防御特化と塔六階3。
一つ目のモンスターハウスを突破してからしばらくして、サリーは随分と疲れた様子でぐったりと毛玉の上に寝そべっていた。
「もう広い部屋は入りたくないなあ……」
「そうだね……モンスターいっぱい出てくるし……」
先へ進むために大きな部屋に入る度、通路が封鎖されモンスターが溢れ出てくるのである。
物理攻撃でまっすぐ攻めてくるモンスターばかりなため、二人が負けるようなことにはならないものの、敵の防御力の高さと二人の手数の不足により時間がかかってしまう。
「でも、サリーのお陰で全く攻撃されずに済んでるし!助かってるよ!」
「ふふ、なら頑張ってよかったかな」
サリーはもうひと頑張りと、羊毛に埋もれさせていた顔を上げる。
「この感じだとボスも面倒かもね……」
「うっ……弱いボスだといいなあ」
ともあれ、二人を倒せる程のモンスターが道中にいないこともまた確かであり、時間はかかったもののボス部屋の前へと辿り着くことができた。
「どうするサリー、このままいく?」
毛玉の中に埋もれていたメイプルがぽんっと顔を出してサリーに聞く。
「メイプルの攻撃が効かない可能性も高いし、この階の雑魚モンスターが出たら困るしそのままで」
二人はシロップと朧も作戦に組み込み、最後にアイテムなどを確認し、ボス部屋へと突入することにした。
「おっけー!じゃあ、入っちゃおう!」
ボス部屋の扉を押し上けて中に入ると、ドーム状になった空洞の奥に、大きな杖を持ち魔術師風の帽子とコートを身につけた170センチ程の男が一人立っている。
男はメイプル達が部屋に入るやいなや、杖で地面をコンッと突き、地中から結晶に覆われたモンスターを次々に召喚する。
「うわっ!出たよサリー!」
「メイプル、予定通り様子見るよ!」
「うんっ、シロップ【巨大化】!【念力】!」
メイプルはシロップを空中に浮き上がらせていき、サリーは毛玉に入ったままシロップの腹部と毛玉を【糸使い】で繫ぎ止める。
メイプル特有の空中退避によって、ドームの天井付近には人が二人入った巨大な毛玉をひっつけた亀が飛び回ることとなった。
二人はどうなっているのかと下を確認する。
「うわ……思ったより多いなあ」
「よっ、と!わわっ、凄いことになってる……」
地面には結晶の鎧を身にまとった兵士で溢れかえっていた。二人が上空から様子見をしているうちにも、ボスである魔術師は定期的に兵士を増やしていく。
「ボス自体の防御力とかHPは低そうだし……」
「私の出番だね!っと、毒がひっつかないようにして……【毒竜】!」
メイプルが短刀を持った腕を突き出して放った毒の奔流に反応し、ボスは目の前に障壁を展開する。
毒の塊はその障壁を突き破ったものの、一瞬防がれたその隙にボスはうまく範囲から逃れてしまう。
しばらくそうして試してみたが、結果は変わらない。
「うー、どうするサリー?当たらないや」
「でも、一つ分かったよ。あいつそんなに大きく動き回らないし遅い。狙おうと思えばいけそうかな」
「おー!いいね!」
「とりあえず召喚を止めないと……後は地面と空を行ったり来たりするしかないかなあ。上手く大ダメージを与えられるといいんだけど……」
考えるサリーを見つつ、メイプルも思考を巡らせる。
そして、思いついたことがあったのか何か企むような顔をしてサリーに話しかける。
「……名案でも思いついた?」
「私なりにねっ!」
メイプルは意味もなくこそこそとサリーに思いついたこととやらを伝える。
サリーは一瞬驚いたように目を見開いて、その後試してみる価値はあると頷いた。
「分かった。撤退の準備は任せて」
「さっすがサリー!頼りになるー!」
「それに、どれくらい実用的か試してみたいし」
「よしっ、じゃあやろう!」
メイプルがシロップをすいっと動かし、ボスの真上までやってくると、サリーはシロップと繋がっている糸を外す。
真っ直ぐ落ちていく毛玉から距離を取ろうとするボスから離れまいと、サリーは地面に糸を伸ばして方向をずらす。そうして上手く近くに着地した所でメイプルはスキルを起動する。
「【凍てつく大地】!」
パキンと音を立てて周囲の地面が凍結し、近くにいる兵士もろともボスの動きを止める。
サリーはもう一度糸を伸ばすと動きの止まったボスに向けて毛玉を射出する。
「サリー!お願い!」
「よっ、と!」
メイプルとサリーはぐっと羊毛を掻き分けると手を伸ばして身動きの取れないボスの上半身を毛玉に突っ込んだ。
「【結晶化】!」
上半身が突き刺さったまま、羊毛の表面が硬化し、体を半分毛玉の中に閉じ込める。
外からはカンカンと攻撃の当たる音がするがメイプル達には届かない。
「えへへ、うまくいったよ!いらっしゃーい!」
「どーも。いいことはなさそうだけど……一分間か」
羊毛の中でサリーとメイプルが出迎える。二人は急いでインベントリを操作するとアイテムを取り出していく。
それはイズが作った強力な爆弾の類だった。
羊毛の中を埋め尽くすように、攻撃範囲を投げ捨てて殺傷力だけを高めた多様なアイテムがセットされていく。
「あ、サリー、うるさいと思うから耳栓どうぞ」
「ありがとう。もうすぐ時間だね」
「うん、総攻撃!」
【身捧ぐ慈愛】で守られるのはサリーのみ。メイプルの点火の声と共にボスエリアを揺らすかのような爆音が響き渡り火柱と赤いダメージエフェクトが弾け飛ぶ。
毛玉からは炎とレーザー、弾丸に氷、風の刃に石の礫とあらゆるものが飛び出した。
当然羊毛は燃えて消えてしまったものの、それと同じように、ボスも消し炭になって消えていた。
それと同時に召喚された兵士達も消えていく。
「防御力とかは低そうだったけど……」
「イズさんのアイテム強かったねー」
「いや、まあ……あれだけ一気に受けたら……ね?ボスが哀れに思えるような」
「世界は弱肉強食なんだよ!今回は私達の勝ちだね」
ボス達にとって幸いなのは【発毛】が一日一度しか使えないため、次のボスはこの見た目だけ自爆攻撃を受けることはないということである。
「次行く?」
「もっちろん!」
二人は次もサクサク倒してしまおうと話しながら七階へと向かうのだった。




