防御特化と塔五階3。
四組に分かれて、それぞれが濃霧の中を進んでいく。
そうして、始めに霧を抜けたのはカスミとカナデだった。
「ようやく抜けたか」
「結局魔法使わずに済んだね」
カナデは一人でガンガンモンスターを倒すカスミの回復と支援をしているだけで十分だったのである。
広範囲攻撃をするまでもなく、モンスターは斬り伏せられていったのだ。
「攻撃能力はかなり強化されたからな。ステータス減少は厄介だが……手数も確保できるし戦法にも組み込めそうだ」
【楓の木】において最も重要なのは攻撃能力の上昇である。
メイプルの鉄壁の守りを正面突破して、ギルドメンバーの誰かを倒したプレイヤーもモンスターもいないのだから当然のことだった。
「そうでなくても、今の戦闘を見てると大丈夫そうだけど……で、どうしよう?まだ誰もやられてはないみたいだね」
「待ってみようか。皆ここに出てくるかもしれない」
「そうだね。んー、モンスターも湧いてこないし」
二人がそうしてしばらく待っていると霧の中から大きな爆発音が響き始める。
そして、霧の中から爆弾を小脇に抱え、HP回復ポーションを飲みながら息を切らせてイズが転がり出てきた。
「はぁ……はぁ……抜けたみたいね」
「無事みたいだねー凄い!」
「素材もお金もゴッソリ持っていかれたわ……ああ、新アイテムの製作が遠のいていく……」
イズは地面にペタッと座ったまま後ろに広がる濃霧のエリアを恨めしそうに睨む。
工房を展開して作った爆弾などの攻撃アイテムをばら撒きながら走り、足りない素材はゴールドと引き換えにして、アイテムの物量でモンスターの群れを文字通り吹き飛ばしてきたのである。
「まあ、無事なら何よりだ。まあ、素材は私も探してくるとするよ。イズのアイテムには助かっているしな」
「そうしてくれると嬉しいわ……」
「ん、カスミ。また誰か来たみたいだよ」
カナデは風を切る大きな音を耳にして、霧の向こうを注視する。
すると、赤い塊が四つ濃霧を引き裂くようにして飛び出してきた。
「マイちゃん、ユイちゃん!」
「あっ、やった!抜けたよお姉ちゃん!わっ!」
「ちょっとユイ、わぅっ!」
背中合わせで両手を広げてぐるぐると回転しながら飛び出してきた二人は、三人に気を取られて転び地面に顔を打ちつける。
二人は向かってくるモンスターが勝手に倒されていくように、炎属性を付与した大槌を常に振り回しながらまるで台風のようにして進んできたのだった。
反応できず咄嗟に攻撃が出せないのなら、常に即死級の一撃を振り回して解決するという力技である。
「大丈夫?二人とも」
「うぅ、目が回りました……」
「イズさん……私もちょっと、無理したかも、です。」
ただ、マイとユイが生み出す死の暴風に向かってきたモンスターは一体残らず吹き飛ばされていき、ついに二人に至ることはなかったのである。
「残りはクロムか。まあクロムは大丈夫だろう」
「そうね。しぶとさは折り紙つきだもの」
マイとユイがやっと回復してきた頃。五人から随分遅れてクロムが濃霧を抜けてきた。
「はぁ……俺が最後か」
「ほら、やっぱりピンピンしてるわ」
「見事なまでに体力はフルだな」
「ん、まあ……ひたすら囲まれたが、何とかな。抜けられないから倒してたらレベルも上がったくらいだ」
そもそも、【楓の木】のメンバーは一対多を難なく乗り越え過ぎだとクロムは言う。
本来戦闘に向かないイズですら突破してきた辺り、殲滅能力はクロムの言う通りと言えた。
第四回イベントで、大規模ギルドと当たり前のように戦っていた所からもそれは推し測ることができるだろう。
「クロムも別の方向で十分異常だと思うぞ」
「うん、囲まれた上で突破するものじゃないからね」
パーティを分断するトラップも大きな障害となり得なかったようで、無事合流した六人はそのまま攻略を続けることにした。
「この先は即死させる魔法を使うモンスターが出るから、これを持っておいてね」
イズはそう言って、赤色の宝石のはめ込まれた指輪を一つずつ全員に渡す。
「【身代わりの指輪】よ。即死効果を三回肩代わりしてくれるわ」
「……こんなアイテムあったか?」
クロムが見覚えのないアイテムに首をかしげる。
「さっきのゾンビの落とした素材で作った新装備よ。ふふっ、素材は爆弾の料金としていただいたわ」
【新境地】によって普通では作ることができないアイテムを生み出せるイズは、多くの選択肢のなかより性能の良い装備やアイテムを用意できるのである。
「これがあれば随分楽になるだろうな」
「だね、耐性付与の魔導書も温存できるよ」
「じゃあ、行こうか。分断ならまだ何とかなるが、足元から罠で攻撃されると守り切れないからな。注意して進んでくれ」
まだ情報がないトラップの存在を警戒しつつ、同じようにカスミとカナデが前に出てモンスターの対処に当たる。
マイとユイはイズと共にクロムの後ろにいる状態である。
「カスミ、また立ち回り良くなってやがる。あれは霧の中でかなり斬ったな」
クロムは自分のところまでモンスターが来ないため、マイとユイをきっちり守りながらカスミの動きを眺めるばかりだ。
「もう少しでボス戦よ。準備は大丈夫?」
「大丈夫です!あ、あと、イズさんがくれた炎属性付与のアイテム役立ちました!」
「飛び出してきたところ見てたわよ。あの攻撃方法は……流石にちょっと驚いたわ」
両手を伸ばして大槌を振り回して回転しながら移動するのを見てちょっとと言うあたりに、イズのそう言ったものへの慣れがあった。
そして、こんな話をしている内にも五階の攻略は進んでいく。
結局道中のモンスター程度ではメイプルとサリーがいないとはいえ、【楓の木】の面々に大きな負担をかけることはできなかったのである。




