防御特化と塔九階3。
「また上にいるねー」
「うん、お願い」
メイプルはサリーを足場に下ろすと、そのままゆっくりと高度を上げていく。
咆哮を終え、鉤爪を伸ばしてくるボスの攻撃をすっと躱してすれ違いざまに腕を切り裂く。
「カウンターの数が増えたかな……っ!」
サリーは背後から気配を感じてとっさにぐんと前方に加速する。
直後サリーの背後から、空間を切り裂いて黒い棘が伸びてきた。
「見える分だけ優しい……かな。ま、これなら避けられる!」
サリーはそのままボスの近くまで行きダガーで攻撃し始める。
それに対応して、ボスの周りにいくつもの大きな魔法陣が展開される。うち一つはサリーの真下に位置していた。
「範囲広っ……!」
「大丈夫!そのまま攻撃してっ!」
なんとか発動までに逃げようとするサリーに上空から声がかかる。
【ピアースガード】をいつでも使えるように準備しつつ前に出たサリーを【身捧ぐ慈愛】の範囲内に入れ直す。
「ナイス!これなら……」
それぞれの魔法陣から黒い奔流が空に向かって吹き上がる。強力な攻撃だということは間違いないものの、【ピアースガード】で貫通攻撃を無効化したメイプルを傷つけられる攻撃など無いに等しい。
サリーは防御をメイプルに任せて黒い奔流から飛び出ると、そのまま体を捻るようにしてダガーを振り抜く。
「よし!」
カウンターをするりと躱して【剣ノ舞】のバフを強化しダメージを加速させる。
積極的に前に出て攻撃を繰り返すことで、カウンターを仕掛けさせ、それを全て自分の力に変えていく。
上手く凌ぐことができる二人にとって、突き上げる奔流は嬉しい行動である。
大きい隙をきっちりとついて、連撃を叩き込み【星の力】の効果が切れないうちに足場へと撤退する。
「こっちも……【攻撃開始】!シロップ【精霊砲】!」
メイプルも上空から再びレーザーを放ち、シロップにも攻撃させダメージを稼ぐ。当然カウンターが飛んでくるものの、今度は兵器を壊されないように、大盾を動かし兵器を守る。
メイプル本人に攻撃が直撃する方が遥かに良いのである。
「よしっ、どんどんいくよっ!」
メイプルは玉座から立ち上がって座っている間自分にかかっているスキル封印を解除する。
「【滲み出る混沌】!【毒竜】!」
ダメージカットと回復の恩恵を受ける代わりに下がっていた攻撃能力を元に戻す。毒塊と化け物の口がボスに襲いかかり、HPゲージを減少させる。
「うん、結構効いた!って、うわわわっ!?」
メイプルが大質量の攻撃をすれば当然それも同じように返ってくる。
体に染み付いていないことというのはとっさに出ないもので、【ヘビーボディ】を使う前に黒い塊によって上空へ吹き飛ばされる。
ずっとシロップの上にいたため【星の力】のバフなどかかっていない。
「っ……!」
「よっ、と!危なっかしいんだから」
「サリー!」
【身捧ぐ慈愛】の光が離れていったのを見て取ったサリーは【超加速】も使っていち早くメイプルの元まで行くと、落下するメイプルをきっちりと受け止め、近くの足場に下ろす。
「ありがとう。助かったよー」
「とりあえずシロップの上に戻らないとね。ちょっとこっちで引きつけるから、兵器は使わずに戻っておいて」
「分かった!」
「よし、朧【影分身】!」
引きつけるという言葉通り、朧の力も借りて攻撃をより激しくする。
サリーの姿が五つに分かれ、それぞれがボスに向かっていく。
振り抜かれる腕や、飛んでくるようになった黒いレーザー、背後からの突然の攻撃もきっちりと回避していく。
そうしてサリーが再びダメージを稼ぎ、メイプルから注意がそれたところで、メイプルは【星の力】で浮き上がってシロップの元へと戻っていった。
「【ヘビーボディ】と【ピアースガード】と、【結晶化】と……うー、後でサリーにスキルを上手く使うコツ聞かないと……まず今は【全武装展開】【攻撃開始】っ!」
まだまだ細かいスキルには慣れていないメイプルは、自分にはこれが分かりやすいとばかりにボスに大技を叩きつけるのだった。




