防御特化と塔五階4。
その後も六人は攻略を続け、いとも簡単にボスエリアの手前に辿り着いた。
「この辺りにはモンスターは出ないらしいよ」
「なら準備だな。俺とカスミは一応警戒しながら待つか」
「ああ、それがいいだろう」
クロムとカスミが警戒している後ろで、カナデとイズがマイとユイに次々にバフをかけていく。
「これとこれ、あとこれも飲んでね」
「んくっ……ごくっ……」
「ふはぁ……よしっ!」
様々な丸薬やポーションを飲み込んで、さらにカナデからもバフを受ける姿は最早ボス前恒例のものだった。
準備が終わった二人の体からは様々な色のオーラが立ち昇っている。
「「いつでも行けます!」」
「よし、なら行こう。先頭は俺が行く」
二人が煌々と輝く二つの大槌を掲げたのを合図に、六人はボスエリアへと突入する。
そこは先ほど抜けてきたエリアと同じく濃い霧に包まれた、荒地だった。これといった遮蔽物もなくボスとは正面からやり合うこととなる。
そんな六人を感知し、霧の向こうからボスである首なしの騎士がゆっくりと現れる。
首の部分からは青い炎が溢れており、古びた鎧を装備し大きな剣を携えてゾンビの馬に跨っている。
馬は一つ大きく嘶くと、六人に向かってきた。
「いくよお姉ちゃん!」
「うんっ……!」
「隙は、作ってやるっ!おらぁっ!」
クロムがその大盾でボスの剣をガードして、弾いて隙を作る。
そして近づいてくるボスに、その頭部の炎にも負けない程の輝きを纏った四つの大槌が容赦なく叩きつけられた。
「「【ダブルストライク】!」」
鎧を叩く轟音が響き、HPバーが凄まじい勢いで減少する。ボスは剣をもう一度振りかぶるが、クロムがきっちりと弾き返す。
「ここで新作アイテムを……!」
イズはパッと飛び出すと馬の近くの地面にアイテムを設置する。それは一瞬の後に音を立てて弾けると、地面に稲妻を走らせた。
ほんの数秒の間、ボスの動きを止めるこのアイテムは【楓の木】にとってはとてつもない効果を生むのである。
「ユイ!もう一回!」
「うん!」
クロムが間に合わなかった際にケアする役割のカスミが仕事をするようなことにはならず、ボスは二人にボロボロになるまで叩かれて爆散することとなったのだった。
「ふー……メイプルとはまた違った意味で別のゲームみたいだな」
特に何もすることのなかったカスミが活躍できたと喜んでいる二人を見てそんなことを言う。
「分かる」
そう思っているのは敵の攻撃を二回防いだだけで済んだクロムもだった。
「まあ、きっちり守らないと駄目だからな。余裕で勝てたなら俺達の仕事は上手くいったんだろ」
一対多で倒されないクロムとカスミは道中での活躍の方が多い。逆にマイとユイはボス戦特化という訳である。
「減ったアイテムを作り直すから少し待っていてね」
イズは工房を展開し、貴重なバフアイテムやMPポーション、爆弾などを作り直す。
ゴールドからアイテムを生産することができる上、どこでも工房を展開できるため、アイテム不足で帰ることもそうそうない。
戦闘前、戦闘中、戦闘後。どこをとっても他のギルドには見られない特徴があった。
こうして、次の階のボスを蹂躙すべく六人はさらに進軍するのである。
「メイプルも順調に進んでるといいが」
「何とでもするだろう。そもそもメイプルが完全に足止めされる相手とは私もやりたくない」
「そうだな……」
六人が五階のボスをあっさりと倒してから少し経って、同じようにボスと戦うメイプルの姿があった。
【暴虐】を発動し化物の姿となったメイプルはゾンビの馬に掴みかかり引き裂こうとする。
ボスエリアは青白い炎と、湧き出るゾンビで溢れ、馬上の騎士は二本の剣を振り回している。
まさに地獄といった様子のその場所には、サリーの姿は見えなかった。
ゾンビを蹴り飛ばし、体当たりで押し潰して道を切り開いていく。
メイプルのHPは全く削れておらず、じりじりとボスは死に近づいていく。
「よしっ!これで、終わりっ!」
行動パターンの変化などなかったかのように正面から蹂躙して、メイプルもまた勝利を収めたのだった。
「えっと……六階に行くには……あっちか!」
メイプルはのしのしと歩いていき、転移の魔法陣に乗る。やがて五階の風景が見えなくなり、今度はゴツゴツとした岩肌に囲まれた洞窟といった風な場所に出る。
「よし……もう大丈夫そうだね。いいよサリー!」
メイプルがそう言って大きな口をがぱっと開くと、べちゃりと音を立ててサリーが転がり落ちた。
「うぇ……酔ったかも……」
サリーは目を回しながら地面に寝転がる。
そう、サリーは五階攻略の間、めちゃくちゃに走り回るメイプルの口の中にいたのである。
メイプルは人の姿に戻ると、地面に寝転がるサリーに近づいてしゃがみこみ得意げな顔をする。
「でも、何とか何も見ないで済んだでしょ?」
「まーね。本当それは助かった」
サリーはメイプルの得意げな表情を見て、少し笑うと体を起こす。
メイプルの守れる範囲にいることすらできないのなら、もっと近く、体内にしまい込めばいいという訳である。
羊毛でやっていたことの化物バージョンということだった。
「見た目はかなりアレだけど……食べられるってこんな感じなんだね」
「あ、そうそう、私も一回食べられたんだよ!あれはびっくりしたなあ……」
「とにかく、これで私もまた戦える……はず。六階は、だ、大丈夫だよね?」
サリーが不安そうにしながらも目の前に伸びる洞窟を眺める。
するとそこからはダイヤモンドのような輝く体を持ったゴーレムが姿を現した。
「良かったぁ……ただのモンスターだぁ……」
「ふふっ、五階の分も頑張ってよね!」
「任せて!メイプルが休んでても大丈夫なくらい頑張るからっ!」
こうして、メイプルと元気を取り戻したサリーは六階の攻略へと移るのだった。




