防御特化と草原。
サリーはサリーでしばらくここにいるモンスターを観察しつつ、景色を楽しんでいた。
透き通った川の底には魚が泳ぎ回っていたり、そらには鳥が飛んでいたりするものの、特に何かイベントがある様子はない。
「ふぅ、何もなしか。純粋にモンスター探しのための場所なのかな?……おーい!メイプルー?」
メイプルは今何をしているか聞いてみると、返事は返ってくるものの姿が見えない。
サリーは不思議に思いつつマップを確認して、メイプルのもとに歩いていく。
「ああ……分かった」
サリーが歩いて行った先にはもこもことした球体が並んでいる。この玉羊という名のモンスターはその名の通り羊毛によって玉のようになっている。そしてその群れの中に心地よさそうにしている羊毛を生やしたメイプルが埋もれていた。
「完全に同化してて最初分からなかったよ」
「えへへ、でしょー?この子たちたまに動くんだけど、その時ポンポン跳ねさせて一緒に運んでくれるんだよ!」
「……それ本当は轢かれてるだけじゃない?」
メイプルがおいでおいでという風に手招きをするため、サリーは玉羊に刺激を与えないようにしつつメイプルの羊毛の中に入る。
もうこの過程も慣れたものだ。
「たまにはのんびり過ごすのもいいよね!」
「ふふっ、メイプルはだいたいそうじゃない?」
「ええー?そんなことないと思うけど」
「っと、のんびりもしてられないかな」
サリーが玉羊が動き出すのを感じてメイプルの羊毛の中に体を埋めて、外にすっぽ抜けてしまわないように糸によって固定する。
「【身捧ぐ慈愛】!念のため使っとくね」
「ん、ありがとう」
二人が準備を終えたのとほぼ同時に、羊の群れが大移動を始め、平原を駆け回り始める。
それに合わせて、自分で走っていないメイプルの毛玉はボールを蹴るようにして前に飛ばされぐるぐる回転する。
ダメージは受けないが、こうも回転させられては目も回るというものだ。
「ちょっ……メイプル!滅茶苦茶回ってるけど……」
「うぇぇ、さっきまではもっとゆっくりだったのに……」
サリーとしても中途半端なタイミングで糸を外して放り出されるとダメージを受けるかもしれないため、このまま転がされるしかなかった。
そうしてしばらくしたところで、ガサガサと音がしたかと思うと、何かにぶつかったのか衝撃が伝わってきて、メイプルの毛玉が停止する。
「こんなにぐるぐる回ったのは初めてかも……」
「そう、だね。ごめん、流石にちょっと休んでから出るかな」
「うん、私もそうする……」
上下もよく分からなくなる程に転がされた二人は、気分が落ち着いてきたところで、ぽんっと毛玉から顔を出す。
すると、目の前には小さな泉が一つあり周りは木々で溢れる森の中だった。周りは深い茂みに覆われていて、メイプル達が聞いたガサガサという音はこれを無理やりかき分けたものだと分かる。
玉羊達は泉の水を飲んでおり、大移動は終わったようである。
「結構移動したっぽい?」
「まあ、あれだけ回転してたし相当進んだとは思ったけど……んーと、もう平原の外に出ちゃってるね。それにしても少し移動しすぎな気もするけど……」
「あんなに広かったのに!?羊って速いんだね……」
マップ上では広い平原を抜けてそこからもさらに進んだ森の中にいることになっている。
真っ直ぐに進めばもう少し時間もかかりそうなものである。
「せっかく運んできてもらったし、この辺りも見ていかない?」
「うん、いいよ。もうちょっと休むのも兼ねてね」
サリーはメイプルの毛を刈り動きやすくすると二人で泉の方へ歩いていく。
「近づいても逃げないね。一応仲間にすることもできるんだ」
「もう連れて帰ってあげられないんだよね。ふわふわでかわいいのになあ」
メイプルが玉羊に抱きつくようにしてふわふわの羊毛の感触を味わっていると、それに反応したのか玉羊がその丸い体をぶるんと震わせる。
「わっ!?わわわっ!」
メイプルはそのまま弾かれてバランスを崩し、後ずさったところでバシャンと泉に落ちてしまう。
それに驚いて玉羊が逃げていく中、サリーはさっと泉に近づくとメイプルに糸を繋げて釣り上げる。
「もう、大丈夫?メイプル」
「うん、びっくりしたけど大丈夫だよ」
お礼を言うメイプルを地上まで引き上げたところでサリーはあることに気づく。
「メイプル、水の中で何か落とした?」
「え?大盾もあるし……短刀も……うん、指輪もあるよ!」
「ほら、メイプル見てみて」
サリーに促されるままに泉を覗き込むと、その底にキラリと光る何かがあった。
「これくらいなら潜って確認できるし、ちょっと待ってて」
サリーは泉に飛び込むと、光っている何かを手にとって戻ってくる。
「よっ、と!ふぅ……」
「おかえり!えっと……宝石?」
サリーの手の中には白い鉱石でできた球体があった。それはつやつやしており、うっすら光っているようにも見える。
「とりあえずアイテム説明見てみようか」
【白の鍵】
とある扉を開けるための三つ鍵のうち一つ。
「……どこで使うんだろう?」
「分からないけど……多分他にも似たようなものがあるんじゃないかな。ほら、鍵の一つって書いてあるし」
「うう、こんな小さいの探すの大変そう」
「ヒントを探さないとね。今回はなんか……よく分からないうちにたどり着いたし……」
ここに来た経緯を思い出して、サリーは少し思うところがあるようで思考を巡らせる。
「……移動するモンスターは他にも何種類かいるはず。だからさ、探索ついでに他のモンスターも何種類か確認してみない?」
「賛成賛成!それでもう一つ手に入ったら予想が当たったってことだもんね!」
「そうそう、目的がもう一つ増えたってことで」
二人は新たに宝石を見つけることを目標にして、探索という名の観光を続けるのだった。
防振りアプリゲームの情報が更新されていて、公式サイトでメイプルとサリーのボイスが少し聞けます!
よければどうぞ!