防御特化と捻れた大樹。
三グループがMP増加スキルの元へと集まっていくそのうち、クロムとミザリーはモンスターの群れとぶつかっていた。
「食らっとけ!」
クロムの鉈が苔むしたゴーレムに食い込む。
メイプルとは違いある程度の攻撃力を持つクロムは、それなりに敵にダメージを通すことができるのである。
しかし、敵はゴーレムだけではない。
戦闘中のクロムの隙をついて狼や猿といった動物型モンスターが攻撃しようとする。
「させません!」
ミザリーの放った光の弾が近づいていたモンスターのうち何体かを吹き飛ばす。
そのおかげでクロムは盾での防御が間に合った。
このエリアにおいて回復ができないことは二人の性能を数段階落としている。
本来この二人が組んだなら、ミザリーの回復魔法とクロムの自己修復により、クロムが不落の要塞となるのだが、今回は実現しなかった。
そのため、二人は平常よりかなり気をつけて進まなければならない状態である。
「くっそ!キリがない!」
「逃げましょう!確かモンスターから逃げるためのアイテムが……ありました!」
ミザリーは素早くインベントリを操作すると、白色のボールを取り出し、すかさず地面に投げつけた。
広範囲に白い煙が上がり、モンスターの視界を埋めていく。
その隙に二人はそそくさとその場を後にした。
「ふー……流石にそろそろ俺の能力では厳しいか」
「はぁ……私もアタッカーの人がいた方がやりやすいですね」
「メイプルか、ユイマイがいればな」
「ミィさんか、シンさんがいるとより心強いのですが」
そんなことを言いつつ、二人は度重なる探索により出来上がっているジャングルの中心へのルートを歩いていった。
二人が道中の戦闘に苦しんでいたのと時を同じくして、カナデ達二人もモンスターと接触していた。
「きたね……」
マルクスは特に何かすることもなくそのまま真っすぐ歩いていく。
隣のカナデも本棚を展開しているものの魔導書を取り出す様子はない。
そして、接触するというところで地面から伸びた太いツルがモンスターを締め付けた。
マルクスの頭上では何体ものモンスターが、バタバタと手足を動かしてツルから逃れようとしているが、上手くはいかない。
「はい、爆破……」
ツタの周りに赤い魔法陣が出現し、モンスターを巻き込んで爆散する。
かなりのダメージを負っているモンスターに対し、マルクスは魔法で追撃をしてとどめを刺していく。
「おー、流石だなあ」
「捕らえられれば大丈夫、大丈夫」
マルクスはテンションこそ高くないものの少し得意げな表情を見せた。
そんなマルクスの視線の先に、自身の背丈の数倍はある苔むした石のゴーレムが現れる。
赤く光る目とマルクスの目がしっかり合った。
「あ、無理……あれは無理です」
「うーん、なら使い所が少なそうなものから……【死神の声】」
カナデの本棚から一冊の黒い本がふわりと抜けて降りてくる。
ポツポツと血の跡のある黒い表紙の本のページがバラバラとめくれて、体の底に響くような低い音が鳴り出す。
そうして少しすると大きなゴーレムは底なしに暗い闇に包まれ、次いで光の粒となって消えていった。
「おー、効いたみたい。低確率即死」
「運がいい……?」
「それなりに」
二人は止めていた足を再び動かし始める。
クロムとミザリーと比べれば遥かに順調に探索は進んでいた。
所変わって、木々の並ぶジャングルの最も騒がしい所。
すれ違うモンスターを跳ね上げ、燃やし、轢き潰す。逃げようとする者には光る斬撃が飛ぶ。
そこにはモンスターが寄ってこようが関係ないという風に、ジャングルを爆走するメイプルと、それに乗ったペインがいた。
「ん?メイプル、止まれ。何か見えた」
「え?はい!」
メイプルがまた一体モンスターを倒したところで立ち止まる。
二人のいる場所から少し遠く、まるで途中から溶けてしまったかのように、不自然にぐにゃりと曲がった木々があった。
二人はその近くまで向かっていく。
歪んだ木々の森をさらに中央へと進んでいくと、何本もの太く大きな木が絡み合ってできた大木が現れた。
木の根元には入口があり上へと繋がる木の階段が見える。
「あ、これは……」
メイプルは入口の大きさと自分の体を見比べる。
どう考えても入れそうにないサイズ差だった。
メイプルは仕方なく【暴虐】を解除する。
そうすると、化物の腹部が裂け、メイプルはべしゃりと地面に落ちた。
ペインはそれをじっと見た後、入口周りの安全を確認し始める。
「問題は、ないか」
「私が前を行きますね!」
メイプルがぐっと大盾を掲げて宣言すると、ペインは静かに頷く。
そして、二人は木の階段を慎重に登っていった。