「わ、わわわわっ!」
「メイプル!それは……ちょっと助けられないかな……っと、私も集中しないと!」
サリーは姿勢を低くしたり立ち止まったり加速したり、今日に岩を躱して接近する。
メイプルが滅茶苦茶にフィールドないを吹き飛んでいるため、【身捧ぐ慈愛】の効果範囲も当てにできない。
「朧【妖炎】!【火童子】!」
サリーが朧に命じるとサリーの体から青い炎が舞い散り、ダメージを強化する。さらに、ダガーからは炎の刃が伸びてリーチを強化する。
ぐんと体を回転させて、巨人の放った風を切り裂くと、そのままの勢いで伸ばされた腕を深く切り裂く。
赤いダメージエフェクトと、朧が纏わせた青い炎が同時に弾ける。
「朧のMPもまだ大丈夫……っ!?」
巨人の背後からレーザーが放たれるのを見てサリーは思わず飛びのく。
ただ、それはサリーではなく巨人にダメージを与えたようでダメージエフェクトが上がる。
「メイプル?うわ、滅茶苦茶してるなあ……」
メイプルは岩によって跳ね飛ばされているが、ダメージは受けていない。そしてそれを利用してデタラメに高速移動し、【ポルターガイスト】でレーザーを中心に向けて適当にぶん回しているのである。時折兵器を爆発させ無理やり岩に当たりに行ったりしているためボスの風の塊も上手く当たらない。
「フィールドギミックかな……?ん、私は私のやれることをしよう」
メイプルがダメージを稼いで狙われている今ならば隙の大きいスキルも使うことができる。
サリーは片足に密着するとスキルを発動させて一気にダメージを与える。
「【クインタプルスラッシュ】【パワーアタック】!」
【妖炎】による追加ダメージと【追刃】による追撃、そしてその全てに影響する【剣ノ舞】とアイテムによるバフは手数を武器とする短剣とは思えないダメージを叩き出す。
ダメージエフェクトが収まると同時に巨人の片足が消えて、地面に倒れこむ。
「チャンス!」
サリーは飛んでくる石の礫を避けつつ頭に近づくと、さらに滅多斬りにする。
しかしそれを邪魔しようと大岩が猛スピードで迫ってくる。
「朧!【神隠し】!」
サリーがそう指示すると、サリーの姿が消える。それは【瞬影】のように透明になるのではなく、ほんの一秒完全に存在しなくなるスキルだった。
存在しないものには当たらない。大岩の激突直前でスキルを使えば岩は何ごともなかったかのようにサリーのいた場所を通過する。
「よし、成功!朧【拘束結界】!」
今回も上手くいったとサリーはさらに攻撃を加速させる。依然として戦闘フィールドを横切るように乱暴に振るわれるメイプルのレーザーのダメージが蓄積していたこともあり、ボスはサリーの連撃に耐えきることができなかった。
最後に強い風が吹き荒れて、浮いていた岩もその動きを止める。それに合わせてメイプルも地面に放り出されてサリーのもとに転がってきた。
メイプルは当然無傷なため、少しふらふらしつつもちゃんとサリーの方に歩いてくる。
「お疲れさま!朧の炎も色々できる様になったんだね。おー……ミィみたい」
「朧は炎と幻系担当で、私は水と氷かな。どう?【妖炎】で強化した剣。かっこいいでしょ」
「うん!忍者って感じ?岩もすり抜けてたし!」
「朧のお陰でまたどうしようもなくなった時に一回避けられるようになったかな。で、肝心のこれ!」
サリーが地面から赤い宝石を拾い上げる。それは巨人の目の部分だった。
「あとはカナデが教えてくれた遺跡に行くだけだね」
「これで足りてるといいな。ボス討伐も結構大変だし……」
今のところ他に集めるものもないと、二人は遺跡に向かうことにした。現地に行かないことには足りないものがあっても分からない。
「じゃあ早速行こう行こう!何があるか楽しみなんだよね!」
「はいはい、じゃあまた馬に乗って」
「はーい!」
いよいよ集めるものも集めきった二人は、遺跡に向かって馬を走らせるのだった。




