防御特化と光の王。
メイプルが玉座に近づくと、それに反応したのか白い光が玉座に集まってきて収縮していく。
そして、それは大きい玉座に見合うだけの大きさの人型を形作った。
その頭には冠が輝いており、年老いた顔には光が形作った顎髭が揺れている。
身につけている豪華な服はまさに王族を思わせるものだった。
王の周囲には次々に魔法陣が展開されていき、玉座から広がっていく白い光は地面を這って進んでいく。
言葉を交わすこともなく。
そのままメイプルに向かって、魔法陣から光でできた矢が撃ち出された。
「よーし……【暴虐】!」
メイプルを覆っていく外皮は、飛来する光の矢をことごとく弾き飛ばしてしまう。
「しゅっぱーつ!」
メイプルが地を駆けていく。
そうしてメイプルが玉座から広がる白い輝きに覆われた地面を踏み抜いた時、その強固な外皮は溶けるように消えてしまった。
「え!?うわっ!」
メイプルは突然放り出されたために、地面をゴロゴロと転がっていく。
やっと止まったその時にメイプルは何が起こったのかと辺りを見渡した。
光の矢は相変わらず撃ち出され続けており、王の姿も玉座にあった。
「じゃあ……【毒竜】!」
メイプルが声を上げるが、しかし突き出した短刀から見慣れた毒の奔流が顕現することはなかった。
「え?あれ……?【捕食者】!【滲み出る混沌】!【全武装展開】!」
頼りになるスキルを使っていった結果、兵器を展開することはできたものの、それ以外は全て不発だった。
広がり続ける輝く地面。
それはそこにいる者の邪悪なスキルを封じる聖なるフィールドである。
光の王と比べてメイプルの持つあれこれはあまりに邪悪が過ぎたのだった。
「【攻撃開始】!」
メイプルが銃弾や砲弾、レーザーを撃ち込もうするものの光の矢の方が量が多いこともあり、ほとんどの攻撃が払いのけられてしまっている。
さらに、ようやくメイプルの攻撃が届いたかと思えば、それはそもそもダメージを与えられすらしなかった。
メイプルの銃撃は基本、一撃の威力より手数で押すものであり、ある程度の防御力を持つ相手にはそもそも効果がない。
攻撃力が固定されているため、今のまま使っていたとしても、先へ進むごとに効力は下がっていくのである。
「んー……どうしよう?ダメージは受けないんだけど……【悪食】も発動してないし」
メイプルは大盾が矢を普通に弾いていることを確認して途方に暮れる。
負けないが勝てないという状態である。
どちらもほぼほぼ尽きることのない遠距離攻撃を続けているだけで戦況は変わりそうになかった。
「とりあえず近づいてみようかな」
メイプルは全身に当たる矢を弾きながら玉座から動かない王を目指して歩いていく。
そして、メイプルはその足下まで辿り着いた。
「攻撃……は無理だよねー……」
メイプルは短刀で足先をちくちくと突いてみるものの当然ダメージはなかった。
盾で叩いても、シロップを呼び出して攻撃をさせても状況は今のままである。
メイプルはしばらくそこで立ち尽くしてその後ぽんと手を叩いてくるりとボスに背を向けた。
「撤退!てったーい!」
どうしようもないことを理解したメイプルは背中で矢を受けながら雷降る雲海へと戻っていった。
そうして雷に打たれながら通常フィールドまで帰ってきたメイプルは、立ち止まって打開策を考え始める。
「何かなかったかなあ、うーん……あ、そうだ!確か町を歩いている時に聞こえてきたあれがどこかにある!」
メイプルは何かを思い出して、シロップに乗ってゆっくり町へと飛んでいく。
「お店が並んでいる場所があったから、そこから見てみよう」
メイプルは手持ちのお金を確認しながら町の手前でシロップから降りた。
「あるかなーあるかなー……一層にはあったって言ってたはずだけど」
メイプルが一つ一つ店を巡って品揃えを確認していく。
そして店を回ること一時間。
メイプルは所持金の多くを使って多くのアイテムを買い込んだ。
「よーし。色々揃えたし、役に立つか分からないのもあるけど……明日もう一回挑戦してみよう!」
最後にインベントリに詰め込まれたアイテムを確認してメイプルはログアウトして現実世界へと戻っていった。




