防御特化と追加2。
そうして、カスミは五層で指定された場所へ向かって歩いていく。
ここでの目標は、ダンジョンの最奥にある素材を獲得することである。
「久々に来た気がするな……さて、さくっと片付けてしまおうか」
雲でできた地面を蹴って、目的のダンジョンに飛び込む。ダンジョンの中は雲でできた壁と床が眩しいほどに白く、通路には小さな水滴や氷が浮かんでいる。
そしてそれを伝うようにして、定期的に大きな音を立てて雷が駆け抜ける。
無理やり通っていくにはかなりの間ダメージを受けることになるだろう。
「ダメージを見てみないと分からないか……【十ノ太刀・金剛】!」
カスミはイズにもらった麻痺耐性上昇と雷属性ダメージ軽減のポーションを飲むと、スキルを発動させ【AGI】と【DEX】を低下させる代わりに、状態異常耐性上昇とダメージ軽減の効果を得る。
「よし、行くとしよう」
カスミが通路を駆け抜けていく途中で、電撃が走るものの、カスミは問題なく歩みを進める。危惧していた麻痺にかかることもなく、ダメージも二重のダメージ軽減によって、十分ポーションでの回復ができる範囲で収まった。
「……!」
ポーションを飲みながら通路を抜けていく途中で、空中の水滴や氷が結合し、それぞれ氷の結晶と水滴の形をしたモンスターが現れる。
カスミが撃退しようと刀を抜いたところで、モンスターは高い音を立ててくっつき、氷の壁となって道を塞いだ。
「地形を利用する気か……押し通る!【武者の腕】【六ノ太刀・焔】」
カスミは両脇に巨大な腕を召喚すると、さらに自分の手に持った刀に炎を纏わせ氷の壁を溶かすようにして切り捨てる。
壁はいわば変形し耐久力が高まったモンスターであり、その耐久力をさらに上回る攻撃をされれば壊れてしまう。
切り捨てた先にも壁、その先にも壁。
そして、後ろからはさらに激しくなってきた雷が迫ってくる。
しかし、攻撃能力と防御能力どちらも優秀なカスミはダメージを受けつつも、しっかりと正面から通路を突破したのだった。
「よし、と……なんだ、私もなかなかやれるものだな」
ギルドメンバーが誰も彼も癖の強い成長をしているだけで、自前のバフをかけて相性の良い高威力の攻撃を繰り出すというのは真っ直ぐに強いのである。
自分の攻撃がきちんと通用するという事実に、カスミはホッと胸を撫で下ろした。
電撃の走る通路を抜けると、そこには広い空間があり奥へ続く二つの道があった。
「あれは……」
そしてその雲でできた白い地面に同化するようにして、一匹の小鳥が眠っていた。雲でできた翼と真っ白い羽毛。小鳥はカスミの接近に気づくとパタパタというよりはふわふわと漂うように奥の通路に消えていった。
「必要なのは親鳥の羽だったな。後を追うか」
二つのルートがあるが、カスミは小鳥の飛んで行った方へと向かう。
「ああいったモンスターも……もしかしたら仲間にできるのかもしれないな」
今回のクエストなども四層で発生したものであり、他の層にも定期的に確認に向かう必要があると改めて思いながら、通路の先を確認する。
「次は吹雪か……」
先の様子を確認してはアイテムやスキルで対策をとって突入し突破する。これを何度か繰り返したところで、遠くに空の色が見えてきた。
「抜けたか。まあ、上出来だろう」
多様な地形に対応し、モンスターを倒しつつ突破できたことに一人満足しつつ、坂道を登って外へ出る。
そこからは雲がまるで木の枝のように細く伸びていて、その先端には鳥の巣と、大きな雲でできた羽と小鳥がいた。
「一枚もらっていくぞ。目的はこれだけだからな」
カスミは雲の上を歩いていき、羽を一枚手に入れると親鳥が帰って来る前にさっとその場を離れるのだった。
