防御特化と幽霊屋敷。
六層へやってきてから少し。
今日も今日とてメイプルはログインしていた。
今は、白い方の装備のメンテナンスのためにギルドホームにいるところである。
メイプルは傷付かずとも装備は傷つくのだ。
メイプルはイズから装備を受け取って、【クイックチェンジ】の枠にセットし直した。
「よし、今日も探索しよう!」
メイプルがギルドホームから出ようとした所で、扉を開けて意外な人物が中に入ってきた。
「えっ?サリー?」
「あ……メイプル」
「結局来たの?」
サリーはメイプルにここへ来た理由を話す。
理由としては、どうしても逃すわけにはいかないあれこれがあった。
しかしフィールドへ出てすぐに無理だと悟って、誰かに助けて貰おうとしたというものだった。
「おっけーおっけー。じゃあ、私が手伝うよ!ちょうどやることも特になかったし」
「本当……ありがとうございます……」
「じゃあ、早速行こう!」
こうしてメイプルはサリーの手を引いてギルドホームを出ていった。
メイプルはサリーの手を引いたままフィールドへと出て、シロップを呼び出し巨大化させると、甲羅の上に乗って甲羅を優しく撫でて話しかける。
「よろしくね。【身捧ぐ慈愛】!【天王の玉座】!」
シロップの甲羅の上に玉座が出現し、メイプルはそこに座った。サリーはその前の甲羅の上に座って目を細めている。
メイプルはそのままシロップを浮き上がらせて待機させた。
「サリー、目的地は?」
「町から西に行った所に洋館があるから……そこに」
「分かった。西だねー」
メイプルはシロップの向きをぐぐっと変えると西へ向かって進み始めた。
「はぁ……ここからだ……嫌だ」
サリーは両手で顔を覆って甲羅の上に座り、丸まっていた。
ふわふわと順調に進んでいたもののメイプルが唐突に声を上げる。
「あっ!」
「え?なに……」
メイプルの声に反応してサリーが顔を上げる。
すると、目の前には青白い顔をした女性が浮かんでいた。
それはサリーの顔にすうっと手を伸ばして触れてくる。
「…………!!」
「【砲身展開】【攻撃開始】!」
サリーがメイプルに飛びつくのと銃弾で霊の姿が霧散したのはほとんど同時だった。
「結構近くに出てきたね」
「あ、っあれ!だ、駄目でしょ!」
サリーがメイプルにひっついたまま、虚空を指差して言う。
「玉座のお陰でただ触ってくるだけだから安心して!」
「うぇぇ……」
「でも倒せてないっぽいんだよね。すぐまた寄ってくるし。あ、二人来た!」
辛そうな呻き声を上げながらふらふらと霊が寄ってくる。
「除霊です!」
マフラーを顔に巻き始めたサリーはそのままにしておいて、メイプルは霊を追い払っていった。
しばらくして、眼下にボロボロになった大きな洋館らしきものが見え始める。
その周りは他の場所に比べ霧が濃く、全体をはっきりと確認することはできそうになかった。
「サリー!着いたよ。えっと、多分……確認して?」
「何もいない?」
「んー、いないね!大丈夫」
メイプルが周りを確認してサリーに伝えると、サリーはマフラーをずらして隙間から下を確認する。
「うん。大丈夫、合ってる。よし……よし!行く!」
「じゃあ降りるよー」
メイプルがゆっくりとシロップを降ろしサリーの手を引いて地面に降りる。
そして、玉座を消してシロップを指輪に戻した。
洋館の中では巨大化したシロップはまともに動くことができないからである。
流石に探索をするというのにマフラーを顔に巻いているわけにもいかないため、サリーもいつも通りの格好に戻った。
「一回駄目だと思ったら無理……心を無にする、無にする……」
「行くよ?サリー」
「ま、待ってまだ心の準備が……」
「……一時間かかっても終わらなかったのを知ってるから、私は心を鬼にします!」
メイプルはかつてサリーがお化け屋敷に入る前に、一時間の心の準備の後に涙目逃走したことを覚えていた。
メイプルはまだ兵器を展開したままである。
よってサリーを逃げさせないために、半開きの扉に向かって自爆飛行で突っ込むという選択をしたのも仕方なかった。
サリーの性質を知るメイプルのする多少の強引はサリーのために他ならない。
「豪快におじゃましまーーす!」
「あああああああっ!!
そして、轟音とともに二人は屋敷へと突っ込んでいったのだった。