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防御特化と靄の先。

そうして真っ暗な闇の中を通過したかと思うと、浮遊感ののちに固い地面に叩きつけられる。


「……だ、大丈夫みたい?びっくりしたあ……」

無事を確認して動こうとするものの、どうやらかなり狭い空間らしく、化物形態の巨大な体ではまともに動くことができない。

こんなところで、壁に引っかかるのはメイプルくらいだろう。


「解除するしかないかあ……うう、もったいない」

メイプルは化物形態を解除して腹部を裂いてべちゃりと地面に落ちると、むくっと起き上がる。

じめっとした岩が作った洞穴というような様子で、地面や壁には所々に先程メイプルを引きずり込んだ黒い靄がかかっている。


「よしっ、とりあえず探索だよねっ!」

岩と岩の隙間を通り抜けるようにして進むと、すぐに突き当たりにたどり着く。


「あれ?もう終わり……ぃぃっ!?」

引き返そうとしたところで再び靄から触手が飛び出してきてメイプルをひっ掴み、靄の中に引きずり込む、そして、また少し形状が違うだけの岩の隙間に放り出される。


「うぅ、どうしたいの?」

ダメージを受けるわけでもなく、また放り出されたメイプルは一旦落ち着いて考えることにした。急に触手に掴まれるなどということはそうはない。慌てるのは当然だが、まずは今できることを整理することが大切である。


「慌てちゃダメ、よしっ!」

メイプルはそうしていくつかある靄を確かめる。するとどの靄からも触手が伸びてくることが分かった。となれば、メイプルにもやるべきことが分かってくる。

ルートはいくつかあり、それによって楽だったり厳しかったり、あるいは正解のルートしか先に進めなかったりするのだろうと推測できた。


「むむむ……こういうのはカナデが得意なんだけど、ここで仲間にできそうなのは……」

メイプルにはカナデにこの得体の知れない触手を勧める気にはならなかった。メイプルとしても進んだ先にもっといい仲間モンスターがいるかを確かめなければならない。

意を決して次の触手に掴まれるとそこは外れだったようで、大量の触手がメイプルを拘束し、普通ならば恐らくダメージを与えるであろう締め付けと薙ぎ払いを行なってくる。


「そんなぷよぷよの触手じゃあ効かないもんね!【全武装展開】!」

数には数をというように、メイプルから兵器が生えて、大量の銃弾をばらまく。それは狭い空間で滅茶苦茶に跳ね回り、触手にダメージを与えていく。


「あれ、思ったより効いてない……ぬるぬるしてダメージを減らしてるのかな?」

銃弾を滑らせているのか、触手にダメージは入っているものの、いつもよりも入りが悪い。なら次は【毒竜】次は【悪食】とメイプルの攻撃のフルコースを受けて、流石に触手も耐えきれずに千切れ飛んだ。


「触手は尖ってないから貫通攻撃もなさそうだし、まだまだ進めそう!」

メイプルはそうして洞窟をガンガン進んでいく。途中外れと思われる道を通ることはあったものの、メイプルにとってはどの道も等しくただの通路である。避けるのが厳しい攻撃も、威力の高い攻撃も、拘束も、メイプルにダメージを与えられないのであればいずれ突破されてしまうのだ。