「さて、最後は大物だな」
残るは六層である。カスミが六層でしなければならないことは、ボス格のアンデッドモンスターの討伐だった。
「消耗も少ない。よし、このまま向かうか」
カスミは四層と五層をクリアした勢いのまま六層の指定された場所へ行く。そこは特に大きな障害物のない平野で、血のついたボロボロの剣や鎧の転がるエリアで、何かありそうだとは言われていたものの、これといったイベントの起こらない場所だった。
「…………」
クエストを受けてやってきた以上、何もないはずがないと、カスミは刀を抜いていつでも戦闘態勢に入れるようにして平野を歩く。
「……来たか」
カスミの周りでカスミのものとは違う紫の炎が地面から吹き出し、それとともにあたりに霧が立ち込める。
カスミが刀を構える中、正面の霧の中からすっと血塗れの甲冑を身につけ、同様の直剣を携えた首なし騎士が現れる。
「大型よりはやりやすい!行くぞ!【心眼】【武者の腕】【一ノ太刀・陽炎】」
カスミは【武者の腕】を発動させて手数を増やし、【心眼】で攻撃に転じやすくすると、一ノ太刀で瞬間移動し一気に距離を詰める。
カスミの攻撃は受け止められたものの、両脇の腕の巨大な刀が胴と肩を深く斬り裂いてHPを削り取る。
「【四ノ太刀・旋風】!」
そのままの勢いでカスミは連撃を繰り出し、一気にダメージを稼ぎにいく。
連撃を受け止めるのに剣を使わせていれば、手数が多いカスミが有利になる。
しかし連撃が終わると同時に、カスミの視界を埋めるように【心眼】による攻撃予測が表示される。
「【跳躍】!【三ノ太刀・孤月】!」
カスミは咄嗟に飛び上がり、さらにスキルによって空中でもう一度推進力を得る。
直後地面から紫の炎が吹き上がり消えていく。何とか炎をやり過ごし着地したものの、そこに首なし騎士の姿はない。
「はっ、読めているぞ!」
振り返り、刀を構えたところに【心眼】による攻撃予測が表示され、霧の中から首なし騎士が再度姿を現す。
カスミ自身も姿を消して瞬間移動するスキルを持っている。その経験からダメージを与えるためにどう動いてくるかを推測したのだった。
「受けて、斬る!」
カスミは立ち回りを変え、敵の攻撃を受け止めるのに集中し攻撃を【武者の腕】に任せる。そして腕の攻撃を受けて怯んだところに一撃を叩き込み相手の出方を見る。
堅実に、一撃ずつ。受けるダメージを最小限に抑えながらダメージを与え、HPをゼロに追いやっていく。
そうしてHPを減らしていくと、首なし騎士が大きく体勢を崩した。
「【紫幻刀】!」
相手を弾き飛ばしながらの十連撃。幻でできた刀を右手左手と交互に振り抜きダメージを与え、その度に距離を詰める。
逃げることも許されず、体勢を崩し受け止めることもできない。そのうえ、【武者の腕】の攻撃がさらにダメージを加速させる。
十連撃が終わり、消えた刀が首なし騎士を取り囲むように出現し一斉に突き刺さる。
カスミのダメージ計算は完璧だったようで、刀が突き刺さると同時に首なし騎士は崩れて地面に転がる血塗れの鎧のうちの一つとなった。
それと同時に、周りを覆っていた霧は消え、炎も収まっていく。
その場には小さくなったカスミが残された。
「はぁ……これさえなければ最高の技なのだが……」
このデメリットがあるからフィニッシュにしか使えないとぼやきつつ、カスミはそのまま人目につかないように、ズルズルと刀を引きずりながら森の方へ歩いて行って木の根元に座り込む。
「元に戻ったら報告に行くとしよう。ここのモンスターも手に入れられると考えると……まだまだ強くなる余地はあるか」
カスミはまだ見ぬ相棒に想いを馳せつつ、体が元に戻るのを待つのだった。




