防御特化と回収。
「「ふふふ、それー」」
メイプルが構えたところで双子の方から剣や槍が飛んでくる。
メイプルはそれをふわふわと飛んで避けようとするが、余りにスピードが違いすぎるために避けきることができない。
そうしてスライムに次々と剣や槍が突き刺さるが、それはスライムのHPを削ることなくドロドロと溶かされていった。
「おおー!スライムさんすごい!それなら……」
メイプルはぐちゃぐちゃとスライムを変形させ、スライムに浸かって浮かぶことを止めるかわりに、自分の体を覆いつつもスライム製の大きな両腕を作り出した。
「うん、操作しやすくていい感じ!じゃあ……」
メイプルはスライムの手を広げて浮かんでいる双子のうち、緑の服を着た方を掴みにかかる。
「あー。すり抜けちゃうか……スライムさんならいけるかと思ったけど……」
スライムの体での攻撃はきっちり物理攻撃として設定されていたため攻撃は通らない。
そしてその仕返しとばかりに赤い服の少女が生み出した炎がスライムに直撃する。
「あっ!炎は駄目なの!?」
スライムのHPが減っていくのを見てメイプルはスライムでできた腕を引っ込める。
そしてまた体の周りに纏わせると、ここで一旦落ち着いて、何かないかと部屋を冷静に見渡し始めた。
メイプルは部屋を改めて見渡したことでこの部屋が子供部屋のようだということに気がついた。
部屋自体はかなり大きいものの、机やクローゼットなどの基本的な家具や、あちこちに転がるぬいぐるみやおもちゃは、ボス部屋というより子供部屋の印象をメイプルに与えたのである。
「あとは……いっぱいプレゼントが置いてあるだけかな?役に立ちそうなものがあればなあ」
メイプルは今も飛んでくるものを溶かしているスライムを見つめながら言う。
「炎攻撃は任せて!」
メイプルはスライムから飛び出すと腕を振り抜いて炎を叩き落とすように振り払う。
その炎は近くにあったプレゼントボックスに当たり燃え上がる。
「わわっ!だめだめっ!」
メイプルはそのまま素手で炎を問題なく鎮火してほっとする。
そして、プレゼントボックスの中にあった燃えなかった何かがメイプルの手に当たったのである。
「あっ、私の短刀!」
メイプルの手に当たったのは取られてしまった装備だった。
そこでメイプルが短刀を見つけたことを確認した双子が話し出す。
「あー、どうするー?」
「あれいらないしーいいんじゃない」
こうして双子はメイプルの短刀をいらないと言って返した。
「じゃあ……【毒竜】!」
返して貰ったのならと、メイプルが早速装備して【毒竜】を撃つ。
それは正常に発動して三つ首の毒竜が双子に向かっていく。
しかし、双子はすうっと消えると素早く別の場所に転移して毒の塊を綺麗に避け切った。
「「あはは、よわーい」」
「むっ……じゃあ【全武装展開】!」
メイプルはそれならばと銃弾を撃ち出すが、双子が飛ばしてくる物と相殺されてどうにもならなかった。
「それもうみたよねー」
「ねー」
そう言って双子は顔を見合わせてクスクスと笑う。
それを見てメイプルは少しむっとしつつもやることを切り替えた。
「うー。とりあえず残りの装備も何処かのプレゼントの中にあるっぽいよね。それを探してから考えよっと。とりあえずスライムさんは端っこで隠れててね」
メイプルはスライムを部屋の端に移動させると、背中で剣や槍を受けながら一つ一つプレゼントボックスを開けていく。
地面には剣が転がり、壁には斧や槍が突き刺さる部屋の中でメイプルはようやく全ての装備を見つけ出すことができた。
「ふぃー……疲れたー。でも、これでようやく戦いやすくなったね」
装備の行方が分かってしまえば、後は悪戯の過ぎるこの双子にきつくお仕置きをするだけである。
メイプルは装備を探しているうちに一つ作戦を思いついていた。
「逃げるのが上手い人を相手にする時は……逃げ場をなくせばいいんですっ!」
メイプルはそう言うとメイプルなりの悪い笑みを浮かべて部屋の中央へ歩いていく。
「【身捧ぐ慈愛】【ヴェノムカプセル】!」
部屋の中心に現れた天使は、すぐに輝く翼を毒の塊の中に沈めていく。
部屋の中央には紫色の球体が不気味に鎮座している状況である。
「【捕食者】」
そして毒のカプセルの中で得意げにメイプルがそう言うと二匹の化け物が現れる。
「スライムさんもこっちにきてねー」
メイプルに従うしかないスライムもふわふわとやってきて、三体で飛んでくる物を落としていく。
メイプルは【ヴェノムカプセル】が小さいうちはこうして守ってもらうつもりなのである。
「サリーの偽物だって逃げられなかったのに二人が逃げられるなんて思わないでね!」
メイプルの目的はこの部屋を完全に毒に沈めることである。
いくら自在に転移することができても、部屋の中全てが死地であるならば意味などない。
「じっくりやろう?えへへ。粘り勝つのは得意なんだよ!」
メイプルはスライムをあっちへこっちへと操作しながらそう呟いた。