防御特化と塔三階6。
二人はしばらく話し合って、とりあえず安全な上空から、サリーの水魔法を撃つことに決めた。
メイプルの銃撃が効かなかったため、道中の雑魚モンスターと同じ方法を試してみることにしたのである。
さらに安全策として、メイプルは白の装備に変更し、HPを増加させて【身捧ぐ慈愛】に含まれているダメージ無効化スキル【イージス】の準備をする。
メイプルはポーションでHPを最大まで回復させるとサリーに準備が整ったことを伝えた。
「準備完了!いつでもいいよー?ふふ、【身捧ぐ慈愛】以外使うの久しぶりだなあ」
「じゃあメイプル大盾浮かせて?そうそう……あとは」
メイプルは少し高さを変えて二つの大盾を浮かせる。低い方に飛び乗ったサリーは落ちないように糸で足と大盾を繋げた。
「すいーっと、どう?届く?」
メイプルはそのまま大盾をすうっとスライドさせて高度を下げ、サリーの魔法がギリギリ巨人に当たる位置まで持っていく。
「向こうが動くのに合わせてくれれば大丈夫かな。何かあったら避難する」
サリーの乗っている盾とシロップの間にもう一枚浮かばせた盾はいわば中継地点である。
盾にはメイプルから離すことができる限界があるため、この距離を保ったまま、巨人に合わせてフロアをぐるぐると移動していく。
「うーん、やっぱり難しいなあ……サリー!どうー?」
「本当に固まるか分かんないけど、しっかり決められるように狙い定めてて!ダメージは入ってるんだけど……」
「もちろん!よっと、シロップも頑張ってね」
そう言ってメイプルは背中や腕から生えた黒い砲塔を下に向ける。
サリーは魔法に特化しているわけではなく、さらに一人というのもあって随分と時間がかかったものの、遂に溶岩でできたその巨体が一気に黒く固まった。
それを合図にメイプルが攻撃を開始する。
「【攻撃開始】!シロップ【精霊砲】!」
メイプルとシロップによって、砲弾と光線の雨が降り注ぐ。
それらは巨人に命中し、ゴリゴリとHPを削っていく。
「やった!銃も効いた!」
メイプルが嬉しそうに攻撃していると、巨人の体がまた赤く輝き始める。
「ああー、もう終わっちゃった。サリーお願……い?」
メイプルがまたサリーに固めてもらおうとしたその時。燃え盛る巨人がメイプルの方にゆっくりと向けた腕が一際大きい炎を上げた。
「メイプル、防御!」
「え、えっと!【イージス】!」
メイプルが生み出した光がぱっと広がり、二人とシロップをまとめて包み込む。
溶岩の塊とでも言うような赤が二人の視界を覆い尽くしたものの、光はその全てを無効化して二人を守りきった。
光がゆっくりと薄れていき二人の視界が元に戻るのに合わせて、二人は巨人を確認する。
「えっ!?サリー、何あれ!」
巨人がいた場所を見たメイプルの目には、青く輝く塊が地面から少し浮かんでいる光景が映っていた。
「炎……じゃない?氷?」
サリーの言葉を聞き届けたようにして、塊を中心に氷が広がっていく。
溶岩の床を塗りつぶし、壁を駆け上がって、天井に大きなつららを作る。
そして、木が伸びるように塊から氷が伸び、巨人が立ち上がった。
「形態変化!でもHPは減ったまま、それに……」
サリーはメイプルの方を見て笑みを浮かべる。
「氷なら私も戦えるよサリー!」
「向こうから弱体化してくれたね」
「ふふふー、じゃあ【攻撃開始】!」
メイプルが攻撃すると、それは炎の形態の時とは違いダメージを与えていく。
しかし、有利と言えども一方的に攻撃できる訳ではなかったのである。
「よーしこのまま……へっ?」
下を向いて攻撃していたメイプルは、自分の足元が急に陰になったことに気づいてふと上を見る。
そこには折れて落ちてきたのであろうつららが迫っていた。
「やっ……いっ、たい!うぅ……」
つららは派手な音を立ててメイプルの兵器を砕き壊すと、避けようとしたメイプルの背中に直撃し、赤いダメージエフェクトを散らせる。
「っ防御貫通!メイプル、シロップも戻して!どんどん降ってきてる!」
サリーは氷の柱を作り下へと滑り降りる。
メイプルはシロップを指輪に戻すと、そのまま地面に向かって落ちてくる。
「装備を変えて……よしっ!」
「装備変えるの速くなってきたね」
「練習したんだー!で、これで攻撃モード!」
メイプルは黒の装備に切り替えると、頭上を気にしながら戦闘態勢を取る。
サリーも使うことができるようになった【氷柱】により氷の柱を生み出した。
ちょうど二人が攻撃に移ろうとしたタイミングで、地面を白く輝く冷気が走り、大きな音を立てて氷の波が襲いかかる。
「メイプル来るよ!」
「【滲み出る混沌】【攻撃開始】!」
メイプルが放った化物が氷の波にぶつかり、氷を砕き割る。しかし、それでも氷の一部がメイプルに直撃し、メイプルの体勢を崩す。
だが、ダメージには繋がらない。
「ただの攻撃なら大丈夫っ!」
サリーはその隙に素早く【氷柱】を乗り継いで、巨体の肩に乗ると首から頭を斬りつける。
肩周りから防御のために飛び出る氷の棘、そして落ちてくるつららを狭い足場で器用に躱しながら、青いオーラを散らせて攻撃を続ける。
「よし。燃えてないなら簡単だね」
「あれ?」
メイプルはつららを避けるために、氷の波や巨人の拳は受けても気にせずに移動しながら攻撃していたが、いつのまにか体に霜が降りていることに気がついた。
メイプルはポンポンと払うものの払い落とせない。
「サリー気をつけて!何か……何か凍ってきた……のかな?」
飛び回るサリーに危機感なさげに注意するメイプルは、現状特に影響がないと判断して攻撃を続ける。
「……メイプルに効果のないものって多過ぎるから危ないか分からないなあ。私は今のところ大丈夫か」
HPが減るにつれ攻撃は激しくなり、威力も上がっているものの、それでも速さで攻めてくる敵でないため、サリーは思考を他に回していても余裕をもって回避できていた。
そうしてダメージを蓄積させていくと、巨人から一際強く冷気が放出される。
「メイプル、炎になる前に決めて!」
サリーは最後に激しい乱撃を加えると、宙を駆けて避難する。
「任せてっ、【毒竜】【滲み出る混沌】【暴虐】!」
放たれた攻撃を受けてよろめく巨人に、化物の姿のメイプルが突進する。
冷気を押し返すように口から炎を吐いて、そのまま氷の体を引き裂き噛み砕いていく。
「これで終わりっ!」
地面から大量の氷の棘が伸び始める中、メイプルは炎を吹きつけながら最後の一撃を加えた。
すると、ピキピキと音を立てて末端から巨人の体は崩れていき、そうして遂に氷の塊は光の粒となって弾けて空中に溶けていったのである。
「勝てたー……むー、空中にいれば安全だと思ったのになあ」
メイプルは化物の見た目のまま、落ち込んだように体を伏せる。
「お疲れ。ん、スキル獲得?」
「あ、私もだ!確認確認」
サリーとメイプルは予想外の通知に、ステータス画面を開いて獲得したスキルを確認する。
「本当、それどうやって確認してるのか不思議だなあ……」
サリーは化物の見た目のメイプルを見ながらそんなことを呟くのだった。




