防御特化と追跡。
メイプルが触手を披露してから数日、まだモンスターを仲間にしていない三人はギルドホームで、どんなモンスターを仲間にしようかと考えていた。
「僕はまあ皆の穴を埋める役割が多いからね。一点特化っていうよりは器用な子がいいかな。目星はついてるんだけどね」
「俺は回復力が高いと噛み合うな。ちょうどうちにはヒーラーもいないしな……まあ今一つクエストを走ってるからそれ次第って所だ」
「私は生産系用のモンスター探しかしら。きっと戦闘系とはまた別に用意されていると思うのよね。そろそろ情報も出そうなのだけれど」
三人ともそれぞれの強みを活かすことができるモンスターと巡り会いたいのである。とはいえそんなものはそれぞれ数種類ずついればいい方だろう。さらに言えば、イベントで張り合うギルドは【集う聖剣】や【炎帝ノ国】となるのだから、それらに対抗できるだけのポテンシャルを持っている方がいい。となれば仲間探しも難航するというものである。
「仲間探しが終われば全員で動きやすいしな。うし、今日で終わらせる気でやるか!」
クロムはそう言って立ち上がる。求めているものが違う以上バラバラに動かざるを得ない。全員で七層を歩き回るにはもう少しかかるだろう。
「いってらっしゃい。私も町を見てこようかしら」
「僕もそうしようかな。クエストとかがあるかもしれないしね」
そうして三人はそれぞれに目的を持ってギルドホームを出ていった。
「とは言ったものの……行くあてもないんだよね」
カナデは広い町の中を一人スタスタと歩く。まず分かりやすく町に変わった様子がないかを確認しているのである。カナデは町を探索している間にすれ違ったNPCの顔は全て覚えている。そのため、一人一人総当たりなどしなくともいい。既に分かっている、どこでどんなクエストがあるかやNPCがどこにいるかという情報と今の町を照らし合わせれば見たことのないNPCはすぐに明らかになる。
今日もいつもと同じ定期調査という訳だ。
「……っと?」
カナデがいつも通り成果は出ないだろうと鼻歌を歌って歩いていた時、視界の端を一人の男が歩いていくのが見えた。
市販のマントにロングソード、バックラーに軽鎧。どこにでもいそうなNPCの一人。
ただ、カナデはその姿に見覚えがなかった。カナデの見る世界ではそのどこにでもいるような男はかなり異質なものに見えた。
「ついていってみようかな?どうせ暇だしね」
カナデは町を回るのをやめてその男の後をついていく。男は何をするでもなく、ぐるぐると町の中を歩き回る。カナデも飽きもせずにこにことしながらその後をついていく。
しばらくそうしていると、男は少しルートを変えて、ゆっくりと人気のない路地の方へと歩いていき、家の中に入った。
カナデもそれを追って家の扉を開ける。
「いない……?」
見失ったはずはないのだから、何かしら消えた訳があるはずである。
「最近は結構ログインしてたし……空振りってことはないと思ったんだけど……」
ちょうど今までずっと見逃していただけという可能性もゼロではない。しばらく部屋の中を調べていたカナデは何も見つからないまま、部屋に備え付けられた椅子に腰掛ける。
「ふー、何かあるかと思ったけどなあ」
カナデは椅子から立ち上がると部屋を出るためにドアノブに手をかける。
「…………何もなしか」
カナデはそう呟いて外へ出た。
「なんてね」
そして、一瞬の後もう一度入室したのである。違和感のあるものには理由がある。納得がいくまではカナデはこの家から離れる気はなかった。
「ふーん……」
カナデが中に入ると先程と同じに見える内装が広がっている。テーブル、椅子、ベッド、本棚。
ただ本棚の並びが一冊分変わっていることにカナデが気づかないはずがなかった。
「ここかな」
カナデが本に触れるとその方はすっと透明になり、凄まじい速度でカナデの手を離れ逃げ出した。
「やっと見つけた。やっぱり町に用意された図書館にも役立つ情報はあるね」
カナデが探していたモンスター、それは物の姿をそっくりそのまま写し取り真似るスライムだった。
カナデがそれを発見すると同時にクエストが発生する。
「【写し鏡】かあ、いいね」
カナデはもちろんクエストを受け、家から出てフィールドを歩いていく。
いくべき場所は既に分かっている。何かある何かあると言われていた、鏡のような断面となっており体が写る巨大な結晶が立ち並ぶ洞窟である。
「さてと、後は思ってる能力と近ければいいんだけとな」
最近はそこまで戦闘をしていなかったため魔導書の貯蔵も十分である。
さくっと攻略してしまおうと、カナデは目的地に向かうのだった。
 




