防御特化と浮遊岩。
次なる目的地は何らかの力でふわふわと岩石が浮かんでおり、強風が吹いているエリアである。大地をそのまま引っぺがしたようにして浮かぶ巨石群は死角も多く、またプレイヤーも影響を受けているのか、重力が弱くなったようなふわふわとした動作になる。
「やっぱりちょっと回避しにくくなるか……メイプル、慣らしてから進んでいい?」
「いいよー!ここすごいね、なんだか変な感じ」
メイプルはぴょんぴょんと飛んでは、空中で羽を落としたようにゆらゆらふわふわ落ちてくる。
「ここは前のイベントみたいに【星の力】みたいなのもないし、浮かんでる時間は減らさないとね」
サリーはしばらく動作確認をしたのち、これなら問題ないと歩き始める。
「風強いね。地面歩いてないと飛んでいっちゃいそう」
「言ってたら飛んできたよ!」
「え?うぇっ!?」
二人の進行方向から強風に乗って猛スピードで飛んできたのは巨大な岩石である。
サリーは動作確認が生きたのかすっと避けることができたが、メイプルにそんな器用なことができるはずもない。
大きな音を立てて、岩石と正面衝突しそのまま吹き飛んでいく。メイプルは数回バウンドした後べちゃっと別の岩石にぶつかって地面にぽとりと落ちた。
「メイプル!は、派手に飛んだね……」
「び、びっくりしたあ……急にあんなの飛んでくると思わなかったよ」
何ごともなかったように体を起こすメイプルを見て、サリーもいつも通りだと安心して手を差し伸べる。
「風に乗って飛んでくるみたいだから風の吹いてるくる方に注意してるといいんじゃないかな」
「うん、分かった!でも防御貫通じゃなくて安心したよー。これなら【身捧ぐ慈愛】を使ってても大丈夫!」
「ありがとう。躱せるだけ躱すけど、保険があると助かる。動きにくいエリアだしね」
「今は右から風が吹いてるからこっち!」
「また来るよ、今度は礫!」
サリーは二本のダガーを構えて集中力を高める。正面から真っ直ぐに飛んでくる石の礫なら今までにも何度か避けてきた。一つは短剣で弾き、一つは体を逸らし、一つは飛び退いて回避する。
その度にサリーが纏う青いオーラは大きくなっていき、【STR】が上昇していく。
「ふぅ……」
「流石サリー!」
「まあボスまでに能力は上げきっておきたいからさ。ちょっと集中して避けてみた」
もうこのエリアの体の動きの変化にも慣れたようで、サリーはそれからも飛んでくる岩や石をすいすいと避けていく。ガンガン音を立てながら岩が直撃しているメイプルとは対照的だった。
「っと、モンスターだよ」
二人の目の前に現れたのは、白く輝く風が集まってできた狼と鷹だった。
目の部分だけが赤く光っており、普通の生き物でないことは確実である。
「朧【影分身】【幻影】!」
サリーの指示によって、サリーの姿が五つに分身したかと思うと、それがさらに倍に増える。
それらはそれぞれに狼と鷹に迫っていくが、二体はその体を震わせて風の刃を生み出すと、分身を切り裂いていく。
「一瞬隙ができれば十分!【ピンポイントアタック】!」
サリーが狼の横に回り、すっと首元にダガーを差し込む。すると、糸が解けるように風でできた体は霧散する。
「弱い……?【跳躍】!」
サリーは高く跳ぶと、そのまま分身に気を取られている鷹にダガーを振り下ろす。
すると、鷹もまた一瞬にして霧散していく。
「ってことは、数で来る!」
一体一体が弱いなら、脅威になるだけの数を用意するのは当然のことである。
サリーがそれに気づくと同時、あちこちで風が渦巻いて、狼の群れが地面を埋め尽くし、鷹が空から二人を狙い出した。
「メイプル!一体多は任せる!」
「おっけー!【全武装展開】!【攻撃開始】!」
あちこちから襲いかかる風の刃と石の礫を銃撃で撃ち落としながら、メイプルはぐるぐる回って360度漏れなく攻撃する。
とはいえかなり数なため、風の刃も多少は抜けてくる。
「いたっ!?あっ、貫通!えっと【ピアースガード】!」
「こっちも数は減らすから!朧【渡火】!」
朧が放った炎は近くの狼に当たるとパチパチと音を立てて爆ぜ、近くのモンスターに燃え移っていく。そこまで威力は高くないが、風でできた狼を散らす程度なら容易である。
「ありがとー!じゃあこっちも……」
メイプルは緑の洋服に装備を変更すると、【ポルターガイスト】を発動させ、レーザーをビームサーベルのように滅茶苦茶に振り回す。サリーが倒しにくい空中の敵もこれなら簡単に倒すことができる。
数が多いとはいえ、貫通でなくなればどうとでもなるメイプルがいる以上、そこまでの脅威にはならなかった。
「ふぃー……ちょっとびっくりしたけど、そんなに強くなかったね」
「うん、ちょうど回避の回数も稼げてよかったかな」
「あ、そうだ!朧また分身増やせるようになったんだね!十人ってすごいよね」
「まあ【幻影】で増やした五人は【蜃気楼】に近くて、ダメージとか与えられない完全な囮なんだけどね」
「【影分身】はダメージ与えられるもんね」
「じゃあさくさく行こう、また囲まれても面倒だし」
「さんせーい!」
二人は少し足早により奥地へと進んでいくのだった。




