防御特化と業火。
三人は火口付近までやってくるとイグニスの上から火口を覗き込む。
「この中ね。ダンジョンの入口があるはずよ」
「ああ、任せろ。ここはよく知っている。イグニス!」
ミィはイグニスに指令を飛ばすと、火口から降りていく。途中、足場がせり出していて、そこから狭い入口が続いている。
「ここだな。イグニスでは狭すぎて入れん。徒歩でいくしかないな」
ミィは二人を足場に下ろすと、イグニスを元のサイズに戻す。
「えっと、何が必要なんだっけ?」
「道中の鉱石と植物が色々と、溶岩竜の素材ね」
「へー、こんなところでも植物もあるんだ……」
「普通ならないだろうな。見落としやすい赤の植物だったはずだ。気をつけて探すといい」
三人は一列になって洞窟の中を進んでいく。メイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動させているため、探索も安全である。
中はアリの巣状になっており、いくつかの部屋と細い通路で構成されている。そして、一番最奥にはマグマ溜まりがあり、そこに溶岩竜がいるのだった。
「ミィ、火属性のモンスターが相手だと相性悪くない?」
「ああ、悪い。ただ、私も成長している。それを見せてやろう」
イズがせっせと鉱石や植物を集めていく。メイプル達は採取などのスキルレベルが低かったり持っていなかったりするため、そもそもイズが求めるようなレア素材は獲得することができなかったりする。
そのため、ここは護衛に専念することになっていた。
そうして採掘をしていると、炎の燃えるパチパチという音とともに巨大な火の玉がいくつも現れる。それは意志を持ち、バックリと口を開けて小さな火の玉を生み出し始めた。
「増える前に片をつけるぞ。【炎帝】!イグニス【連なる炎】!」
「うん!【全武装展開】!【毒竜】!」
メイプルはいつも通りの一斉掃射と、毒攻撃を行う。そして、その隣ではミィが駆け出して火球による攻撃を行っていく。ミィとも時々一緒に戦うメイプルには、今までとの違いがよく見て取れた。イグニスから一定間隔で放たれた炎が宙を舞い、ミィの火球と接触するたびミィの体から炎にも似たオレンジのオーラが舞い上がり、ミィの攻撃力が上がっていくのである。
それはメイプルの銃撃よりもはるかに高い威力で、相性が悪いはずの炎のモンスターを焼き払っていく。
「私の火力の方が上だ!【豪炎】!【蒼炎】!」
天井まで届くような赤と青の炎が火の玉のモンスターを何もさせずに消しとばす。代わりにMPは空になってしまうものの、メイプルがほとんど攻撃するまでもなく、モンスターは倒された。
採取を終えたイズも、目を丸くしてその光景を見ていたが、パタパタと駆け寄ってくる。
「おおー!すっごい威力!」
「勿論。メイプルも本来は防御力がメインだろう?そんなメイプルの攻撃と比べれば火力も高くなってきているかもしれないな」
「うぅ……確かに。【毒竜】とか始めた頃からずっと使ってるしなあ」
「本当、すごい威力ね……あ、そうそう。はい、これ。私特製のポーションよ。お礼に、ね?」
「ん、助かる。頂こう」
ミィがそれを飲み干すとMPが一本で全回復し、さらにMPの自動回復を早める効果と一時的な魔法攻撃の威力上昇までついてくる。
効果時間を確認しミィは申し訳なさそうな顔をする。
「んっ、よかったのか?貴重なものだろう。こんな効果見たことがない」
「言ったでしょう?私特製よ。ふふ、いくらでも作れるわ」
「なるほど……そうか。イズも【楓の木】のメンバーだものな」
第四回イベントでの【楓の木】の物資の余裕もイズのおかげだったかと、ミィはかつてのことを振り返る。
「普段はサポート役だから……私がそういうことを言われる側になるのは何だか新鮮ね」
