防御特化と塔八階3。
「まずは数を減らそう」
「おっけー!試してみるね」
二人は透明化を破る木の実を齧り、メイプルは近くにいたカメレオン達に向けて大量の銃弾をばらまく。
しかし、それを察知したようにすっと木の裏側に隠れて避けられてしまう。
「むぅ、駄目かあ」
「きっちり避けられちゃうか。これは範囲攻撃とかじゃないと駄目かな」
攻撃が止むとスルスルとまた何匹かが現れ、遠くから攻撃してくる。
「うわっ、今度は毒吐いてきたよっ」
「メイプルが守ってくれてる内は効かないからいいとしても……地面に残るタイプは厄介だなあ」
「一体ずつさっきみたいに倒すしかない?」
「大変だけどね。本物を探す方が時間かかりそうだし仕方ない」
「そうだね……範囲攻撃……あっ!」
「どうかした?」
「【パラライズシャウト】とかどうかな?」
メイプルのスキルの一つであるそれは広範囲に麻痺を与える強力なスキルである。
「耐性があるかも分からないし……うん、やってみる価値はあると思う!」
「じゃあ、少しでも多くいる方に……サリー、掴まって!」
メイプルはサリーをぎゅっと抱きしめると先程と同じように爆炎を残して空へと吹き飛ぶ。
そうして、三体のカメレオンがいる場所まで来るとスキルを発動する。
「【パラライズシャウト】!」
電気が弾けるようなエフェクトが発生し、三体のうち二体がぽとりと地面に落ちる。
二人はそれを見逃さずきっちりと魔法と銃弾でとどめを刺した。
するとそれらはいつものように光になって消えるのではなく、姿が揺らいでふっと薄れていった。
「この感じなら本体がいるタイプだろうね」
「うーん、絶対効くって訳じゃないみたい」
「十分だよ。これならかなり楽になるかな」
「えへへ、役立ってよかった!」
「ふふ、助かってるよ」
カメレオンを二体倒したものの、特に森の様子に変わりはない。サリーの予想した通り本体を倒すしかないようだった。
「よし!次だねっ!うわっ!?」
「メイプルぅっ!?」
メイプルが意気込んだ所で正面から透明な何かが叩きつけられてメイプルが吹き飛ぶ。
糸で繋がっているサリーもそのまま後方へと跳ね飛んでいく。どちらも木の実を齧っているため、本来見えていた攻撃が見えなくなっていたのである。
「うぅ……もうっ!びっくりするから嫌い……」
「は、早く八階抜けたいね……」
見えない攻撃というのはどうやっても慣れないものである。
ただ、やることは単純明快で、目に入ったカメレオンを片っ端から倒していけばいいだけだ。
「イズから貰った麻痺アイテムも使えそうだし、私がばら撒くよ。メイプルは飛ぶのに集中して」
【パラライズシャウト】は通常メイプルのMPでは発動できない。MPを肩代わりするスキルスロットの効果を一回分消費しているのである。
それはそのまま【毒竜】を撃つ回数に影響してしまう。
「今回で塔上り切っちゃいたいしね!節約節約」
「うん、でも……場合によっては十階の前にまた準備がいるかな」
「あ、そっか。十階はすごい強いんだっけ」
「負けたくないしね」
「じゃあ、ぱぱっと八階は抜けちゃおう!」
メイプルが加速し、木を避けるなど細かな調整はサリーが担当する。サリーは定期的にカメレオンの位置を把握する木の実を齧りメイプルを誘導する。機動力が高いため、一度動き出してしまえば攻撃は二人になかなか当たらない。
ぐんぐんとカメレオンは数を減らしていき、木の実が示すアイコンも残り十となった。
「ぜ、全然本物がいないよっ」
「本当どこだろ……っ、メイプル!右右!」
「えっ、どこどこ!?」
10秒の間カメレオン位置が分かる効果を得ているサリーには何もない場所にアイコンが浮かんでいるのが見えた。
サリーはインベントリから透明化破りの木の実を二つ取り出すと、一つをメイプルの口に突っ込む。
するとそこには、ただ一匹透明化していない状態のカメレオンがいた。
「絶対あいつだ!」
「でも、っとと、逃げちゃうよっ!」
「任せて、追いつく!」
唐突に停止することも出来ず、メイプルは木に衝突して無理矢理に着地する。
サリーはするっと糸を外すと、そのままカメレオンに向かっていく。
「【超加速】!逃がさないっ、よっ!【跳躍】!」
舌を使って木の枝を渡ろうとするカメレオンに飛びつくようにしてざっくりとダガーを突き刺すと、一つ鳴き声をあげてそのまま動かなくなり、パリンと音を立てて消えて行った。
「さ、サリーー!大丈夫ー?」
メイプルががさがさと茂みを揺らして近づいてくるのと同時に、木々がざわざわと揺れて、まるで意思を持っているかのように移動し、森に一本の道ができた。
その先には光の柱が立っている。その真下に魔法陣があることは間違いないだろう。
「無事、撃破したよ」
「さっすがー!びっくりはしたけど……結構楽だったね」
「だね。メイプルの防御があったし、道中もなかったしね」
「じゃあ、早速次行こうよ!」
「うん、そうしよう」
二人はそのまま魔法陣へと向かい、揃って足を踏み出し転移する。
次のボス、そして道中はどんな風だろうと思っていた二人を待っていたのは満天の星空だった。
ただ一つまずかったのは、二人が上空におり、現在進行形で落下していることだった。
「え……?」
「は……?」
二人は顔を見合わせる。
「「ええっ!?」」




