防御特化と塔十階2。
サリーは再びボスと向き合うとボスの突進に合わせてダガーを突き出す。避けようとしなければ攻撃はガードされずにボスへと届く。
サリーは回避を捨てて、少しでも多くボスにダメージを与えにいったのである。
「うっ……うぅぅ!【瞑想】!」
ダメージはメイプルがそのまま肩代わりするが【天王の玉座】のダメージカットがあってもメイプルのHPの三割程度を削り取っていった。
メイプルはさらに回復スキルとポーションを使ってHPを保つ。
「負担をかけてる分、HPは削らせてもらうよ!」
一歩引いていたところを一歩踏み込んで攻撃する。メイプルが直接攻撃されているわけではないため、ポーションや回復が間に合っている。
普通に無策に正面から斬り合っては勝てない相手だが、これならばダメージを与えられる。
「【トリプルスラッシュ】!」
ボスの三連撃がサリーの体を斬り裂き、サリーの連撃がボスから激しくダメージエフェクトを散らせる。
「こっちは無理してるのに、ようやく二割!?」
「私は大丈夫!イズさんのポーションがまだまだあるから!」
「くっ……動きは単純なのに!」
シンプルな連撃と素早い追撃、回り込み、ギミックの様なものはなく、シンプルな強さで押しつぶしに来る。
まだここから行動パターンが増えることを考えるとサリーにも余裕はない。
「今回は私の火力も最大なのに、なっ!」
【剣ノ舞】の青いオーラを纏ったダガーと長剣がぶつかり合い火花が散る。
サリーは牽制で魔法を撃つものの、ボスはいつもサリーがしているようにきっちりと回避してくる。
「……メイプルの【毒竜】も駄目かな」
サリーは思考を巡らせて、行動パターンが変わらないうちにどうやってダメージを稼ぐか考える。メイプルの攻撃はほとんどが単発火力であり、それが回避されるとなると二人が出せるダメージは激減する。
さらに、ボスの火力が上昇すれば今の戦略は使えなくなるだろう。
「ふー……朧【影分身】!」
サリーが分身しそれぞれに攻撃を仕掛けるものの、それに反応するように剣が煌き、回転斬りがすべての分身を叩き斬る。
サリー自身は何とか回避するものの、その表情は険しい。
頭の中で一つ一つ有効なスキルとそうでないスキルを仕分けていき、メイプルのスキルと組み合わせた戦術を考える。
「よし。メイプル!ダメージを与えるための作戦を考えたから聞いて!話し終わったらパターン変わるまで削る!」
「分かった!」
サリーはボスに対処しながら、メイプルに口頭で作戦を伝える。メイプルはそれを聞いて使うスキルやタイミングを頭に入れる。
「おっけー!大丈夫!」
「なら、【トリプルスラッシュ】!」
サリーのダガーがHPを削り、残り七割となったところで行動パターンが変化した。
大きく剣を振りサリーと距離を取ると、刀身に手をかざす。すると、刀身から炎が吹き上がり煌々と燃え始める。
「メイプル、観察するからしばらくはもしもの時の回復に専念してて!」
「うん、そうする!」
ボスは剣を振って炎の刃を正面に放つと、そのままサリーに突進する。
サリーは飛んできた炎を避け、剣をダガーで受け止める。するとメイプルの鎧に炎が散りメイプルのHPを減らしていく。
「う……っ!」
「これも燃えるか……!」
サリーは攻撃を受け止めずに、何とか躱してメイプルにダメージを受けさせないように動く。
ボスの攻撃には全て炎が追加されており、ギリギリで躱そうとすると判定の残っている炎に焼かれてしまう。距離を取らなければ、ノーダメージは難しい。
「本当、隙がどんどんなくなってくね……」
距離を取ると今度は炎の刃が連続で飛んでくる。そのため、メイプルはシロップを出せないでいた。
動き自体の変化は少ないと見たサリーはメイプルに指示を飛ばす。
「よし、メイプル!攻撃するよ!」
「分かった!」
サリーが攻撃し、ボスの注意を引いているうちにメイプルは武装を展開し、爆発して一気に距離を詰める。
「【凍てつく大地】!」
音を立ててメイプルを中心に地面が凍結する。それはそのまま地面に接触していたボスにも伝わり、ボスの動きが三秒間止まる。
「【パワーアタック】!」
「【毒竜】!【滲み出る混沌】!【捕食者】!」
その三秒のうちに隙の大きい攻撃、躱されやすい攻撃を叩き込む。
【捕食者】の攻撃によって、さらにボスのステータスが低下するが、三秒というのは短いものですぐにボスが動き出す。
二人が離れようとした瞬間、ボスは地面に剣を突き立てた。
それと同時、ボスを中心に巨大な赤い魔法陣が展開される。
「まず……っ!」
「【暴虐】!」
メイプルが叫んだのと、地面から巨大な火柱が上がったのは同時だった。