防御特化と同行。
「さて……何か情報は出ているかしら」
そろそろ町の探索もあらかた終わった頃だろうと、イズは情報を確認しに向かう。
新規アイテムの作成のためほぼほぼ工房にこもりっきりだったため、素材アイテムの調達以外で外に出たのは久しぶりだった。
「えっと……モンスター情報は……」
イズが仲間にすることができるモンスターの情報を確認すると、そこには多様なモンスターが並んでいた。お手軽に仲間にできる中でも強いモンスターなどは、町でも連れられているのをよく見るようになっている。
「レアモンスター以外も中々強いわね。こういうのはサリーちゃんが確認しているんでしょうけど……生産職用のモンスターは……」
そうして確認していくと、ちょうど最近発見されたモンスターがいた。この町で生産できる新たなアイテムを一定数生産することがクエスト開放条件だったようで、イズのように閉じこもって生産に明け暮れていたプレイヤーによって最近発見されたばかりだった。
クリアすることで恐らく精霊が手に入るとされているが、誰もクリアしていないのかどのような能力なのかは分からない。
「うん、いいわね!この子にしようかしら」
イズは意気揚々とクエストを受けることができる民家へと向かった。屋根には大きな煙突があり、家の横には素材が詰まっていそうな樽が並んでいる。窓から見える部屋の中にはイズも見慣れた生産用の道具が並んでいる。
「ここね。確か条件を満たしていればクエストが……よし!」
イズが扉の前に立つとポンっと青いパネルが表示されて、クエストが発生する。
「【三つの試練】結構ハードそうね……」
イズはクエストを受けて部屋の中へ入る。するとそこには立派な白い髭を蓄えた老爺がいた。生産に人生を捧げてきたということを示すように、狭い家のあちこちには年季の入った道具が置かれている。イズがキョロキョロと部屋の中を見渡していると老爺が話し出す。
「ここにきたってことは、精霊の力を借りようってんだろう。ふん……まあある程度の力量はあるようだ。ちょっと待っていろ」
老爺は引き出しから一枚の紙を取り出すとそれをイズに差し出す。
そこには三つのアイテムの名前が書いてあった。
「精霊は気まぐれなものだ。力を借りられれば素晴らしい品ができるが……それ相応の主人である必要がある」
要は精霊に認められるだけの能力を示すために、これを作ってくる必要があるということだった。
「これは……そうね。分かったわ」
イズは一人納得すると、次にここに来るのはこの三つのアイテムを完成させてからだと決意し民家を後にする。
この三つのアイテムはまだどれも作ったことがないものだった。貰った紙からレシピを確認できたものの、作ったアイテム二つからさらに次のアイテムを作るという風に、いくつも生産していく必要があり、かなり気長に作業をする必要があった。
「作業はいいのだけれど……困ったわね」
途中に示されているアイテムには強力なモンスターのものと思われるものも多いのである。イズ一人では討伐は難しい。
「誰かに助けてもらうしかないわね」
ギルドメンバーのログイン状況を確認し、ギルドホームに戻る途中で、広場にメイプルとミィがいることに気づく。するとイズの姿に二人も気づいたようでメイプルが大きく手を振っている。
「メイプルちゃん、お疲れ様。どう?探索は順調?」
「はいっ!今日はミィにレベル上げをしないかって誘われて」
「あら、そうなのね。それじゃあ今日は頼めないわね……」
メイプルが首を傾げて何かあったのかを聞くと、イズは先程のクエストについての話をする。
メイプルとしては手伝いたいものの、ミィとの約束も大事といった様子である。
それを隣で聞いていたミィは考え事をするように口元に手を当てていたが、クエストの話が終わったところで入れ替わるように話し始めた。
「なるほどな。なら、こういうのはどうだ?私もついて三人で行こう。今日は元々レベル上げの予定だったんだ。それなりに厳しいエリアに行くのだろう?それならレベルアップも見込める」
「いいの?ミィ?」
メイプルがそう言うと、ミィはメイプルにだけ分かるようにウィンクをする。
「勿論。それに、ふふ……ライバルの今の能力を見ることもできるからな」
これもまた本心ではあるが、もう一つはメイプル達を手伝ってあげたいし一緒に遊びたいというものだった。
「そういうことならお願いできるかしら?当然、サポートに手は抜かないわ」
「ああ、構わない」
「それじゃ行こう行こう!」
こうしてイズを先頭にして、メイプルとミィがついていく。メイプル達があまり向かっていないため素材がかなり足りていないのもあり、最初の目的地は火山となった。
「結構遠いし……【暴虐】使う?シロップに乗っていく?」
「途中で戦闘があると結局時間がかかるし……シロップに乗って行った方がいいかしら」
二人が相談をしていると、ミィがそれを遮る。
「もっといい方法がある。ふふふ……空を飛べるのがメイプルだけだと思わない事だな。【覚醒】!」
ミィがそう口にすると指輪が赤く輝き、長い尾を持ちオレンジ色の羽毛を持った鳥が現れ腕にとまる。翼の先端からは赤い炎がゆらゆらとたなびいており、その辺りの森にいるような鳥ではないことが窺える。
「おー!!それがミィの相棒なんだね!あ、今日はねこれを見せてもらう予定でー」
「なるほど……不死鳥……かしら」
かっこいいかっこいいと興奮して鳥を見ているメイプルを見て、どこか自慢げにミィは相棒を【巨大化させる。
「イグニス、【巨大化】だ!」
それに合わせてイグニスと呼ばれた鳥は三人が背に乗れる程のサイズまで巨大化する。
「これならすぐに着く。さあ、行こうか!」
ミィがそう言って上りにくそうにしているメイプルに手を貸しつつ背中に乗る。メイプルはその時にミィにこそっと話しかける。
「テンション上がってるね」
「うっ、は、早く見せたかったの!どう?」
「うん、すっごいかっこいいっ!」
メイプルのその言葉に改めて満足そうにミィは笑う。そうしているうちにイズも乗り込んで、イグニスの背に乗った三人は火山へ向けて飛び立っていった。




