防御特化と六層へ。
時は過ぎて三月の初め。
とあるダンジョンに次の階層へ進むことができる道が用意された。
先行部隊に続いて、メイプル達【楓の木】もダンジョンへと向かおうとしている。
「今回のボスは雲でできたクラゲだとさ。状態異常を何種類か使うらしいな」
カスミが簡単にボスの情報を話す。
クロムとサリーはそれを聞き、そしてクロムが口を開いた。
「物理攻撃は効くか?」
「ああ」
「今日は……ユイとマイもいますね」
サリーが補足する。
それを聞いてクロムがもう一度質問する。
「貫通攻撃はあるか?」
「今のところ確認されていない」
カスミがそう言うと、クロムは一つ大きく息を吐いてにこやかに言い放った。
「勝ったな」
「ですね」
「そうだな」
今日は今のところ全員がギルドホームにいる。
であれば、完璧な状態でボスを叩くことが可能となる。
三人が勝ちを確信するのは慢心などでは決してなく当然であった。
三人がそんな話をしているとギルドホームの奥から、イズを先頭にして残りの五人がロビーに出てきた。
「行くか!ぱぱっと終わらせて六層だ」
「じゃあシロップに乗って行こう?」
メイプルの提案に全員が賛成して、【楓の木】一行はシロップの背中に乗って、ふわふわと飛びながら雲の海を行くこととなった。
「到着!」
メイプルが地面にシロップを降ろし、頭を撫でてから指輪に戻す。
八人の前には雲でできたダンジョンの入り口が、まるで出迎えるように口を開けていた。
「じゃあ行こう?」
「メイプルが先頭、俺とカスミで最後尾を行く。まあ念のためってだけだ」
クロムの言うようにまさに念のための行動である。なぜならそう言っている途中で既にメイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動しているからだ。
「まあ、突然スキル解除が飛んでくるかもしれないからな……」
ユイとマイを中心として細い通路を進んで行く。
ユイとマイは大抵の場合、ボス戦までは守られる立場となる。
「まあ、私はメイプルだけでも勝てると思うが」
「俺もそう思うよ」
カスミとクロムがそんなことを話している中、メイプルの大盾が突っ込んできた雷雲をいつものように飲み込んでいたりした。
「進めー!すっすめー!」
細い道では盾を突き出しているだけでも十分過ぎるくらいである。
もしも、一人きりならば通路は毒で埋まるのだから今回は優しい方と言えるだろう。
メイプルの行進を止めることができるモンスターがいればそれは最早雑魚として道中にいるべきものではないのだ。
サリーが進む方向を教えている以上、メイプルがボス部屋の前に辿り着くのは容易いことだった。
ボス部屋の扉を開け全員が中へと踏み入ると、全て雲でできた部屋の天井部分が膨らみ始める。
そして、その部分が千切れゆっくりと触手状の雲が伸びてクラゲの形を成していった。
「おおー柔らかそう!」
「多分毒があると思うけどね。メイプル、適当に相手しててくれる?」
「おっけー!」
メイプルは迫ってくるクラゲと、わちゃわちゃとふれあい始める。
その触手が持つ麻痺効果はメイプルには効かないため、本当に触り心地がいい程度である。
強く叩かれようが変わらず、むしろ触手が弾かれているといった状態だった。
そしてその後方、メイプルの庇護下のギリギリの位置で五人がユイとマイを強化していく。
そしてしばらくして。
「よし。はい!終わりました!」
「大丈夫です……!」
準備が整った二人は身の丈よりも大きな大槌を二本持ってクラゲの元へと歩いていく。
「あ、クラゲさん。ごめんね?私達も倒さないと駄目だから」
近づいてくる二人に気づいたメイプルは、少し名残惜しそうにふわふわとした触手を離すとクラゲから離れた。
「「【ダブルスタンプ】!」」
クラゲはその身を打ち据えられて、吹き飛ばされてポロポロと崩れ雲の塊となってしまった。
「物理耐性がないのが悪かったと僕は思うなー」
「あら、私もよ」
主にユイとマイを強化して一撃レベルにまで持っていったのは二人である。
ただ、惨状の原因の一つであるカナデとイズの言うことも一理あるとも言えた。
こうして、特に苦戦などすることもなく八人はまだ見ぬ六層へと向かう。
「どんなところだろうねサリー」
「さあ?まあどんなところでも大丈夫だけど……糸使いで攻略できるところだと嬉しいな」
そして、新たな階層へ続く出口が見えてくる。
八人の前に広がった景色は、一面の荒野とそこに残る古びた墓標だった。
薄暗く少し霧のかかったエリアは空からの月の光を受けて不気味に見える。
「おー……ん?」
景色を見ていたメイプルが右手を握られてその方を向く。
「だ、だいじょうぶじゃなかった……」
そこには見るからに顔色の悪いサリーがいたのだった。
つまりよくあるホラーゾーン、それが六層としてやってきたのである。




