防御特化と闇の中3。
「ええっ!?な、何も見えないんだけど!」
メイプルはもう一度ランタンを使ってみるものの結果は変わらなかった。
「ど、どこ?うわぁっ!?」
慌てるメイプルを背後から冷たい手が掴み上げた。
その手には【STR】と【AGI】を一時的に奪い取る効果があったが、幸いにもメイプルには全く効果がなかった。
「くっ、うう!抜けられない……」
ただ【STR】がそもそもないということは霊の腕から逃れられないということでもある。
霊の手はそのまま十数秒かけてメイプルをゆっくりと上空へ連れ去っていく。
「ダメージが……うぇっ!?」
メイプルはダメージの予感に目を細めたが、前回と違って痛みはやってこなかった。
しかし替わりにメイプルのHPが全損して、【不屈の守護者】が発動し、メイプルは地面に落とされたのである。
落下ダメージはないものの、もう一撃受ければメイプルも生き残れない。
「うっ、ええ?どど、どう……!」
困惑するメイプルにとって一つ分かりきっていることは、もう一度あの攻撃を受ける訳にはいかないということだった。
「ぎ、玉座!どこっ!?」
メイプルは暗闇の中を走り出し、どこかに置きっ放しにしてしまった玉座を探す。
一度戻してしまえば再使用まで時間がかかるため、逃げ切れない可能性が高いため戻す訳にはいかないのだ。
ただ、メイプルがそこまで考えていたなどということはなく、ただ目の前の危険から逃げようと走り回っているだけだった。
それが偶然良い一手となったのである。
「見つからない……っ!」
メイプルは背後から何かが来ていることを感じて右へ左へとにかく逃げる。
そうして少しずつ落ち着いてきたメイプルは色々と選択肢を考え始めた。
メイプルは自爆飛行で距離を稼ごうと一旦は思ったが、自爆による飛行は見えない敵にそのまま激突すればそれまでであり、試すことができるものではないと諦めた。
現状走って逃げるしか道はないが、時折冷たい風が背中側から感じられ、メイプルは顔を青くする。
メイプルは荒い息を吐きながら逃げ回り、そしてもう一つ思いついたことを実行する。
「シロップを戻して……よし、【精霊砲】は溜まってる!これなら……玉座も戻そう!」
メイプルがこれなら何とかなるとまた走り出そうとしたところで何かがメイプルの足に絡みついた。
「えっ……」
メイプルが右足を見ると、地面から伸びる白い手が足に絡みついているところだった。
「うううっ!離してよっ!あっ……」
メイプルの体を冷たい両手が包み込む。
手によって地面に縫い止められているため、上昇はしないが死は近づいている。
メイプルは咄嗟にシロップを呼び出したものの思考がまとまらずまともに指揮を取れなかった。
「えっえっ!あっ、どど、どうしよう!」
そして慌てるメイプルは残り少なくなった時間でできること、染み付いたものを反射的に行ったのである。
「【捕食者】【滲み出る混沌】【百鬼夜行】【毒竜】【精霊砲】【大自然】!」
メイプルの背後に妖怪が列を成し、暗闇に二人の鬼が立ち上がる。
両脇からは顔のない化物が二匹現れ、メイプルの正面へは化物一匹が毒竜と共に抜けていく。
闇の中の地面を貫いて太いツルがうねり、轟音と共に精霊砲が毒竜の後を追う。
鬼の吐き出す炎が闇の中を火で覆いつくし、化物の咀嚼音と、金棒の叩きつけられる音がツルの伸びる音の合間に鳴り響く。
「うううううっ!」
メイプルは取り出したお札を包み込んでくる手に向かって一心不乱に貼り付けていく。
次の瞬間にはやられてしまっているかもしれないという初めての不安がメイプルを襲っていたのである。
しかし、メイプルがHPを奪われる前にパリンと音がして暗闇に眩しいくらいの光が差し込んでくる。
「はぇ……?」
暗闇がガラスが割れるように外側から崩れ落ち割れた先からどんどんと光が溢れてくる。
そうして暗闇は完全に消えて、闇の中だった空間は白い部屋へと変わっていった。
「はぁ……えへへ、ありがとう」
メイプルは安心感からか背中からぱたりと倒れてそのまま上を見る。
そして、メイプルは自分を見下ろしている諸々に向けて優しく微笑んだのだった。