「ふぅ、結構進んだかなあ。ちょっと雰囲気も変わってきたし……」

というのも、風化した骨の残骸やこびりついた血など、色々なものが死んでいった痕跡が見られるようになってきたのである。


「私も捕まって連れてこられたし、食べられたりするのかな?」

この道中を使って本格的な捕食の前に獲物を弱らせているというわけである。

実際、メイプルもしつこい拘束を引き剥がすためにかなりの銃弾を使わされていた。


「でも戻るのももったいないし……節約しながら行きたいよね」

メイプルを拘束して攻撃してくるものが友好的なはずはない。最後には戦闘になることが予想される。メイプルは休憩しつついい案がないかを考える。


「うーん……次に捕まった時でいいや!ダメージは受けないんだし!」

試すためには触手が出てきてくれなければならない。メイプルは一旦対策は置いておいてさらに最奥へ向けて歩を進めることにした。


しかし、それ以降はきっちりと正解のルートを引いたのか、結局楽に対処できるだけの触手しか出てこなかった。

そして、一際大きい触手に掴まれて靄の中に入った後、メイプルはバシャンと音を立てて水の溜まった床に落ちる。


「っとと、ここが最後っぽい?」

メイプルの足元には黒く濁った水が溜まっており、周りは岩壁で囲まれている。黒々とした水のせいでどこから急に深くなっているかも分からない。

迂闊に足を踏み出せずにいるとメイプルが落ちてきた時よりもはるかに大きな音を立てて、触手が水面から伸びてきた。

それはその底に本体がいると思わせるような、太く巨大なもので、メイプルも驚いて思わず一歩下がってしまう。


「あっ、そうだ確か……!」

メイプルは一旦触手から離れるように走りながらインベントリを操作する。

取り出すのはもちろんイズに作ってもらったアイテム。今回は水中で少し長く息が続くというものである。


「よしっ準備万端!いつでもいいよっ!」

戦闘体勢に入ろうと振り返ったメイプルの視界を巨大な触手が埋める。メイプルの準備をおとなしく待っていてくれるはずもなかったのだ。

メイプルはそのまま強い力でぐるっと体を触手に巻かれ締め付けられて持ち上げられる。

広がる黒い水は奥が深くなっているようで、そこに引き込もうとしているのだ。


「っ!」

同時に【悪食】が発動し、水中にHPバーが表示されるが、その減少割合は低い。

しかしそれによって触手に隙間が生まれ、メイプルがするりと下に抜け落ちる。


「あ、危なかったぁ……うわっ!すごい数!」

メイプルの目の前でさらにバシャバシャと触手が伸びてくる。そして、もう一度掴みかかろうとした触手を今度はしっかりと大盾で受け止める。すると、今度はダメージを与えることはなく、真っ黒な靄となって消えてしまった。


「偽物!?そっか、そうだよね!」

これほど大量に触手を持った生物などいないわけで、メイプルが納得する。しかし納得している場合などではなく、メイプルの背後から触手が地面を這うように振るわれ、メイプルを跳ね上げる。


「わっ!?っと、よしっ!ノーダメージ!」

吹き飛んだメイプルは余裕そうな表情で今度は反撃だとそのまま地面に落ちていく。しかしその途中、黒い靄が空中に広げられて、メイプルはそこにそのまま突っ込んだ。

思わず目を閉じてしまうものの、特に痛みもなく、地面にビタンと顔から落ちる。


「よしっ、反撃!【毒竜】!」

メイプルはそう言って急いで体を起こし、バッと手を突き出すものの、その手にはあるはずの短刀がない。


「へっ?」

間抜けな声を上げるメイプルが自分の体を確認すると、黒い鎧も大盾もそこにはない。

最初期を思い出す何も装備していない初心者服の状態である。

メイプルが混乱する中、黒い靄から少し遅れてメイプルの装備品が落ちてくる。


「あっ!それ私のっ!」

装備が外されると使えなくなるスキルも多い。メイプルが急いで回収しようとしたところで、今度こそメイプルを掴み上げて触手は水の中に沈んでいく。


「ううぅぅ!こんなにたくさんあるのズルいよーっ!」

メイプルがそのまま水中に沈められる。それなりの【STR】があるならば解くことができるのだが、メイプルではそれは不可能である。

焦りつつ上を見るとそう簡単に逃げられないように道中のように、黒い靄から触手が伸びて待機している。


「……んーっ!んん……ん!」

そうして水底に近づいていくメイプルの目についに本体が映る。

今のところHPバーの隣に仲間にできるマークはないそれは、数十メートルはある蛸だった。蛸は黄色い瞳を怪しく光らせている。


このままでは水中にいられる時間をオーバーしてダメージを受け死んでしまう。とはいえ今のメイプルでは水上に戻ることは難しい。

そこでメイプルは賭けに出ることにした。


「【全武装展開】【攻撃開始】!」

メイプルは水中で兵器を展開すると、それを爆発させて触手を焼き、拘束を解く。

そして、そのまま爆発によって得た推進力でメイプルはさらに底へと向かっていく。

底には触手はなく、自由に動ける。メイプルがそのまま本体の方に吹き飛ぶと、蛸は捕食モーションに移る。

メイプルはそれを待っていたというように、兵器を再度展開して、爆発して自ら口の中へ飛び込んだ。

人間砲弾となって開ききっていない口をこじ開けるようにして胃まで飛び込む。

そこには水はなく、水中の判定から抜けることに成功した。


「ふー……前にも食べられたことがあってよかった……サリーも予習は大事って言ってるのがよく分かるよー」

ようやく反撃だとメイプルは再度兵器を展開する。こんな劇物はそもそも体内に入れてはいけないのである。

メイプルの声に応じて、胃の中を大量の弾丸が跳ね回る。それと同時に凄まじい量の赤いダメージエフェクトが爆ぜる。


「よしっ、こっちでも弾が滑っちゃうけど……跳ね回るなら大丈……ぶっ!?」

メイプルが狙い通りというように弾丸を撃っていると、胃の中に黒い靄が発生して巨大な触手がそのままメイプルを突き飛ばす。

それは入ってきた時とは真逆で、メイプルを凄まじい速度で押し返し、吐き出すような形で水中へと弾き出した。


こうして、胃の中に入る必要がある捕食対象だったメイプルと、劇物を胃の中に入れさせてはいけない捕食者の蛸との戦いが始まったのだった。


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