防御特化とゴーレム。
ペイン達は五人で固まって進んでいく。
後衛の方が多いのもあり、駆け抜けるような進行ペースとはいかなかったものの、余裕を持ったお陰で安全が確保できている。
ペインはもう少し早ければメイプルもついて来ていたかもしれないとクロムに言ってみせた。
「メイプルがいたのか?」
「ああ、四人に会う少し前までは行動を共にしていた。いや、本当強かったよ。相変わらずな」
「俺はまだ直接戦ったことはないからな。いつかはやってみたい……いや、泥仕合になるか」
クロムもサリー程ではないが、それなりにメイプルと長くいるのだ。
盾を使ってきたプレイヤーの一人として、どうすればメイプルの攻撃を受け切ることができるか、そういったものは確立されてきていたのである。
ただ、それは勝てるということには繋がらない。
クロムはメイプルから生き延びられる可能性を持ってはいるものの、倒すことはできないのだ。
「いつか機会があったら全力でやるけどな。それなりにしぶといよ、俺は」
クロムはそう言って右手で自分の胸をぽんと叩いた。
「メイプルが今のままなら……あと数手で刺せると思うんだが」
「お、やるな。まあメイプルは制御できないから、いつどうなるかは俺には分からん」
今までもそうだったとクロムは言った。
停滞と急速な成長を繰り返しているのがメイプルなのである。
もっとも、その周期を予測できる者など本人を含めても誰一人としていないのだが。
「皆さん、ゴーレムです!戦闘体勢を!」
警戒しつつ、話しつつ。
そうして歩いているうちに、ペイン達は目的地であるゴーレムの溢れかえるエリアにたどり着いていたのである。
苔むした遺跡の跡が残るその場所には、木々よりも折れた柱や瓦礫などが目立っていた。
ミザリーは声をかけると同時にペインとクロムにバフをかけていく。
「ちょっと……今回は出番はないよね。罠を準備しよう」
道中用の罠から大型モンスター用のコストがそれなりにかかる罠に切り替えていく。
そんなことをしているうちにペインの剣がゴーレムの石の腕をスパスパと切り裂いていた。
「一体なら、問題ないなっ!」
ペインは体を捻り、ゴーレムの拳を避けると【跳躍】して胴体を斬りつける。
ペインにとって、既にゴーレム一体というのは防御行動が必要になる相手ではなかったのである。
結局、ペインは一人でその背丈の数倍はあるゴーレムを屠った。
時間も一分とかからなかった。
そうして剣を鞘に収めたペインにクロムが駆け寄ってくる。
「おい、ペイン。見ろ」
「ん?これは……」
ペインがクロムの指し示す方向を見る。
砕けた柱、苔むした遺跡の残骸。
その影から現れるゴーレム。それだけではない。遠くから次々とゴーレムが湧き続け、音を立てて迫ってきていた。
その先に行こうとする者を拒むように。
ペイン達が見ている中、景色全てを覆い尽くす程の勢いでゴーレムは増えていく。
「ペイン、どうする!?」
「最小限だけ倒して抜ける!」
「了解!」
クロムとペインは短く言葉を交わすとそれぞれに武器を抜いて盾を構えた。
ミザリーは【AGI】上昇のバフを全員にかけ、走り抜けるための準備をした。
「両サイドは罠で一旦止めるけど……長くは持たないから」
「とりあえず、魔導書。んー貫通力のある……これかな」
カナデが黄緑の魔導書を取り出す。
戦闘が始まろうとするまさにその時に、その魔導書は光り輝き力を発揮した。
五人の頭上で風の吹く音がし始める。
それは次第に大きく強くなり、方向性を持って吹き抜けた。
もはや爆発音に近い轟音。
空気の槍がゴーレム数体を貫き吹き飛ばした。
土煙が舞い、地響きが五人に伝わってくる。
「ダメージは見た目程大きくないから、急いで!」
カナデの言葉に従って、ペインを先頭にゴーレムの群れに突っ込んでいく。
「君たちは……動かないで……」
青白い光が両脇のゴーレムの足元から迸り、その動きを制限する。
マルクスのMPはどんどんとなくなっていくが、ミザリーが即座に自身のスキルで補っていく。
ミザリーが回復させられるのはHPだけではないのである。
それなりに制限はあるため、使い放題とはいかないが、切り抜けるには十分に役立った。
「キリがない!本当に相手していられないぞ」
クロムが重い拳を地面へ受け流して上手くいなしながら叫ぶ。
倒していくにはあまりに多く、駆け抜けるにもなかなか厳しい。
そんな時だった。
一体のゴーレムの頭部が爆炎と共に消し飛んだのは。