防御特化とお屋敷2。
遅くなって申し訳ありません。
「よっ……と。これであとは上から挟んで……できた!」
メイプルは【救いの手】で空中に浮かせていた大盾を一枚降ろしてくると、体をうまく曲げてそこに寝転がった。
そして上からもう一枚の大盾で体を挟み、伸ばした手で【闇夜ノ写】を前方に構える。
メイプルはまるで二枚貝のように両側から大盾に挟まれて、そして【救いの手】の操作によってふわっと地面から浮き上がった。
「やった、上手くいった!……これで罠は踏まないし大丈夫!」
メイプルはそのまま地面のトラップを回避しながら廊下を進んでいく。
そうしてぐんぐん進んでいくメイプルの目線の先、メイプルは壁と壁をつなぐようにキラリと光る糸があることを見てとった。
「あっ!?ちょっ……!」
メイプルは焦ってうまく【救いの手】を動かすことができなくなってしまい、そのまま前進し【悪食】で見事に糸を断ち切った。
メイプルにとって飛び出してきた槍はどうということはなかったが、メイプルはしてやられたような感覚にむすっとした顔をする。
「【発毛】!」
伸びた毛がメイプルと周りの盾三枚を包み込み、空中に浮いた真っ白な巨大毛玉が完成する。
「知らない、しーらない。罠の音なんて聞こえなーいっ」
メイプルは全身を毛玉の中に収めてそのまま廊下を飛んでいく。
途中何かの罠がメイプルを襲っていたが、そんなことはメイプルの目には入らない。
ギロチンも毒矢も地面や天井から伸びる槍も、全て発動はするもののそれっきりである。
これらの罠は最早メイプルに反応すらしてもらえないものになったのだった。
「壁に当たったら曲がって……一番奥から行こう!いいものは奥にあると思うし。大事なものは奥に隠すよね!」
こうして、浮遊する毛玉は引っかかった全ての罠を潰しながら最奥へとゆらゆら飛んでいく。
そうしてしばらく進んだ時。
「あっ、壁にぶつかったから……左はいけないか。じゃあ右っ!……あれ?」
ふわふわと飛んでいたメイプルは、罠の音を聞きすぎてガシャガシャという起動音に慣れてしまっていた。
「どうしたんだろ……あっ!?」
メイプルは毛玉からにゅっと顔を出す。
そこで、周りを鉄柵に囲まれ檻に閉じ込められていることに気がついたのだった。
「壊れてください!」
メイプルはさらににゅっと手を伸ばすと大盾を突き出して柵に押し当てる。
すると、柵にはきっちりと穴が開いて、檻そのものが光となって消えていった。
「なーんだ、思ったより頑丈じゃなかったね。でもやっぱり顔くらいは出しておこうかな……」
メイプルは顔だけを毛玉から出すと、再び進み始めた。
壁から毒ガスが噴き出したり、床がぱっくりと割れたりしたが、変わらずメイプルは元気である。
「あっ、行き止まりだ。結構進んだし、ここはきっと奥の方だよね?」
メイプルの前には一つの扉がある。
一番奥から手前へと探索することに決めていたメイプルは毛玉から手を伸ばしドアノブをひねる。
「よっ……引っかかって……んんん、入った!」
体を覆う毛を無理やり扉の枠内に押し込むようにして、メイプルはぽんっと室内に入った。
そうしてメイプルが広い部屋の中を見渡す。
壁に等間隔に並ぶ短くなった蝋燭が部屋をぼんやりと照らし出す。
メイプルには傷だらけでボロボロになった床や壁が見え、また壁際には使い込まれたように見える甲冑がいくつも並んでいた。
甲冑の手には武器があり、遠目に見てもまだまだ使えそうなくらいである。
そして正面にはより豪華な甲冑があり、メイプルはそれに目をつけた。
「あれかなー?何かあるよね?」
メイプルはふわふわと近づいて行こうとするが、部屋の中央まで来たところで、地面に一枚の紙が落ちていることに気がついた。
「おっとと……高さを下げて」
メイプルは地面にふわっと降りると、毛玉から手を出して紙を拾い上げ内容を確認する。
「えっと、こういうのって手記?だっけ。起動させた罠の数だけ強く……?うわぁっ!?」
メイプルがそこまで読んだところで、天井から鎖が何本も音を立てて滑り落ちてきて、一瞬のうちにメイプルを縛り上げていく。
メイプルが何か反応するよりも先に鎖はグルグルと巻きついて、そのまま毛玉状態のメイプルは空中で動けなくなってしまった。
メイプルは【救いの手】で盾を動かしてみるが、ゆらゆらと揺れる程度で逃げられない。
「ど、どうしようかな……」
メイプルが吊り下げられている中、ざっと二十体はある周りの甲冑がゆっくりと動き始める。
一つだけ豪華な見た目をした甲冑はそれよりも機敏に、まるで人が中に入っているかのように動き出した。
「さ、作戦ターイム!」
メイプルは毛玉の中に頭を引っ込めると、状況を整理しはじめたのだった。