防御特化と見ないふり。
遅くなって申し訳ありません。
ようやく落ち着いてきました。
また、頑張りますね。
メイプルが部屋全体を毒に沈めようと行動を開始してから数時間が経過した。
【捕食者】とスライムに守られた【ヴェノムカプセル】はすくすくと成長しもうどうにもならないほどに巨大化したのである。
役目を果たした【捕食者】を戻して、ここまではメイプルの思った通りに進んでいたと言える。
そして粘り勝つのは得意だと言った通りに、部屋はほぼ毒に埋め尽くされたものの、思った結果は得られなかった。
「毒は効かないみたい……?うぅ……」
しかし双子は全身を毒に包まれながらも、変わらず剣や槍、炎を放ち続けている。
メイプルは双子をじっと見るが、特に動きが鈍くなることもない。
ただ時間が経つ中で攻撃の狙いはメイプルからスライムに移り変わった。
スライムは幸か不幸か、毒に耐性があったために今もまだメイプルに操られている状態だった。
双子の撃ち出す武器をあまりにも多く破壊させられてしまったために、双子の標的となってしまったのである。
双子の攻撃は部屋を埋める【ヴェノムカプセル】に吸われてスライムには届かない。
また【ヴェノムカプセル】の限界まで増加した耐久値を削りきるには双子の攻撃は非力すぎた。
メイプルはまた倒されないが倒せないという状況に直面することとなったのである。
「んーどうしようかな……攻撃は避けられちゃうしなあ……すっごい近くで攻撃したら当たるかな?」
メイプルは試してみようと毒をかき分けて斜め上へと進んでいく。
部屋全体が毒に沈んでいるため、メイプルは空中を泳いでいるような状態である。
「一応……逃げられないように色々してみよう!」
メイプルはインベントリから何枚かお札を取り出すとそれを毒の海に適当にばら撒いていく。
「除霊のお札なら邪魔してくれないかなー……無理かなあ」
メイプルはその後もいらないアイテムなどを障害物のつもりで乱雑かつ大量に設置し、最後にスライムを限界まで引き伸ばして双子の周りの空間を何重にも包み込んだ。
「よし!じゃあ、失礼しまーす」
メイプルはスライムを操作し穴を開けてするっと中へ入った。
そしてメイプルはそのまま双子の片方の腹部に短刀を近づけ静止する。
「当たってくださいっ!【毒竜】!」
メイプルが願いながら放った毒の塊は、既にほぼ限界まで毒が詰まっていた部屋の中を暴れ回った。
当然、メイプルの周りもぐるぐるとかき混ぜられることとなったのである。
そして、しばらくしてメイプルは少し目を回しながらあたりを確認しはじめた。
「避けられたっぽい?どこ……あ!い、た?」
メイプルが見つめる先には、辛うじて生き残っているスライムに突き刺さり、体にメイプルがばら撒いたアイテムを埋め込みつつ完全に停止している双子の姿があった。
「ん、ん……?」
メイプルにも流石に何となく感じ取れたのは、何か異常が起こっているということである。
「だ、大丈夫ですか?」
メイプルが不安になって手を伸ばし、つんつんと双子の足をつつくと双子が唐突に話し始める。
「あーつかまっちゃったー」
「つかまっちゃったねー」
「「じゃああそびはおしまい」」
そう言うと双子の周りに光が収束して輝きを増していく。
「「またあそぼうねー」」
そう言い残して双子はすうっと消えていった。
メイプルは何とも言えない表情でそれを見届けるしかなかったのである。
「あ!そっか、そう言えばHPゲージがなかったし……倒すわけじゃないんだ。ん、宝箱がある?」
要は以前のイベントでカタツムリに出会った時のように、攻撃以外の手段で何とかする相手だったというわけである。
罠にやられ続けて、仕返しをしようとむっとしていたメイプルにとって見逃していたことだった。
「でも……」
メイプルは宝箱に向かっていく前にまず地面に降りた。
そしてメイプルが【ヴェノムカプセル】を解除するとばらばらと大量のアイテムやランクの低い素材が落ちてくる。
「これは駄目だったかな?……い、急いで帰ろうっと!」
メイプルは素材とアイテムをそのままにして、宝箱の中身を確認せずにインベントリに放り込み逃げるように帰っていった。
そしてその裏側。
数日してから運営陣は修正を行っていた。
「メイプルか!バグみたいな存在でいるのはいいがバグは駄目だ!」
「スライムのなかにいる……?」
「だいたいスライムのせいですよ!!何であんなものランダムトラップに入れたんですか!」
「攻撃認定でなくてもすり抜けられないと埋まりますよ」
「あれさえいなければカプセルも壊せてたのに……」
「落ち着け。幽霊の双子のワープを調整しろ……スライムはだいたいはあのままでいいよ。『罠としては』問題ないし、再現できない」
こうして声が飛び交う。
結果、短時間のメンテナンスが入り、スライム周りと一部ボスが修正されたことが伝えられたのだった。




