防御特化と塔一階4。
イベント中、運営陣は通常フィールドと、今回の場合はイベントフィールドを管理しているのである。
カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響く。
「最高難易度でも中々するすると上っていくもんだな……」
モニターを見つめながら、一人の男がそんなことを呟く。
モニターには現在攻略された階層とその人数が映っており、最高難易度を攻略しているプレイヤーのトップは現在三層の途中といったところだった。
「ですね。まあ、それなりに面倒なボスばかりですし、完走までにはまだかかりそうですが」
それを聞いた男が、どこかでは止まることもあるだろうという風に、作業を止めることなく言葉を返す。
「ただ、全体的にもう少し難易度は上げてもよさそうだな……一つ下の難易度の攻略も全体的に速い」
どの塔も想定していたよりも速いスピードで攻略が進んでいた。最高難易度に行くことが可能なレベルのプレイヤーが、一つ下の難易度に挑戦していることも原因である。
「まあ、始まったばかりですから。どうですか?どこかのボス部屋でも見ます?」
「なら最高難易度でも見ておこうか。ちょうど入ったところみたいだしな」
「分かりました……えっと、はい。映りました?」
「んー……」
どんなものか見るためにモニターを先に確認していた男は目を閉じて唸ると、首を横に振ってから薄く目を開けた。
そこに映っていたのは黒い鎧の少女と青い服の少女。
つまるところメイプルとサリーだったのである。
「まー……んー……まあ、見るか」
男は一般的なプレイヤーの戦闘を確認する予定だったが、それは叶わなかった。
画面の中ではサリーとメイプルが竜からの一方的な攻撃を受けているところである。
「硬てぇ……かってぇ。まーこれを火力で殺せるボスは駄目だしな」
「ですけど、あの竜のブレス貫通効果付いてますよね?」
「予備動作それなりにデカイしなあ」
そんなことを話していると画面の中の二人がブレスに飲み込まれた。
それを見て男は少し驚いたような顔をする。
サリーが回避動作を取っていなかったためである。
「避けませんでしたね。ノーダメージですけど。威力もそこそこのはずなんですが……」
「まあそれは今更。サリーの方も慈愛あるし、まあ。ただ……なら」
男は口元に手を当ててしばらく考え込む。
そして何かに思い至ったかのようにハッと目を見開いたところで、画面の中のメイプルが竜の口に飛び込んでいった。
「何で?」
「いや、爆弾……あっ」
竜の口元から溢れ出す猛毒の波、弾けるレーザーの光、爆発する岩石のものとは思えない豪快な爆発音。竜が地面に潜り込んだところでその体を突き破るように化け物の口が飛び出した。
「爆弾……爆……」
「口の中……口か……」
「何が駄目でしたか?」
「口を開けたこと……だな」
口を閉じているのであれば最早それは動く岩ではないかと、そう二人は思った。
そしてすぐに、そういえば相対していたのも動く岩に近いものだったとぼんやり思ったのである。
「何で岩を投げ込む前に飛び込むんだ!飛び込まなくても勝てるに決まってるのに!」
至極当然な疑問が噴出するが、それに答えてくれる者はここにはいない。
「次のボスは口を開けないので大丈夫です……あんなことはない……ないはず……ないんだ」
「……次のボス?何か思いついていたような?何だったかなぁ」
閃いたと思った直後に竜の口の中で災害を起こしたメイプルの画像が入り込み、男の思いついたことは綺麗に跡形もなく吹き飛ばされた。
「おい、他のやつにも後で見せようぜ。この竜をメインで製作したやつからで」
「え、まあ」
悲劇は共有されるべきだと、そんなことを言う彼は、かつてメイプルが粉微塵にした二層ボスをメインで作った者だったのである。
悲しみは連鎖するようだった。
「次はこうはいかないからな!」
「それ毎回言ってますよね!」
二人はそうして休憩時間に部屋を出て行く。
そして、この映像をわざわざ見せに来られた男は顔を歪めて悲鳴をあげたのだった。




