防御特化と塔六階2。
しばらくサリーのダガーと硬いものがぶつかるような音が響いていたが、それも次第に少なくなっていき、やがて初めて見たモンスターは全て倒しきった。
「ふー、後は消化試合だね」
「あ、終わった?」
「あとは貫通攻撃のないモンスターを倒すだけ。面倒だけど……まだ後ろの通路も塞がってるし。よっ!と……」
サリーは羊毛から抜け出ると、やっと動きやすくなったと言わんばかりにダガーを振るう。
「頑張れサリー!み、見えないけど……」
メイプルは毛玉の中で何やらごそごそと向きを変えていた。【身捧ぐ慈愛】の防御フィールドさえ展開していれば十分仕事はしているのだ。
メイプルが毛玉から顔を出すまでにもパリンパリンとモンスターが倒れていく時の音が響き渡る。
そうしてサリーの言った通り、消化試合といった様子で残りのモンスターも倒しきることができた。
「ナイスサリー!」
「ん、早速活躍できて良かったかな。ついでに素材もかなり手に入ったし……塞いでいた壁も消えたね」
「どうするサリー?戻る?」
「ここまできたし、一番奥まで見ていこう。何かあるかもしれないしね」
二人は相談して、メイプルの羊毛は一旦そのままにして進むことにした。
もう一部屋モンスターハウスに踏み入ることになった場合のことを考えたのである。
「……転がしていくかあ」
「いつでもいいよ!」
サリーはメイプルの羊毛にぐっと手を突っ込むとコロコロとゆっくり転がして奥の通路へと入っていく。
結果として通路はさらに分岐することはなく、奥には小さな宝箱が一つ台座に乗せられていただけだった。
「どう思うメイプル?」
「な、何か怪しいような……でも開けないで帰るのもやだよね」
「そうだね。ま、ここは覚悟を決めて!」
二人で手を伸ばし宝箱の蓋を勢いよく開ける。
特にトラップなどもなく、二人はほっと息を吐いて中を覗き込む。そこにはスキルを習得できる巻物が二つ入っていた。
「どっちも同じみたいだね。はい、片方はメイプルの分」
「やった!どんなスキルかなー」
【結晶化】
一分間AGIが半減し、あらゆるバッドステータスをうけなくなる。
三分後再使用可能。
取得条件VIT100以上。
「私はクロムさんにでもあげるかー、これは一生使えないね」
サリーのVITはゼロのままである。これからもあげる予定は全くないため、百ははるか彼方だ。
「じゃあ私は早速取得!」
メイプルは早速巻物を広げると、【結晶化】のスキルを習得する。
「この辺りはモンスターもいないし、戦闘の前に一回試しておいたら?」
「そうする!じゃあ、【結晶化】!」
すると、メイプルを光が包み込み、まるでコーティングされるように先程のモンスターと同じ鉱石が覆っていく。
「皮膚が変わっちゃったみたい?でもちゃんと動けるし変な感じ……」
「それも不思議だけど……こっちもコーティングされるんだね」
そう言ってサリーは羊毛を叩く。コンコンと音が返ってくるそれは、手触りだけならもはや岩の塊である。
「顔を引っ込めたら、中に閉じ込められるのかな?」
「うぇっ!?ち、ちょっと怖いかも……っ?う、腕が引っかかって中に戻れない……?」
「へっ……?」
メイプルはぐにぐにと体を動かすものの、突き出した上半身の部分から表面は毛玉になっており、叩いてもコンコンと音がするばかりである。
「まあメインの効果はバッドステータス無効だし、普段はこんなことにもならないでしょ」
鉱石の塊のようになった毛玉から上半身だけが飛び出しているメイプルを見て、サリーはやれやれと首を振る。
「うぅ……どんどん考えることが増えていく……」
「そういうところも面白いところだよー」
メイプルは使いこなせるかなあとそんなことをこぼしながら【結晶化】が切れるまで待つ。この塔の中で手に入れたスキルやアイテムはいくつもあり、またいつかそれらを試してみるタイミングが必要だと思うのだった。
「この塔をクリアしたらメダルで交換できるスキルも手に入るしね。前と同じラインナップかは分からないけど」
「あー!そっかー、むー……ちゃんと考えてスキル取った方がいいのかなあ」
「好きなのを選んだらいいんじゃない?こう、直感でさ。よっぽど変なスキル選ばない限り全く使えないってこともないよきっと」
それに今深く考えていても仕方ないと言うと、メイプルもそれもそうかとうなずく。
そうこうしているうちに【結晶化】の効果も切れて、探索再開となった。
「今度は槍を持った兵士がいる方に行くしかないね」
「槍かあ……貫通攻撃してきそうでやだなあ……」
「じゃあ、このまま行こう。ほら、あの盾に挟まるので」
「え、いいの?……白い腕出るよ?」
「相対的にマシ……」
五階で酷い目にあったばかりのサリーからすれば、こちらに向かってこない上、驚かしてもこないただの手はまだマシと言えるのだ。
「分かった!じゃあ、装備をちゃちゃっと変えて……しゅっぱーつ!」
サリーはふわふわと浮かぶ毛玉の上に乗って前を警戒する。炎が吹き出してこないならと、毛玉はダンジョンを飛び回るのだった。




