防御特化と雨エリア2。
とはいえ、第二段階に移行したところでやることは基本的に変わらない。
メイプルはともかく、カスミとサリーの頭の中にはボスの攻撃手段や段階ごとの変更点がきっちりと入っている。
そのため、第一段階を突破できた時点でおおよその勝利は見えていたのである。
「落下速度が上がったか。サリーは……対応しているな」
段階ごとに落下速度が上がり、また少しずつ量も増えていく。
メイプルがボスをほぼ永続的に引きつけているため、カスミは空を注視して、サリーが間に合わなかった場合に備えていた。
そんなカスミはサリーがあまりにも雨粒を封殺するため、空を見るというよりはサリーを見るという風に移行していった。
「サリーまで空を飛び始めたか……いや、メイプルと比べるとなんとかなりそうではあるが」
サリーは氷柱の間を飛び移っているのであって、何もない場所を飛んでいる訳ではない。
「サリーなら森の中でも自由に飛び回りそうだな。いや、むしろ機動力が上がるかもしれない」
カスミがそんなことを考えていると、ボスの核がまた移動し、先程より数が少し増えたボスの写しが現れる。
「【血刀】!」
カスミのHPを代償に再び赤い刃が広がっていき、今回もまた全ての核を攻撃することに成功した。
「まだ余裕があるか。うん、【紫幻刀】よりは幾分使い勝手がいい。少し威力は低いが……」
カスミが役目を果たしたところで、ボスがようやくメイプルから離れて近場にいるカスミを狙い始めた。
ただ攻撃そのものが遅いために、【AGI】がそれなりに高いカスミを捉えるには至らない。
動きが遅いどころか動かないメイプルだからこそ一方的に攻撃できていたのである。
「そろそろ遠隔攻撃も使ってくる頃か」
おまけに行動パターンは把握されているのだから、そもそもどうにもならなかったのだ。
結局、サリーは雨粒を一切地上に落とすことなく捌ききり、ボスに有利なフィールドを作らせることはなかった。
また、メイプルの弾切れも起こらず、カスミが倒されるようなこともなかった。
全ては予定通りに終わったのである。
最後の血の刃がボスの核を貫いてボスはドロドロと溶けて崩れ落ちていく。
「あー、秘密兵器の玉座が……使えなかった」
少し悲しそうにするメイプルの前で氷の柱を伝ってサリーが降りてくる。
「はー……初めてまともに実戦で使ったけど、あー疲れた。飛び回るレベルでは設計されてない感じだし仕方ないか」
ぶつぶつと呟きながらメイプルの方へ歩いてきてぐっと伸びをする。
「サリーすごかったね!」
「んー、そう?嬉しいな。これでメイプルの横を飛ぶ……は流石に無理だけど、どこかで一緒に空中戦ができるかもしれないね」
「おーい、二人共!ドロップアイテムだぞー!」
カスミに呼ばれて二人がカスミの所まで行き、アイテムを受け取り、それぞれ効果を確認する。
「なるほど、降ってた雨と同じものが打ち出せる水晶か……同時に最大三つ出せると。再使用までは一分か」
サリーは、小さく頷きながら効果を口にする。
「ただ、何かしらダメージを受けると消えるみたいだ。どうだろうな……サリーなら足場にすることもできるか?」
「それは考えてた。試してみないとね」
サリーは【氷柱】と組み合わせることでより長く空を駆けることができると考えたのである。
そのためもあって今回ここに来たのだった。
「私はどうしようかな……誰かが目の前に来た時にでも使ってみようかな」
目の前にまで近づいた所で使われたならば面倒ではあるが、メイプルに咄嗟にそれを使うことができるだけの余裕があるかどうかは疑問である。
この階層でやることも終えて、次のイベントかもしくは階層の実装を待ってメイプル達は日々を過ごすこととなる。
「帰るか」
「そうだね、そうしようか」
「……【天王の玉座】!」
メイプルの声と共にメイプルの背後に白い玉座が現れる。
「えっ……!?」
「ん!?」
二人はどうしたのかとメイプルの方を見て、周りを確認する。
「んふー、見せたかったんだよね。どう、びっくりした?綺麗でしょー!」
そう言ってメイプルは笑顔を見せる。
「いやー……綺麗さとは別の意味でびっくりしたよ」
「ああ、だがいつも通りで少し安心したな。私は」
「……?」
カスミの言っていることが上手く掴めないメイプルだった。