防御特化と塔五階。
サリーとバラバラになってしまったメイプルは、ログアウトに気づくと【暴虐】を解除せずに一旦塔から出て、サリーを待った。
そうしてしばらくすると、サリーがばつの悪そうな顔をして戻ってくるのだった。
「次は絶対落ちないようにしていこう?」
「うん……」
二人が五階で足踏みしている頃、残りの【楓の木】の面々もまた五階を攻略していた。
基本的に全員でマイとユイを守って、動きを止めたタイミングでバフを大量にかけた二人を解き放つ戦法で、すいすい進んできた。
ただ、五階にはそんな二人にも倒せないモンスターが出るのである。
「出た、物理無効だ!カスミ、カナデ!」
素早い動きで迫ってくる半透明のゴーストはただの攻撃を無効化する。
マイとユイはまだまだ戦闘にも慣れていないため、そもそも当てることすら厳しいため、攻撃役の交代で乗り切っていた。
「ああ、任せてくれ!【武者の腕】!」
カスミが四層で手に入れた妖刀のスキルを発動すると、カスミの両側に大きな刀を持つ、具足を纏った腕が現れる。
特に右側の紫の炎を纏ったそれはカスミの刀と連動して動き、炎の属性ダメージを与えていく。
全ステータスを一時的に二割減少させるものの、それでも十分な性能を持っており、カスミは次々にゴーストを斬り捨てる。
「いいなあ、それ。僕は適当に魔法で……」
二人が属性付きの攻撃を続ける中、クロムはマイとユイを体を張って守る。
メイプルとは違いダメージも受けるものの、二人にはダメージを与えさせない。
「回復力なら、負けてないからな!」
イズがアイテムで回復させるのもあって、クロムのHPは減っては全回復するのを繰り返していた。
「ん、そろそろだ。カスミ!地面から来るぞ!」
「ああ、分かっている。問題ない」
メイプルが引き摺り込まれたのと同じ裂け目が現れるが、拘束されていない六人はきっちりとそれを避ける。
クロムやカスミは地面から生える手を引き剥がせるだけの【STR】があり、イズとカナデは上手く避けている。マイとユイにとっては拘束などないに等しい。
避けることは容易だった。
「地下ルートは面倒だからな。俺も地上の方が守りやすいし……きっちり避けていくぞ」
「はい!えっと……途中の戦闘はお願いします」
「ボスは通常攻撃が効くらしいからな。二人はそのために構えててくれ」
「ボスは任せて下さいっ!」
「うん、頼もしいねー。上手く場を整えられる魔法も準備しておこうかな」
マイとユイはぐっと大槌を握り直し、カナデは溜め込んだ魔導書を思い返す。
その後も何度か地下へと引き摺り込もうとするモンスター達をやり過ごして、六人は順調に歩を進めていく。
「メイプルはどうしてるだろうな」
「五階は相性が悪そうよね」
「サリー次第じゃない?上手くやってるといいけど…」
六層でのサリーの様子を思い出しながらそんなことを話していると辺りの様子が変化し始める。
「ん。皆、霧が濃くなってきたぞ。次の区画だ」
カスミが言うように、辺りには真っ白な霧が立ち込め始め、すぐに数メートル先の様子すら分からない状態になる。
「体験すると思った以上に見えないなこれ……」
「気をつけて進んだ方がいいだろう。この区画の情報はまだ少なかった」
カスミを先頭にして、カナデ、イズ、クロムにマイとユイが続き静まり返った霧の中を進んでいく。
「ここまで静かだと結構不気味ねクロム……クロム?」
返事がないことを不思議に思いイズがふと振り返ると、そこには歩いていたはずの三人の姿がない。
「カナデ!カスミ!……えっ?」
視線を戻し前を向くとそこには二人の姿はなかった。
「やっぱり……まだトラップがあったのね」
はぐれてしまったものは仕方がないとマップを開くが五人の位置は分からない。
厄介なことになったと思いながら、イズは情報を得ようとまた歩き始めるのだった。
一部スキル描写の修正




