防御特化とイベント情報。
ついに全員の相棒が決定したことで、次は【楓の木】の面々で次は力試しということになった。
そのため、サリーは全員がレベル上げをしている間にどのダンジョンがいいか吟味していた。
「色んな能力が要求される方が弱点も見えるし……ここかな」
そうして計画を練っていたところ、ギルドホームの扉が乱暴にバァンと開かれ、フレデリカが飛び込んでくる。
「あーいたー! よーやく見つけたよー」
「うげ……」
「決闘しよー、ほらいつものいつものー」
サリーがちらっとフレデリカの指を見ると、そこにはサリーがはめているものと同じ【絆の架け橋】があった。サリーは何かと理由をつけてフィールドを歩き回っていたが、ついに出会ってしまったわけだ。
「いや、まあ……んん……」
「なーにー? 何か気になることでもあったー?」
ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべるフレデリカに嫌な予感がしつつも、引き下がらないフレデリカに押し切られる。サリーとしても、フレデリカの仲間にしたモンスターがアンデッドだと怖いから戦いたくないとは言いたくないのである。
フレデリカは入り浸っているため、もう【楓の木】のギルドホームの訓練所の場所も覚えており、いつにも増して高いテンションでサリーを引っ張っていく。
「じゃあいつも通りね」
サリーが準備を終え、フレデリカに決闘の仕様を伝える。いつもと変わらない、HPを削りきるか降参するかのルールだ。
「おっけー! ふふーん、どーしよっかなー」
フレデリカが勿体ぶった発言をしてサリーの反応を楽しんでいるうちに、カウントダウンが開始される。
サリーはいつにも増して集中しており、無言でその時を待つ。
そして、カウントダウンがゼロとなり決闘が開始されると同時。
「【超加速】! 朧【瞬影】【影分身】!」
サリーは凄まじい勢いで加速し、そのまま姿を消して、次に現れた瞬間には五人に分身している。いつになく全力のサリーに面食らってフレデリカは反射的に迎撃の構えを取ってしまう。
「多重……ふわぁ!?」
「【鉄砲水】! 朧【拘束結界】!」
目の前にいた五人のサリーのうち一体は【蜃気楼】だった。ふわっと崩れて消えると同時にフレデリカの背後から声が聞こえて、足元から大量の水が吹き上がりフレデリカを空中に打ち上げる。フレデリカは抵抗しようとするが朧のスキルでスタンが入ってしまい動けない。
「ちょっ、待って! まーっーてー!」
「【クインタプルスラッシュ】!」
フレデリカの要求など通るはずもなく、落下中に防御できないまま高速の連撃を受けて、一気にHPをゼロにされてしまった。びたーんと地面に落ちたフレデリカはゆっくりと起き上がって頬を膨らませる。
「なんか、いままでで一番殺意感じたんだけどー」
「……気のせいじゃない?」
「せっかく今日は相棒のお披露目に来たのになー……あ、そうだ! 別に戦闘中じゃなくてもいいしー見せてあげるよー」
「えっ、あっ、いや……待っ!」
今度はサリーが止めるよう言うがその要求も通らない。指輪が光っていよいよ何かが出てくるというところでサリーは目をぎゅっと瞑り、両手で耳を塞ぐ。少しの間そうしていると、フレデリカがサリーの眉間を指で弾いてサリーに目を開けさせる。
するとそこにはニマニマと笑顔を浮かべるフレデリカとその頭の上にとまった黄色の小鳥がいた。
「……ぅえ?」
「この子が私の相棒、ノーツ。ふふふ、どーしたのー? 何が出てくると思ったー?」
「あっ……! ふ、フレデリカっ!」
サリーは最初からからかわれていたことに気づいて、顔を赤らめてそう言うのが精一杯だった。
「案外可愛いとこもあるじゃーん、戦闘中の動きは人間のそれじゃないけどさー」
フレデリカは相変わらずニマニマと笑顔を浮かべながらサリーの方を見る。
「くぅ……次もボコボコにするからね」
「望むところだよー。正々堂々やってー、負けましたって言わせてあげるー。それにノーツはちゃーんと強いからね」
そこまで言ったところでピロンとメッセージの通知が来て、一旦二人はそのメッセージを確認する。そこには次回のイベントについての詳細が書かれていた。
今回はまず予選があるということ。そしててそこではプレイヤーごとに生存時間とモンスターの討伐隊数に合わせてポイントを獲得することとなる。
上位のプレイヤーから順に本戦のエリアが決定され、順位が良いほどより良い報酬が得られるようになる。予選は個人戦なためテイムモンスターを既に仲間にしているプレイヤーは、手数も対応力も上がり有利になることが予想される。
「予選は第一回イベントにモンスターも出てくる感じで……本戦は時間加速でのPvEかー、ハードなイベントになりそうだねー」
「生き残ることが目的みたいだし、サバイバルかな。全員で予選を上位で突破したいけど……」
ざっくりと確認したところで、さてもう一戦いこうとフレデリカが構える。そこでフレデリカの方にもう一通メールが来る。
「うげ、ペインからだ」
「ん、何か予定でもあったの?」
「あんまりサリーに手の内を明かすなよってさー。むー、バレてるかー」
「それもそうだね。またやり合うこともあるかもしれないし」
「ただーし、その裁量は私に任されたのでー。やりたいようにやるよー!」
「ははっ、ペインも苦労してそうだなあ……」
そんなことを言いながら、二人は第二戦へと入っていく。結局この日は五回決闘をしたものの、サリーの全勝だった。ただ、フレデリカもペインの言うことを守っていたようで、ノーツと呼ばれた小鳥に強力なスキルを使わせはしなかった。




