防御特化と塔六階。
とりあえず目の前のモンスターを倒した二人は地面に転がった素材を拾いながら溜息を吐く。
「うう……防御力が……」
「はー、めちゃくちゃ硬かった……」
洞窟の雑魚モンスターとして出てきた宝石の体をもつゴーレムはメイプルの攻撃を一切受け付けず、サリーの防御貫通スキルで倒すしかなかったのである。
ただ、メイプルの【身捧ぐ慈愛】による防御に対する有効打も持っていなかった。
「メイプルの防御も破られなかったし、負けはしないんだけどねー。基本はスルーかなあ」
戦っていても時間がかかるばかりである。素材が貴重だとしても回収の効率が悪すぎるため、倒す理由がほとんどなかった。
「ボスもあんな感じだったらやだなあ」
「その時は私が頑張るよ。五階の分も頑張るって約束したところだしね」
「うん、防御は任せてね!」
二人が進んでいくと、分岐する道が見えてくる。
そして、それを待っていたかのように煌めく鉱石の体を持った兵士のような人型モンスターも現れた。
盾と槍を持ったそれは三体で横並びになって道を塞ぎながら進んでくる。
「避けることもできそうだけど……どうする?」
「避けよう避けよう!あれ絶対防御力高いよ!」
メイプルに押されるようにして、横道へと駆け出していく。
「メイプルの足で逃げ切れるはずないし……追ってこないタイプみたいだね」
「よかったー。それなら助かるよー」
「行けるところまで進んでみようか。もちろん戦闘は避けながらね」
「おっけー!あんまりモンスター出てきませんように……」
しかし、そんなメイプルの願いは叶わず、分岐点に来る度に必ず片側からはモンスターが現れる。
「モンスターの方が正解なのかな?んー、でも決め手がないか」
「どうしよう?もう一回戦ってそっちの方行ってみる?」
「分岐はきっちりマップに残ってるから大丈夫。どうせどっち行っても迷うことになるんだし。どこかに突き当たるまで進んでから再探索ってことで」
「うん、分かった!」
まずは戦闘を極力避けるルートを選んだ二人は、ぐんぐんと奥へ進んでいき、最後に大きな部屋に辿り着いた。
「ボス部屋……じゃなさそう?」
「まだ奥に通路見えるし違うと思う。けど、何かは出てくると思うから警戒してて」
「うん。サリーは後ろにいてね」
そうしてメイプルが部屋に一歩踏み入ったその瞬間、少し後ろでパキンと音がしてモンスターと同じ鉱石の壁が退路を塞ぐ。
それと同時に大部屋の地面から壁と同じように鉱石が伸び、おびただしい数のモンスターを生み出していく。
「うわっ、モンスターハウス!」
「えっ?えっ!?」
「とにかくよくない!一体ずつ相手しないと……!」
見たことのない見た目のモンスターもおり、貫通攻撃を警戒したサリーは戸惑うメイプルの手を引いて僅かに残った通路の部分へ引き返す。
「えっと、攻撃が届かない方がいいよねっ!」
「できるならそうしたいっ、けど」
それならというようにメイプルは体からボンッと羊毛を伸ばす。それは細めの通路の端まで届いて、もう一つの壁となった。
メイプルはポンと顔を出して、羊毛の壁と鉱石の壁の間にいるサリーに話しかける。
「後ろすっごい突っつかれてるけど、こっちは大丈夫!」
「ふー……おっけー。なら楽にできそうかな。中入るよメイプル。時間かかるけど一体ずつやっていく」
「どうぞどうぞ、いらっしゃいませっ!」
「はいはい、おじゃまします」
サリーはごそごそと羊毛の中に入っていき、逆側から顔を出し隙をついてまだ見たことのなかったモンスターから倒していくのだった。
貫通攻撃の可能性を排除してしまえば恐れるものなど何もないのである。
「対人じゃないと燃やされないし、強いなあ」
「もっふもふの鉄壁ガードだよっ!」
「矛盾……してないね」
そうして、雑談をしながら敵を倒していくというメイプルがいる時特有の戦闘が進むのだった。




