防御特化と瓜二つ。
目的地に辿り着いたカナデは、いつ戦闘になってもいいように本棚を展開しつつスライムの姿を探す。ヒントの通りなら、ここにいるはずである。
「……いた」
鏡のように姿を写す結晶はどろりとその形を崩して、別の形に変わっていく。透明だった姿に色がつき、細かな部分まで作りこまれる。
「なるほどね……思ったより時間がかかりそうだなあ」
カナデはぼそっとそうこぼす。カナデの前には自分とそっくりな、まるで鏡に写っているかのようなカナデの姿があった。
その体の周りにはカナデと同じように本棚が浮かんでおり本がぎっしりと詰まっている。
「さ、勝負しよっか」
そう言って、カナデが本棚から本を取り出すのに合わせて、スライムも同じく本を取り出す。
使えるスキルの種類は同じ、となれば優劣を決めるのは使い方である。
カナデは本棚の内容を正確に把握している。それは、背表紙を見ただけでどのような魔法がどのようなタイミング、範囲で放たれるかということまで含まれる。
そのため、カナデはそれらの対処法を瞬時に導き出し回避することができる。
似たようなものとしてはカスミの【心眼】で、どこが危険かは完璧に把握できるのだ。
「【焔の魔弾】【死霊の声】」
カナデの姿となったスライムは二冊の本を取り出すと、ホーミング性能のある炎の塊を放つ魔法と即死効果を広範囲にばらまく魔法を起動する。
「っと、【対魔術障壁】!【祝福の衣】!」
カナデはそのスキルが来ることが分かっていたため、魔法にしか効果がないかわりに強力な障壁と、持続回復効果付与とともに即死に対する耐性をつける光の膜を張って対応する。
業火は障壁に直撃し爆ぜ、恐ろしい声は光に包まれて消えていく。
「レアなのも好き勝手使うなあ……温存は厳しいか……」
カナデは大量の魔導者を保持しているが、それら全ては使い捨てである。
今後のイベントにも備えなければならないカナデは好き勝手使えるスライム側とは訳が違う。
躱せるものは躱して、どうしても避けようがないものだけを対処用の防御魔法で防いでいく。
「使い方が上手くないだけマシかな?ま、それでも嫌だけどさ」
遠くから魔法を打ち合っていても埒があかないと、距離を詰めるカナデに大波と地割れ、雷が襲いかかってくる。
「【魔力飛行】【威力減衰】【アンチマジック】!」
【魔力飛行】によってふわりと浮き上がり、地割れを避けて加速すると、雷と大波は仕方ないと二重のダメージ低下によって耐えきる。
耐え切ってしまえば【祝福の衣】が回復してくれる。本来はレアなスキルなため、回復量はかなりのものだ。
無理矢理に大波を突破した所で魔法の効果が切れ、カナデは地面に降りてくる。
それに合わせて、スライムはさらに魔道書をばらばらと開く。
それに合わせて、地面には花畑が広がり、空中からはいくつもの鎖が伸びてきて、前方からは吹雪が吹きつける。
「僕もそんな感じで景気良く使いたいなあ。【オールレジスト】【ファイアストーム】【召喚:デコイ】」
するすると距離を詰めながら、地面の毒花から吹き出す状態異常まみれの花粉の効果を無効化し、吹雪に熱波をぶつけ、鎖の対象を逸らす。
対応に次ぐ対応で、ようやくスライムに肉薄する。
「うん、やっぱりそこまで完璧な動きはしないか」
カナデはいくつもの魔導書を取り出し一気に攻撃に移る。それはいずれも一切の軽減効果を受けない最高クラスの攻撃魔法。かわりに命中範囲が狭いものの、今の位置なら問題ない。
「【破滅の息吹】【神罰】【重力の斧】!」
黒い炎と雷のような輝きが、目に見えない力で地面に叩きつけられたスライムを焼き払う。
それに合わせていくつも発動した防御魔法は全て意味がなく、スライムはすっと消えていき、地面には休眠状態とでもいうような透明な塊だけが残った。
「ふぅ……このレベルで真似できるなら隠れなくてもやっていけそうだったけど……さてと」
カナデは核を拾い上げると、説明を確認する。
そこには50種類のスキルか魔法を発動することで復活して仲間になると書かれていた。
「50か。まあ、本にも知識を求めて他の生き物に化けるって書いてたしね」
そこまで重要でないスキルまで取得していれば可能な数字である。ただ、カナデの場合は改めてスキルを覚えにいく必要もない。
「友好というよりは従えるって感じだけど。ま、マイとユイもそんな感じだったらしいし……」
カナデは簡単なことだとこの場で50個の魔法を発動させる。魔導書も使うことになったが必要経費というものだ。
すると、それに合わせて塊がどろりととろけてスライムの形に戻る。
「名前か……んー、じゃあ【ソウ】にしよう。ほら【擬態】」
カナデが指輪をはめながらソウに対して命じると、ソウはカナデと全く同じ姿をとる。勿論周りに浮かぶ本棚の中の魔導書まで全く同じである。
マイとユイより瓜二つ、というより全く同一の二人はそれぞれ上手くいったというような笑みを浮かべる。
「うん、いいね!……スキルの威力は半分になるのか。ま、十分かな。強みはそこじゃないし」
流石に敵として出てきたままとはいかなかったが、それでも魔導書が倍使えることに変わりはない。
「後はどこまで制御できるか……ま。それは育てていかないと分からないか」
これでもっと面白い攻撃ができるようになったとカナデがくすくす笑うと、ソウも同じように企んでいるような悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。




