防御特化と塔七階。
「ここって……」
「またすごいとこに出たね……」
七階にやってきた二人を待ち受けていたのは視界を白く染める吹雪と膝下まで積もった雪、そして一歩先の断崖絶壁である。
塔の中とは思えないその景色に二人は息を飲む。
吹き付ける吹雪のせいか装備の一部には氷がつき白い光を放ちはじめる。
「どうするサリー?とりあえずモンスターはいなそうだけど」
「崖の上って感じだし……下へ向かう……のかな?」
どうにも吹雪で周りが確認出来ないため、二人はとりあえず足元に気をつけながら周りを探索していく。その結果、崖方向に降りることができそうな足場が続いているだけで、その他の方向には行けないことがわかった。
「崖のすぐそばを渡っていくしかないね。ただ……」
「うぅ、すっごい風だよ!」
吹雪で視界も悪く、足元も雪に覆われている。強風まで合わされば小さな足場を移っていくのは難しいと言えた。そもそもメイプルにとっては普通の環境でも厳しいくらいなのである。
「とはいえ、下へ行くしかないけども。どうする?」
「シロップ呼んで乗せてもらえば楽に降りられるんじゃないかな?」
メイプルがそうしてシロップを呼び出そうとするものの、どうしたことか反応はない。
「あれ?んー、だめだあ。どうしたんだろ?」
メイプルの反応を見てサリーがステータスを確認する。
すると、そこには装備の一部スキル、能力を封印していることが表示されていた。
「【破壊不可】とステータスの上昇は消えてないけど【蜃気楼】は駄目みたい。メイプルのもそんな感じじゃない?」
「うぅ……大変……でも、七階まで来たって感じだね!」
「お、いいね。やる気十分」
制限も厳しくなっているものの、メイプルもそうそうへこたれないようになってきたのである。手痛いダメージさえ受けなければそうそう弱気になることもない。
「さてと、素直に降りる?」
サリーには何か思うことがあるようで、メイプルの方を見て笑みを浮かべる。
「えへへ、ショートカットできそうじゃない?」
「ん、そうだね。そう言ってくれると思った」
二人は足場の続く崖の淵に立って崖下を見る。
目的地が見えずとも、メイプルならば飛び降りようと思えば飛び降りることができる。
つまり、ショートカットとはメイプルの防御力に物を言わせた自由落下だった。
「【身捧ぐ慈愛】が封印されてないなら私もついていけるし、正規ルートの方がメイプルには辛いでしょ」
「じゃあ準備準備!きっちり体は固定してね?飛んでいっちゃったら大変だし……」
「おっけー、念のためアイテムは構えておくよ」
片手は【糸使い】のために残しておき、もう片手にアイテムを持って、メイプルと背中合わせになってロープで体を固定する。
「ゲームの中とはいえ……崖に身を投げるって発想が出てくるようになっちゃったなあ。もう、メイプルのせいだからね?」
「あはは……晴れてたら今度はもうちょっと普通に降りようかな……」
「じゃあ、行く?」
「おっけー!……いっせーのーでっ!」
二人は一つ深呼吸をすると、大きく手を振って反動をつけ空中へと飛び出す。
メイプル達は吹雪を切り裂いて、足から真っ直ぐに遥か下の見えない地面に向けて落下していく。
「うぅぅ……すっごい風の音!」
「そうっ、だね!」
そうして落ちていくにつれて吹雪は弱くなっていき、雪煙の中に薄っすらと地面の景色が見えてくる。
そこに見えたのは、見るからに防御を貫通しそうな、空に伸びる鋭い氷が敷き詰められた大地だった。
「うぇっ!?だ、だだだめだよそれはっ!」
「飛び降り読みの剣山……!?」
サリーはそれを見て即座に手に持ったアイテムを使用する。五層の雨が降るエリアで手に入れたアイテムから、ポンッと大きな水の塊が二人の真下に飛び出してふよふよと浮かぶ。
「【ウォーターウォール】【氷結領域】!」
スキルとアイテムにより生み出された大量の水が、サリーのスキルにより即座に凍結する。
それでも浮かぶ性質は残っており、メイプル達は派手な音を立てて氷塊に激突し、砕き割りつつ勢いを落とした。
「完全に止まりはしないけど……っ」
サリーは再度水球を生み出し凍結させると、そこに糸を繋ぎ、崖の方へ無理矢理方向を変える。
崖の方にも鋭い氷はあるものの、真下の地面よりはマシである。
「メイプルっ、盾!」
「えっ、あっ、うん!」
メイプルが盾を構えながら崖に激突する。盾で受け止めきれなかった氷がメイプルを掠めてダメージエフェクトを散らす。
「うぇぇ……」
「【ヒール】っと、とりあえず足場に降りようか」
メイプルの傷を直してサリーと二人氷の足場に座り込む。メイプルは氷が掠めていった所をさすりながら氷の棘を見て顔を青くする。
「や、やっぱりズルはだめだね……」
「そうだね……見えない場所に飛び降りるのはやめとこう」
とはいえ二人は序盤中盤をすっ飛ばして一気に崖下近くまでやってくることができたのである。
「ふー……心臓がきゅってなったよー」
「本当の紐なしバンジーにしなくてよかった……」
二人は少し落ち着くまで雑談を交わしてさらに下へと壁を伝って慎重に向かうのだった。