普段はもっと異常を全開で見せつけて暴れまわっているプレイヤーが七人いるが、その面々のアイテムや、さらにはメイプルが自爆に使う馬鹿にならない威力の爆弾もイズのものなのである。
まるで戦闘はできない風でいるが、アイテムの効果を高めて適当に爆弾をばらまくだけで、ある程度のプレイヤーもモンスターも爆死するのだ。
「ともあれ、これならいくらでも攻略ができる。MPの心配もHPの心配もなくなったからな」
メイプルの範囲防御能力によってHPは減らず、イズのポーションでMPも回復できる。
となればミィの弱点などなくなったようなものである。
「攻撃はミィに任せるね!」
「ああ、ボスまでは楽に進めるだろう」
ダンジョンの内部をよく知っている様子のミィを先頭にして、目的のアイテムを採取しながら奥へと進む。ミィの宣言通り、道中に現れたモンスターは全て炎同士で相性が良くないとは思えない速さで撃破されていった。
そうして三人は最深部へとたどり着く。そこは奥に湖のように輝くマグマが溜まっている場所で、歩ける地面からもぽこぽことマグマが噴出している。
「ここだ。来るぞ!」
「うんっ!」
「ええ!」
ミィが火球を生成し、メイプルが兵器を展開し、イズが爆弾を用意する。
それぞれの準備が終わったのと同時に、マグマが盛り上がって弾け、身体中から溶岩が滴るゴツゴツとした黒い竜が現れる。
今回はミィが前に突っ込むのに合わせて、メイプルとイズもそれぞれ距離を詰める。
ボスともなれば少しでも火力が必要なのだ。
「こっちも新技を……【水底への誘い】!」
直線移動なら兵器を爆破した勢いで飛ぶメイプルの方がミィを上回る。
のっそりとマグマから這い出てきた竜の頭に直接ぶつかるような角度で飛んでいくメイプルの左腕が黒い靄を放つ巨大な触手になっているのを見て、ミィが目を見開く。
「とおぉう!」
メイプルが絡み合った触手をパッと開くと、それはまるで化物が大きな口を開いたように五本に分かれ、竜の頭部を包み込むようにして収束する。
それと同時、触手の内側からおびただしい量のダメージエフェクトが弾け、竜のHPが大幅に減少する。
メイプルの攻撃力そのものは変わらない。しかし、元々連続して命中させるのが難しかった【悪食】が触手ごと、つまり一度に五回分発動すれば瞬間ダメージは跳ね上がる。
拘束効果や麻痺効果よりもその一点が大きかった。
「メイプル!もう一発だ!【爆炎】!」
攻撃を終えて落ちてくるメイプルをミィが爆風でもう一度打ち上げる。
メイプルは体勢を立て直すともう一度竜に向けて触手を伸ばす。
「ゴアアァァッ!」
「効かないよっ!」
竜がガパリと口を開けて熱線を放つものの、【悪食】を持つ触手はそれを飲み込み再び顔に食らいつく。それに合わせ、熱線に似た赤のダメージエフェクトが再度弾ける。
「爆弾よりこっちね!」
イズは素早くポーチからアイテムを取り出すと、ミィの近くに瓶をいくつも投げつける。
それらは割れるとともに地面にいくつもの魔法陣を描き、範囲内にいたミィの魔法の威力を跳ね上げる。
「これなら……【マジックブースト】【チェインファイア】!」
ミィはさらに魔法の威力を上げると【炎帝】により生み出した火球で次々に竜の体を燃やしていく。【連なる炎】によりより勢いを増す炎は【チェインファイア】によってさらにダメージを出す。燃費と引き換えに得た火力は伊達ではなく、メイプルの五連悪食にも負けないダメージを叩き出す。
ダメージを受けて怯んでいた竜もなんとか反撃に出るが、メイプルが【身捧ぐ慈愛】により全ての攻撃を受け止め、イズが割れた場所を中心にしてMPを回復するポーションを投げ続けているため、ミィの攻撃が止まらない。
「これで終わりだ!」
そうしてマグマよりも激しく燃え盛る炎の中にいるミィは、いともたやすく火山の主を焼き尽くしたのだった。




